第22話 乙女ゲーム!?
「先ずは、フィア様についてはカリンから粗方聞いておりますので、レイティティア嬢、貴女の事を宜しいですか?」
ロウが広いバルコニーで給仕にまわっていたティティに座る様に促す。
サラッとエスコートして席に導く姿は格好が良い。
ティティはしきりに恐縮している。
「ーーーはい。何なりと」
「では、ーーー貴女は転生者だと伺いました。偶然か否か、フィア様と同じ時代を生きていた。それを思い出したのが、断罪の後、死の谷へ荷馬車ごとおいて行かれてから。その断罪なのですが、理由をお聞きしても?」
ティティは予めどの様に話すのか考えて、まとめていたらしく淀み無く話す。
第一王子の婚約者としての自分、舞姫としての自分。フィリアナと王子と冤罪について。
そして、この世界が、前世で言う所の乙女ゲームの世界に酷似している事。
「今の情況はシナリオ通り、と言う訳ではありませんが、登場人物の特徴、名前、イベントなど、無視できない一致もあります」
そう言ってティティはゲームのシナリオを、「大体のあらすじで、忘れてたり、知らなかったり、分からない所もありますが」と前置きしてから話してくれた。
ゲームの名前は『花冠の乙女』で、この乙女が所謂聖女の役どころ。
アルディア王国が序盤の舞台で、ヒロインが初期設定で、フィリアナと言う名の少女。名前は好きに変えて遊ぶ事が出来る。
物語は、市井で育ったヒロインであるフィリアナが子爵家へ引き取られる事から始まる。
港町カタルで育つフィリアナは両親と暮らしていたが、両親を事故で無くしてしまう。そしてフィリアナは子に恵まれ無かった子爵夫妻に引き取られる。
この時点でカリンと契約するらしい。
で、実はこの子爵は母親の兄で、フィリアナは母親が結婚に反対されて駆け落ちした子爵令嬢であった事を知るのだ。
前子爵の祖父に、母親の分まで幸せになって欲しいと、フィリアナを温かく迎える。
現子爵の伯父夫婦も、明るく素直なフィリアナを可愛がる。よくいるヒロインみたいだな。
舞の上手を祖父が大変喜んでいたそうな。
で、学園への編入を経て、妖精が遊ぶ花園で妖精達と踊っていると、そこに攻略者対象その一、アルディア王国の王太子が現れて運命の出会いをする。
トリスタンとアルブレフトも攻略対象者らしいけど、その出会いルートは分からないそうだ。
乙女ゲームに付きものの悪役令嬢は、王太子の婚約者、ガレール公爵令嬢のレイティティア。
数々の嫌がらせをした挙句に終には毒殺を企てる。
王太子やトリスタン、アルブレフトなどが活躍した結果、失敗に終わって、婚約破棄と国外追放。
勿論、フィリアナは見事アルディア王国の花冠の乙女候補として選ばれ、大神殿への切符を手に入れる。
そこから様々なイベント、クエストをクリアすると、正式に大神殿により、花冠の乙女の称号と花冠を手にする。
だけど、そこで事件が起きてしまう。
死の谷でレイティティアが瘴気を取込み怨嗟の魔女として現れる。
世界を破壊しかねない力を奮うレイティティアに攻略対象達とフィリアナが立ち向かう。
最後は攻略対象者との真実の愛の力で魔女となったレイティティアを浄化して、ハッピーエンド。
ただ、レイティティアが魔女になって現れた時点で、一定の条件をクリアしている場合のみ、隠しキャラが現れるらしい。
らしい、って言うのは、このルートは攻略サイトの交流場を見ての推測なのだと。
隠しキャラはヒロインに花冠を授ける時空神だ。
この時に、時空神はフィリアナに向かってメイフィアと呼びかける。探した、とも。
時空神が額にそっと触れると、女神の記憶が呼び覚まされる。
悪しきモノに触れて、身体から魂を抜き取られ、身体と魂を入れ替えられてしまった事、記憶を無くして地上を彷徨っている時にある夫婦と出会い、子供として引き取られた事。
レイティティアを操り、世界を壊そうとしているのはメイフィアの身体を乗っ取ったその悪しきモノだと言うのだ。
お約束で、ヒロインが頑張って最後には身体を取り返して、悪しきモノの魂を元の器に戻すと、今まで最愛のメイフィアの身体を質に取られて、手が出せなかった時空神が永遠の牢獄に落として封じ込める。
そして女神の宮殿で幸せに暮らしましたのハッピーエンド。
大まかなあらすじとしては、こんな感じらしい。
「色々と突っ込みドコロ満載のゲームなのですが、絵が美麗、キャラデザインが秀逸すぎて、たった一コマ、たったワンシーンを見る為にやってる人も多かったんです。それで人気があって、ラノベも出たんです。各キャラエンドで数巻発行されました」
なるほどね、と言ったのはフロースだ。
「あの、フィア様はともかく、皆様は『乙女ゲーム』とか、『ラノベ』とかーーこの世界には無い物をすんなりご理解頂けてるようなのですが、補足の説明は必要でしょうか?」
「いいえ、必要ありませんよ。フィア様も産まれた時から、前世ーーー日本の記憶をお持ちでしたので、長兄の時空神様に頼んでは、よく日本の物を『こちら側』に取り寄せておりましたから、文化などは良く存じております。フィア様の『お取寄せ』と同じ能力ですね。」
ふーん。じゃぁ私がギフトだって思っていた能力ってもしかしてギフトじゃなかったって事!?
いやいや、いきなり女神様ですってねぇ。言われましても。
「どうしてフィーが異世界にいたのかは話し長くなるからカットね。でもフィーは元々こっちの神だからね。魂が異世界留学したとでも思っておいて」
全然、ちっともこれっぽっちも覚えがないです。
そう、オムレツの乗っていたお皿が真っ白、何も乗ってない状態の如く。
あ、テーブルにスコーンがもう無い!?
皆んな食べるの早くない?
「ほら、フィア。スコーンだろう?先に取っておいた。ジャムはオレンジでいいか?」
そう言ってラインハルトが一口大になったスコーンに、オレンジジャムを塗って口に入れてくる。
自分で食べられるからと、一度は断ったけれど、なんせ膝の上。届かないのですよ、なんというリーチの差。クッ。
だが空腹には勝てず、大人しく食べさせて貰っています。
またラインハルトの口に入れてくるタイミングが絶妙、かつ食べたい物をピンポイントで取ってくれるので、不満が何処かへ飛んでいってしまった。
ヤダ、この人間椅子コワイ。
「では、分かるところだけでも、そのシナリオと違う部分を上げてみましょう」
まずは、トリスタンとアルブレフトがヒロインに靡いていない。と言うか、嫌ってるっぽい。
「フィリアナは、観劇やお茶会など、二人にも声をよく掛けておりましたけど•••」
それから、第一王子であって王太子じゃないよね。
性格もかなり違うみたいだし。
カリンはヒロインと契約じゃなくて、私とだし。
ロウは丁寧に書き出している。因みに紙とペンは私が出しました。
断罪の時期もだ。シナリオでは、選定の儀、の時だって。うわー、なんかうわー。
それに国外追放じゃなくて、死の谷にポイっとだしね。
そして大事なのはティティは嫌がらせも、してないし、ましてや毒なんて使ってない。
嫉妬もするわけがないと。あの王子だしねぇ。
あとーーー私の存在も、だよね。
時空神様ルートって言うの?アレだと私、この体乗っ取っている悪しきモノって事になるよね。
「うーん、ゲームの中だと私は女神様の身体を乗っ取った『悪しきモノ』?」
孤児院以前の記憶がないからなぁ。
「「「それはあり得ない!」」」
おお、神様達の声がハモったよ。
何か根拠でもあるのかな。首を捻ってたらロウが説明してくれた。
「仮に、魂と言いましょうか。それが、人間とは異なるのですよ。私も遠い昔ですが神格を与えらた時に造りかえられました。それに、私達がフィア様を見間違える筈はありません」
「それに、異世界に行って戻って来るなんて人の魂には耐えられないよ。フィーは神だからできた事。人の魂は異世界に通常は来れない」
「そうですねーーー極希ですが、異世界に渡ってしまう事があります。が、違う環境、例えばこの世界で言うなら、魔素やーーー他色々ありますがーーーですね。無い世界から来た場合に、順応出来ず、耐えられずに消滅してしまうのですよ。しかし、極々希に、適応出来てしまう魂があるのです。造りかえるのです。自らを、生き残る為に。その所為で、摩訶不思議な力を持っていたり、前世の記憶を持っていたりしますね」
皆がティティを見る。
そうだった、ティティも転生者だし、何か不思議な力を持っていてもおかしくないんだ。
困った顔してるよティティ。
それもそうか。転生者って事が分かったのだって昨日?一昨日?だしね。
私だってギフトに気が付いたのが前世を思い出してからだもんね。私の場合はギフトじゃないっぽいけど。
「フィアの『お呼び出し』は時空神と同じ力だ。全ての力を創世神より与えられた女神、メイフィア。以前は兄の真似して懸命に使おうとしていたが成功した事は無かったな。良かったじゃないか?使えるようになって」
背後でククっと喉で笑う気配がする。
「そんな所もフィアだな」
嬉しそうなラインハルトは体重を掛けてギュウギュウしてくるけど、重いです。私、折り畳まれたりしない?折り畳みフィア?
何で皆んな笑うのかな?
そんなラインハルト達とは裏腹に、私の心に一つの波紋が広がっていった。
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