第123話 追い掛ける道標

「え、ええ!?姫様?」


ガシャン、と派手に割れた茶壺と私を交互に見て慌てているメルガルドは、どちらを優先しようかと悩でいる様だ。

どうぞ、茶壺をお片付け下さいな。


「それじゃ、深淵にーーーー直接乗り込むのかい?」


埴輪顔から復活したフロースが、引き攣りながらも言う。

私はキリッとしながら頷いて見せる。


忌み地に行ってから、【扉】を開いてもらうにはライディオス兄様を呼ばなくてはならないしーーーー。


そして、信仰心によって、僅かにでも力を得たかも知れないアステールが、サジルの能力を放って置くはずが無い。

そう考えた私は、アステールが開かれた扉から隙を付いて、脱走する事を防ぐ為に、勝手口からお邪魔をしようと思ったのである。

村が四つ消えた事を思えば、予想は当たらずとも遠からずだ。


まして、アステールとライディオス兄様が、万が一エンカウントしてしまったら、ヤダそれ、なんてカオス。


「ティティの中和、私の祝福の付与が付いて、尚且つ小細工された手枷が目印になるし、それを道標にして行けるかな、と」


ポポや、チュウ吉先生との繋がりを使おうとは思わなかった。

フィリアナは子を宿しているので論外。

それなら残る選択肢はサジルになる訳で。


ティティの中和は実にいい仕事をしてくれている。

中和はサジルに向かって発動しているので、外部からの干渉は妨げないし、私の祝福を良い具合に隠してくれているのだ。


「流石にここから行こうとはしてないよ?一度ガレールに行って向こうの様子も探りたいし、忌み地に行ってから【飛んだ】方が迷わなそうだしね」


焦ってとんで、違う空間でしたーーーーなんて笑えない。


「あの場ーーーー大牢獄には、私の術が施してあるのですが、まさか?」


「ーーーー俺が、一部を消した。後で修復を頼む」


ラインハルトが、それは巧妙に、慎重に消してくれたのだ。

外部からの接触が繰り返されると、薄れて行くように。あたかもその攻撃で壊れて行くかにように思わせる様に。


「ーーーーまぁ、フィア様に器用な真似が出来るとは思ってはいませんでしたが。力技でどうにかするならば兎も角」


ーーーー泣いていいかな、ロウさんや。

私はどれだけ不器用だと思われているんだろう。

本当の事なので、反論出来ないのが悔しい。


「結果的には、私が動くよりも先に、ポポ達が向こうに飛び込んで行ってしまっった訳だけど」



心配は尽きない。

契約による絆が消えていないとは言え、どのような状況下にあるのかが解らないのだ。

無事でいるとは思う。

だが、不気味な程に、繋がりに何の揺れも感じないのが内心で動揺を呼ぶ。


いつもならば、何となく機嫌が良いとか、しょんぼりしているとか位はわかるのに。

これが、薄くなっている所為で感じなくなっているならいいけど。


そうではないならーーーー?


溜息が重くなる。

痛むこめかみを揉みほぐしながら、私が突然消えた時の周りの心配を思い知る。


チュウ吉先生達と私の間にある線は消えていないけど、私の場合は気配も追えず、プッツリと途絶えたのだから。


ライディオス兄様達が発狂寸前って、大袈裟な事でもなかったんだよね。


と、自己嫌悪に陥っていると、技芸の硬い声に意識が現実に浮上する。


「姫様は、かの者を屠られるおつもりか?」


豊かな表現力を持つ技芸らしくなく、淡々とした声には感情が見られない。


屠るーーーー技芸が言っているのは、私がアストレアに対して行ったものでは無く、言葉の意味、そのものだ。


改めて聞くとなんとも恐ろしく響く。

ちょっとだけ狼狽えてしまった。


「正直な所をいえば、まだ解らない」


ただ、アステールは中途半端に力を付けた以上、私にちょっかいを掛けて来る事は増えるだろう。

なんせ、器としてこの身体を欲しがっているのだし。


屠るのはーーーー出来ない事は無い。

やってしまえば、案外あっさりと出来てしまうだろうけど。


ポポとアステールの関係上、片方が消滅してしまうと、その影響が何処まで出るのだろう?


同じ身体を共有していた神核。

チュウ吉先生によって、ポポーーーーアスターが身体から切り離されたけど、魂的な繋がりはどうなんだろうか。

アスターが消滅していない事は知っていそうだ。

ならば、切れていないと考えた方が良い。


アステールを屠った事で、アスター••••ポポが消滅するのは嫌だ。


「それしか方法が無いならば。仕方がない事かもしれませぬーーーーが、姫様が迷うておられるのは、他に方法が?」


技芸に柔らかい表情が戻る。


「アスターを蒲公英にした様に、なんとかならないかなぁと」


ポポは消滅も厭わないだろうけど。

でもそれは、やる事やってみてからの最後の手段だ。


「問題は、蒲公英にした様に、ってーーーーアレ、どうやったのかがさっぱりで」


あ、埴輪顔がアゲインした。






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