第72話 ティティのギフトと属性
それは眩しくても、目を覆う様な強烈な光ではなかった。
どこか温かみのある、調和の取れた光。
ーーーーまるで月光の様な。
この場を満たすのは、紛れもなく、聖属性の魔力の力。
でもただの聖属性では無い。光と闇の力が拮抗していて、だからこそ魔力の流れが美しい調和を齎す。
砂の如く崩れ落ちる触手は浄化されて、私を縛るモノはなくなった。
ティティの属性って水だと思ってたけど、聖属性も持っていたんだ。と言うか、本人が一番驚いている。
聖属性は瘴気を浄化出来るって聞いたことあるけど、これって浄化というよりも、昇華に近い気がする。
でも、それだけじゃない。
ティティの足元から波紋の様に広がる力があった。
ティティを中心に、ーーーー毒が中和されていくように、振りまかれたフィリアナの邪の魔力が打ち消されていく。
フィアリスの姿がよりハッキリと輝く。
記憶の化身のちびっ子が、徐々に青いフィアリスの花へと吸い込まれて消えた。
ーーーーああ、そうか。取られまいとして、抵抗した時に記憶と力が分かれたんだと、理解する。
もがき苦しみながらフィリアナの下半身が百足から人の身体に少しずつ戻っていく。
瘴気や邪気、邪属性の魔力が混ざって創り上げられた禍々しくも呪わしいモノは、昇華され、中和によって無効化されていく。
「なんで、なんで、悪役令嬢のオマエがその力を持ってるのよ!アンタ達なんて悪役じゃないの!ヒロインのアタシが持つのが正しいルートでしょぉぉお!」
悪役だから邪魔してるんです。
とは言わないけどね。
アタシのだ、その姿寄越せ、力を寄越せとフィリアナは髪を掻きむしり、吼える。
相当苦しいのだろう、口からは唾液が絶えず流れている。
消えまいと抵抗する百足の足とヘドロは、まだ蠢いているが、このチャンスを逃がす手は無い。
私は青いフィアリスの花を回収しに走った。
「待ちなさいよ!アンタ、魔女を取り込んでこの世界を壊すんでしょ!?悍ましい化け物の癖に、その女神の、アタシの身体を乗っ取って天界を牛耳る毒婦が!」
走り抜けざまに腕を捕まれて、後ろへグンと、引っ張られる。
今、フィリアナの腕が伸びた!?
私は手の届かない距離を取った筈だ。
直に触れられてはいない。神力を厚手の軍手くらいに纏わせていて、掴んだフィリアナの手がジュウっと焦げた。薄い煙と肌の焼ける臭いが鼻をつく。
チュウ吉先生の結界が消えてる。
この中和ってどこまでの力に対して有効なのかな?
ロウはきっと、このギフトと、聖属性の開花を待っていたんだろう。
ティティが驚いているけど、困った顔をしているから、結界まで消えてしまった事を気にしてるんだろうな。
神にはギフトは通じないって言ってたから、私は平気だ。
「アタシ知ってるんだから!この世界を蹂躙する為に、天界に神々の力を集めた城を建ててるでしょ!?」
記憶にございませんが。いや、本当に、今記憶無いし。
「なにそれ。知らないけど」
私は淡々とフィリアナに返すが、フロース達は覚えがあるような顔だ。
「アーー。それって、フィーが創世神様と一緒に建ててた、秘密じゃない秘密基地の事かな?確かに皆して色々弄ってたねー。アスレチック、カラクリ屋敷通り越して、最早ダンジョンだね、あれは」
「ーーーー•••••••」
「おお、あの城か!我も挑戦したが、中々難しくてな。未だクリア出来ぬ。クリアしたのは時空神様とラインハルトだけだと聞いたぞ」
へ、へぇー。そんなの作ってたんだ。
なんか、聞いちゃいけないゾーンっぽいから、そろそろ話題変えて?
と言うか、私あの花を回収しに行きたいんですが。
「俺、最初の飛び石で、池ポチャ。あれさぁ、正解の石が毎回動くんだよね。力を使わずに身体能力と頭脳だけって縛りあるからなぁ」
「よう言うわ。フロースと一緒に火を吐き出す花を作っておったではないか」
「だって、フィアちゃんがあったら楽しいって」
私、天界で一体何してたの!?
「所々にある、あのえげつない脱出ゲーム部屋、あのパズルとカラクリってロウが作ったんだよね。軍神がいつもあそこで引っかかってさ。眷属が回収しに来てたよ。あれもフィーがロウに頼んだんだって」
「でも楽しいからやめられないんだよ」
天界の皆様方楽しそうで何よりです!
そしてちょーっと、黙ろうか?
フィリアナの顔が恐ろしく歪んでるから!般若通り越して、ホラー映画にそのまま出られる表情だからね?
「ハァ!?そんな訳ないでしょ!?なんでそんなに楽しそうなのよ!?こいつが天界で暴虐の限りを尽くしてーーーー」
フィリアナが言い終わるのを待たずに、フロース達が殺気立つ。
「フィーの事、こいつって、今、言った?お前、本当に俺達を怒らせるの得意だな。ねぇ、まだ分からないの?力の制限も制約も無い天界で、神々がお前の言うそんな矮小な存在にどうこうされる?ありえないね」
ギリッっと歯軋りの音が聞こえた。
歯茎まで剥き出しにしたフィリアナが、私を睨む。
「フロースまで!?アンタ、どうせ魅了でも使ったんでしょ!?じゃなきゃおかしいわよ!ーーーーって、その耳飾り!なんでアンタが付けてんのよ!?それはアタシが時空神様から貰う筈の物なのに!返して!」
喚きがなるフィリアナが、目敏く耳飾りを見つける。
これってストーリーに出てくるんだ。
でもこれ、元々フィリアナの物じゃ無いし、魅了なんて使ってないし。私がラインハルトから貰った耳飾りだ。
「返せと言われましても。これ、私のですし。それから、手をいい加減に放さないと、火傷どころじゃ済まなくなるよ?」
「ひっ!ウワァァーーーーッ!」
フィリアナがハッとして、爛れてしまった手のひらを見た瞬間、今更ながらに叫ぶけど、痛覚はどうなっているのかな。ーーーー既に人のそれからは逸脱してるのかも知れない。
この隙に花をーーーー。
痛みに叫ぶフィリアナを横目に私は花へと駆けた。
ーーーーこの時、ドクン、と私は全身が心臓になったような、大きな鼓動を聞いた。
フィリアナの蠢く触手が鞭の如く撓る。
最後の力を振り絞っているのか、息も荒く、私を見ている瞳は狂気を隠さない。
「許さない、許さないんだから!」
尖った触手が花をーーーー取り上げる振りをして、観覧席に向かう。
ドクンとまた、全身に鼓動が響く。
「ーーーーえっ!?何、今の」
ーーーー私を呼んだ?
私は観覧席を振り向き、剣先の様に尖った触手が、ドレスを着こなした貴婦人へと迫るのをスローモーションで見ていた。
魔力由来の結界は中和されたーーーー。
今から結界の指示は間に合わない。
「ーーーーッ!駄目!」
あの鋭い先をこの貴婦人に届かせてはいけない。
そう思考が思い至った時には、既に私の身体は貴婦人の前に手を広げて立ちはだかっていた。
『うーん、やっぱりあの子欲しいかも。面白いよ。すっごい頑丈そうだし。ねぇ、こっちに引っ張っちゃおうか』
好きにすればいい。
だが、あのレイティティアとかいう娘の能力は厄介だ。
お前の力だけでは無理だろうな。
『どう厄介なの?どうせ貴方も遊ぶんでしょ?僕の力を使ってね。なら、玩具をしまう時のついででさ』
ーーーー連れて来てよ、ここに。僕の所に。
うっそりと笑う表情は無邪気な子供には見えない。実際には青年な訳だが。
『あの子がいたら退屈しないと思うんだよね。うん、可愛いよ、あの子』
少し考える素振りをする。
目の前で攫われ、取り乱した奴を見られるなら悪くない。
気が付かれる危険性は増すが、手を出す以上、いずれは気付かれる。
早いか遅いかだ。
ーーーーいいだろう。
夢と現の狭間で交わされる意志の疎通に、今は誰も気が付いていなかった。
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