罵詈雑言・耐久演習
「この世の人間はみな、なぜか罵詈雑言に弱い……他人からの心無い言葉に傷つき、自ら命を絶つ者が多いことが、私は疑問なのだ――だが、その答えが分かった。
どうして傷ついてしまうのかと……ようするに、慣れていないだけなのだ。だから慣れてしまえば、飛んでくる罵詈雑言など気にしなくなる――この場は、そのための演習場である」
三十名の生徒が席についている。
そして、生徒の周りにはそれ以上の数のエキストラが用意されており……、その者たちはあらかじめ、生徒に投げるための罵詈雑言を暗記している。
その全ては、ネット上に転がっているものだった。
短いものから長いものまで。
残弾数には困らない。
それに、添削のしがいがある。
「これより三日間、貴様たちはいつどこでどんな罵詈雑言を言われるか分からない。悪いが、途中で棄権することはできないから覚悟しておくように――。
……苦痛を伴う演習だが、しかしこれを乗り越えれば、罵詈雑言に耐性がつくだろう……、慣れてしまえば飛んでくる悪口なんて大したことがないものだと分かるはずだ。
あんなものは妬みからくる羨望を形を変えた言葉にしただけだ――悪意ある言葉は実際に行動に移せない者たちが、苦肉の策で投げたものでしかない。
――解明してしまえば大したことがない構ってちゃんだ……そんなことに一喜一憂するなど、時間がもったいないだろう? ……さて、始めようか――」
三日後……、罵詈雑言に慣れた者たちは、自分たちの基準で物事を考える……――つまりだ。
自分が耐えられるなら、当然、相手も耐えられるだろう……そう思い込み、引き金に指がかかる。自分が言われて嫌なことは相手にはするな……だが、裏を返せば自分が平気ならしてもいいということもでもある――加えて、慣れてしまえば大したことがない、ということを、知らない人間に教えるためにも、彼らは善意でぶつけている――悪意を、罵詈雑言を。
善意を悪意という仮面で覆って、罵詈雑言でパッケージして。
――規制をして、悪意を失くしてしまえば、では今後、その悪意が当たった時に、不慣れな人間は耐えられないだろう……、自ら命を絶ってしまうかもしれない……。
もう、そんな人間を増やしたくはない……だから、耐性をつけるためにも、悪意をぶつけるべきなのだ……。
『我々が』
『これは慈善事業である――、世の中の罵詈雑言は、善意の攻撃ということを、教えてやろう』
…了
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