第24話 スパイ大作戦!?
「却下します」
ロウの冷静な声が即座にラインハルトの案を否定した。
否定してくれる常識人がいて良かった、ほっとしたよ。
「分かっているでしょうに。私達が直接動くのは影響力があり過ぎます。神代に天と地と冥とに世界が分かたれてから、天界、冥界は、人の治める世は人がなおすべしと滅多な事では介入をしなくなりました」
「そうだね。俺達も地上に降りてる時は力をずっと抑えてるしね。そうしないと、俺が降りた所、あっという間に花畑になちゃうよ。今はロウがここを簡易の神域にしているから、気を抜いてもいいけど」
「ああ、そちらのーーー力の影響もですが、政治的な影響もあると言う事です。神が一つの国に関心を持つ。これが如何なる結果を生むのか、人の欲を刺激するのは間違いないでしょう」
「それでも、人との橋渡し役として人間から側近を選んだ。この件はフィアも無関係ではない」
確かに、直接動くのはまずいと思うんだ。でも前世の記憶を持っているかもしれなくて、しかも何らかの『力』を持って世の中を引っ掻き回すのは看過出来ないだろうし。
ラインハルトの言う通り、私自身も無関係では無いのだ。きっと。ゲームのシナリオに沿って運命を動かそうとしている人がいるならば。
何か此処から覗ける方法があればーーーあ、リンファ様が茶杯で『視て』たよね?
あれって使えないのかな。
「チュウ吉先生はリンファ様が茶杯使ってやってた、術?って使えないの?カリンとかは?」
途端、チュウ吉先生がガバっと顔を上げて、閃いた!って表情をした。
「そうじゃ、フィア、翡翠の酒盃を出してくれい。あの怪異ならばあるいはいけるやもしれん。フィアよ、様付はちとまずいでの。次からは改めた方がよいぞ」
え、出して大丈夫なのかな?だってフロースが王宮の廊下にいた時、すっごく怯えて隠れちゃったんだよね。
ーーー名前はハイ、気を付けます。チュウ吉先生の忠告だし、今は理由が分からなくても何かあったら怖い。
「おそらくだけど、僕達とフィアが契約した時に、ヤモリもいたでしょ。だから、余波で薄くても繋がりが出来てる可能性がある。フィアとヤモリってその前から面識あったし。出してみればいいよ。多分大丈夫」
カリンもそう言うなら、出してみよう。
私は空間収納から桐の箱を出す。
年代を感じさせる色合いの蓋を開けると、ポワンっと直垂っぽい衣装を着た切れ長の目をした涼やかな若者が出てきた。
「あのーーーーーどちら様ですか?ヤモリさんはお留守でしょうか」
私が首を傾げると、無駄にキリッとしてる若者は、堂々と自己紹介を始めた。
「私が翡翠の酒盃のヤモリです。フィア様のお役に立つ為ならば、喜んで雑巾にもなりましょうぞ!」
「ーーーーーー•••(今雑巾って言った?)」
「うむ、良い心掛けじゃ!心して仕えよ」
雑巾は間に合ってますので。そして、チュウ吉先生、何でそんなに張り切っているんですか。
「繋がりができて、この短時間で霊格ってやつを上げたなんて、よっぽどフィアに仕えたかったんだね。真逆ここまで人の姿を取るなんて僕も思わなかったよ」
カリンはヒューと口笛を吹く。イイな、私口笛吹けないから口で「ヒューヒュー」って言うだけだし。
ロウはマジマジと酒盃を手に取って見てる。何となく骨董品、好きそうだよね。
「なるほど、対になった酒盃ですが、これなば使い方次第で、私達は視るだけで済みますね。あの娘の力がどんなものなのか分からないので、私達もあの娘の側で迂闊に力を使いたくは無いですから」
「何なりとお申し付け下さい」
大河ドラマの役者さんみたいだな、ヤモリさん。キビキビっとした所作が武士みたいだし。そんなヤモリさんにお申し付けしたい事があるのですが、出来るかなぁ?
「あのね、遠くの事を覗きたいのだけれど、ほら、水鏡って言うのかな、水面に映し出すやつ、あれって出来る?」
顎に手を掛けて思案顔だ。それが何か思い付いた表情になる。
「やってみましょう。ただ、私がこの酒盃の一つ夫の方を持って、現地へ行く必要がありますが。共鳴する事で、妻の方へ映し出す事が可能かと。それから、フィア様と遠く離れる事になりますので、名前を頂戴致したく存じます」
イキナリ名付け!?名前を付けたらいいの?
うーんーーーヤモリって家守だよね。それなら。
「ーーー守屋。モリヤってどう?お家を守るって意味があるの。今の姿って、いい所のお屋敷で仕える家令みたいじゃない?」
「モリヤ、只今よりモリヤにございます!有り難き幸せ!」
この瞬間、モリヤの周りをふんわりと風が包んだ。
何かが起きたっぽいけど何だろう?
「今のーーー魔力じゃないよね。私魔力ないもん」
ボソっと呟いたらフロースが盛大に溜息ついた。
「当たり前だろ?俺達が使うのは神力だからね。魔力も使えるけど、人の様に体内にある訳じゃないし。そこらの魔素を操って捏ねてポイって感じだし」
神力かぁ、どうやって使うのかな。魔素も操るってやってみたいな。
魔法とか使った事がないから、物凄く興味あります!
「フィア様、今はお控え下さい。ここの結界は簡易ですので、何が切っ掛けでフィア様のお力が暴走するかわかりませんから」
「もし、やってみたいと思っても、俺かロウがいる所で、だ」
エエッ!折角の魔法がある世界なのに。今まで指を咥えていいなーって、羨ましかったのに。
「あの、フィア様。でしたらこれを」
ティティはその白い手首からパチンとブレスレットを外して渡してくれた。
細かい捩花の意匠が、可憐でとても可愛い。
「可愛い!でもこれは、ティティの大事な物じゃないの?」
ティティがふふっと密やかに笑う。あ、なんか女の子同士の会話って感じで楽しいかも。
仲良くなれたら嬉しいんだけど。
「このブレスレットは魔導具なんです。実は私、魔素を集めて魔力に変換させるのがとても苦手だったんです。ですから、魔素を操ってこのブレスレットに溜め込む練習を。集めた魔素を魔力にして、魔法を使う練習にもなります。体内の魔力ならば直ぐに使えても、魔素を操るのが苦手な人向けの道具です。私にはもう必要無いのですが、何となく着けていただけですので、よろしければ」
「いいの?有難う、ティティ。凄く嬉しい!」
早速ブレスレットを着けてみると、銀色に光るそれはとても華奢な造りだと改めて思う。花の部分は色とりどりの魔石で出来ている。
嬉しくて腕を持ち上げて見ていると、ラインハルトの手が私の手首を取った。
後ろから腕に沿わせて手首を持つと、スッとブレスレットを白い指先がなぞる。
直接触れる肌に心音が姦しい。
「これと同じ効果の物を用意出来るか?モリヤに持たせる」
ラインハルトがブレスレットから視線をティティに向ける。
「そうですね、サンプルとして、あの娘の魔力、出来れは『力』を使った時のものがいいですね」
「所で、モリヤ、だっけ?なんの名目で王城へ上げるのさ。真逆、何処かの三代目みたいに忍び込む訳じゃ無いよね?」
ーーーデスヨネー!
それにしても、フロースって知ってたんだ。あの大泥棒さん。
もしかして三姉妹も知ってたりするのかな?
あれから、ああだこうだと話していたけど、結局大神殿を巻き込む事にしたらしい。
国の代表選考ともなると、大神殿から神官でも位の高い三位から一位の方が派遣される。今回は、国王夫妻がお出迎えに行くだけあって一位の神官様らしい。
あ、だから今は留守なのね。
そして大神殿に咲くフィアリスの花を持って、アルディア王国の王都に入ったらパレードしながら王城へ入城。フィアリスの花が聖火みたいな扱いだ。
この使節団の中にモリヤとチュウ吉先生が紛れ込むんだって。
「大神官には話しを通してあります。一筆書いて頂きましたので、レガシアと言うエルフの神官にこの書状を渡しなさい。身分は一位の神官侍従と契約妖精ですので、かなり自由に動ける筈です」
いつの間に!?って思ってたら、フロースがパッと行ってパッと帰って来たって。
ーーーーーードコでも行けてしまうドアを装備ですか。
「うむ、任せるが良いぞ!なに、王城に入ってしまえばランジもおるし、協力者も増えるしの」
「おまかせ下さい!」
儀式の中でのぶっつけ本番、心配は尽きないけど、信じるしか無いよね。
「ペンダント型の物しかご用意が出来ませんでしたが•••」
ティティも心配そうな顔だ。
「あの娘の力だけというのは難しいですが、周りの魔素ごと、であればなんとかなりそうです」
「大船に乗って待ってれば良いぞ」
そう言われると、心配だなー。
モリヤは執事服に着替えていて、ロウから眼鏡を貰っている。
酒盃が内ポケットに入っているのを確認すると、チュウ吉先生を肩に乗せた。
「それでは、レガシアはーーー今、丁度馬車の中に居ますね。レガシアは花守も兼ねているので独りで乗っている筈です。さぁ転移させますよ」
ロウは懐中時計を見ながら一枚の札を出す。
札が燃えると魔法陣が浮かんだ。モリヤとチュウ吉先生がスキャンされる感じで魔法陣を潜ると、頭から消えていった。
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