第313話 帰り道にて


「ねえおじー。今日はみんなでどこ行って何してたのー??」


 その夜、俺は宿でターニャに何をしてきたのか聞かれまくった。

 ニシナリア王を拉致してちゃんと政治するよう恫喝したなんて、とてもじゃないが言えないぜ。


 ターニャは誰かから聞いたことを無邪気に誰にでも話してしまうからな、まあ子供だからまだその辺の線引は難しいんだろうな。



「う、うん。まあその、メッシュの妹がニシナリアにいてな。スズッキーニで暮らしたいってことで連れてきたんだ。なんせあっちは紛争地帯だったからなー、いやーなかなかにハードな一日だったぜ」



 こう言うのが精一杯だ。


「ふーん……それだけ?なんかもっとすごいことしてない?おじ」

「お、お前俺を疑ってんのかあ!?」

「うん。なんとなく!」


 なんかコイツ鋭くなってるな。前より人を見ているというか……。


 俺はターニャの顔を手で挟んでムニムニしながら話題を変えた。


「それよりお前、ケイと同じかちょっと上ぐらいのお姉ちゃんがウチの会社に入ってきてるから、また仲良くしてくれな!」


 ターニャはハッとしたような顔を見せ、「シャロン!」と名前を叫んだ。


「そうそう。メッシュの妹な」

「ういーー。なかよくする!」

「ああ」



 ……。



 そんな感じで俺とターニャは眠りについたのだった。


 ターニャは相変わらず寝ていると俺の腕に絡みついてくる。少々眠りにくいけどまあ可愛いもんだ。

 俺は日本にいたときの実の娘ことを思い出していた。


 子供の頃は可愛かったんだけどな、はぁ……。いつの間にか嫌われちまってたからな。


 俺はチラッとターニャの方を見て、コイツはどうなるんだろうな?とちょっとだけ不安になったりして、それからすぐに寝てしまった。




 ――翌日、俺達はバダガリ、ピエール、チャップスと別れを告げた。


「じゃあなカイトさん。俺はしばらくここで石垣を組み立てるぜ!!ウオオオオッ」

「おうバダガリ。今回はいろいろとありがとうな!イヴによろしく言っといてくれ」


「カイトさん。今回はお疲れ様でした!また報酬はギルドで支払われると思いますのでお楽しみに」

「よっしゃー!」

「ボーナスだああぁぁ!!」


 報酬という言葉に俺やミルコやガスパルは単純に舞い上がってしまった。


「ピエール、ターニャの世話ありがとう。チャップスも研究頑張れよー」




 ――ドゥルルルルン。パルルルルッ。


 そうして俺達はカブ4台とセロー1台でスズッキーニ方面へと走っていった。


 その途中でカブが俺に問いかけてきた。


「いやーカイトさん。ニシナリア王のことですけど、もしこれでニシナリアの治安が良くならなかったら本当にジクサールさんに報告するんですか!?」


 ああ、それか。


「いや、本当に言うわけじゃねーさ。あれはただの脅し文句だからな」


「やっぱりそうですよね!安心しましたー!!僕もいくらウチの国が強くても戦争が始まっちゃうのはゴメンです!!」


「あー!やっぱりおじ達何かかくしてる!」


 うおっ!?

 リアボックスに入っていたターニャが俺の背中から服を掴んで少し憤慨するように言った。



 俺は再び誤魔化しながら説明した。


「いや、うん。偶然ニシナリアの政治家に会ってな。もっと国をいい感じにしてくれよって言ったんだよ」


「……ふーん。そのせいじかは何て答えてたのー?」


「が、頑張るってよ」


「……ふーん」


 俺が嘘が下手ってのもあるだろうが、なんかまだ疑われてる感じだ。

 こういう時は話題を変えるに限るぜ。



「ターニャよ、スズッキーニに帰ったら一緒に椅子や机を新しい職場に持っていくぞ!お前の力が必要だ!」


「新しいしょくば……うん、分かった!ターニャも手伝う!」


「よっしゃ。頼りにしてるぞ」



 ここでカブが不思議そうな顔をして疑問を投げてきた。


「でもカイトさん?」


「ん、なんだ?」


「具体的に本社で何をするんですか?軽油の巡回販売をするだけなら、今の本部からヤマッハに行って、給油所で軽油を買ってヤマッハ内を巡回すればいいだけな気がしますけど!?本社って必要ですかね!?」


 なるほどな。


「まあそのやり方でもアリっちゃアリだが、無駄が多いんだ」

「……どういう事です??」


「ヤマッハで適当な場所をウロウロするより、最初から軽油が欲しいお客さんがいるところに行った方がいいだろ?」

「それはそうでしょうけど……」


「ならよ、そのお客さんの方からウチの本社に、軽油が欲しい!って出向いて貰えばいい。んで、俺達はその住所に後から軽油を届ける!これで大分無駄がなくなるだろ?」


 そこまで説明して、カブが何か目を輝かせて俺を見ていることに気がついた。


「カイトさん!素晴らしいです!!そこまで考えていたんですね!?僕、申し訳ないんですけど適当に町中で『軽油いかがっすか〜』みたいにやるんだと思ってました!ごめんなさい!!」


 俺は得意になってカブに説明を追加する。


「はっはっはー!たしかに俺も最初はそんなつもりだったけどよ、せっかく本社があるんだから有効に使わねーとな!」




 そんな話をしながらゼファールの山道を走り、要塞都市ニンジャーへと到着し、ヴェルシース博士に軽く物資の輸送が終わった事を告げた。


「いやぁー。あれだけの物資の配達、お疲れ様でしたぁー皆さん!帰り道もお気をつけて!」


「おう!ありがとな博士。またいつか機会があって行けたら行くわ!じゃあなー」


 そう言って全員で手を振ってニンジャーを後にした。




 ――ドゥルルルルン!


 しっかし寒くなってきたな。


 日本にいたときも、俺は冬にバイクで走る前は必ず天気予報を確認していた。

 バイク乗りの大敵、「雪」が降るのかどうかを調べるためだ。


「なあカブ。セシルの話によればスズッキーニも稀に雪が積もるらしいぞ?」


「えっ……やっぱり、そうですか!?雪は本当にダメなんです僕!」


「ああ。だから本格的に冬になる前によ、出来るだけ遠方の村々に軽油をまとめて販売しときたいんだ」


 そう、ヤマッハみたいな町中なら大丈夫だろうが。猛吹雪で今みたいな山道を走ったら下手したら遭難して死ぬかもしれん……。


 そもそもいくらオフロードタイヤにしているとはいえ、軽油を運んでる最中にスタックなんかしたら最悪だ!考えれば考えるほど怖えな、雪は……。



 帰ってからもいろいろとやることが多いぜ。


 ……そんなふうに感じながらも、俺はなぜか楽しくなってニヤリと笑みをこぼすのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る