Episode081 気づいてしまった想い

用意も無事に終わり、俺たちは早いうちに寝た。

明日からの旅行には『瞬間移動』を使わないってことになっているので、朝一の馬車でココから出ていくことになっている。

今日はその為に『絶対覚醒』という、何があっても状況次第では即座に起こしてくれるという魔法を『魔法創造』で創り出したから、何も問題はない。

……俺の隣で、ユイナ寝ていることを度外視するとすればな。


「ったく、いくら俺が精神生命体で、本来なら寝る必要がないからって言っても、コレはなあ……。嬉しいんだが、俺が困るんだよ……」


俺は月明かりに照らされているユイナの顔を眺めながら、ポツリとそんなことを呟いていた。

ユイナは、今日一緒にいられなかったことを理由に、俺の隣で寝たいと言ってきたのである。

先述の通り、俺も嬉しいし、望ましいことではあるのだが、この前みたいにすぐに眠りに落ちることができなかったときはとても困る。

何というか、罪悪感とは違うが、彼女に何もしないでいるが故に、なんとなく気まずくなってしまっている自分がいるのだ。

かと言って羊を数えていても、一向に眠くなる気配はない。

……こうなったら、いっそのこと、胸とか触ってしまってもいいんだろうか。

俺はエロいことは嫌いだが、今のままではどことなく眠れないと思っているし。

いや、そんな自己満足に近い感情で彼女の躰に触れようだなんて許されるようなことではない。

そう思っていると不意に、まだ半年とない、それでも思い出しかないユイナたちと過ごしてきた日々が脳内に溢れ出した。

……そして俺は、自分の本当の想いに気づかされてしまった。

その中から、俺はユイナの笑顔だけを思い出していることに気が付いたのだ。

そう、俺は、いつの間に……。


「……俺は、やっぱり君のことが一番好きなのかもしれないな……」


俺はユイナの頬を撫でながら、そんなことを口にしたのだった。



あの後、俺は自分の気持ちに整理がついたとか何とかって感じで、そのまま寝落ちしてしまったらしい。

目を覚ましたら頬に手を添えられていたユイナは、俺にキスされたんじゃないかと思い、俺が目を覚ましてからは、あまり目を合わせようとしてくれない。

ちなみに、その顔はずっと紅色に染まっている。

俺も悪気はなかったんだが、まさか自分の中に固定された想いが芽生えていたんだとは思いもしなかった。

これからも14人で平和に、誰とも結婚はせず、12人を愛して生きていくもんだと思っていた俺からすると、とても意外な話である。

知らず知らずのうちにゾッコンになってく男女の話を前世で読んだことがあったが、俺の場合はそんな前兆もなかったから、客観的に見ていても「いや急展開すぎねえかw」ってなるのは不可避だったはず……。

と、とりあえず、今日からユイナだけを見つめて生きていくべきなのか?

でも、それを他の11人に伝えるのは、ちょっと……いや、かなり俺の良心が痛む。

まあ、少しずつ話を進めていくべきなんだろうなあ……。

愛なんて、結果を急ぐと大抵はいい結果にならないってのは前世からずっと色んな話を通して学んできたんだし。

そんなことを思いながら、俺は家もとい屋敷の周辺に結界を張り、皆と共に家を後にした。



「ご主人様! もうカミタンは出発できるばっかりになってますよ!」


結界の最終確認を済ませると、皆が既にカミナスの背中に乗って待っていた。

今回の結界はかーなーり警戒して強く張っていた所為で、少し手間取ってしまった。

まあ、それでも侵入してくるヤツがいるとは到底思えないが。

あと、自然な流れだったから気づくのに遅れたことがある。


「……今日は馬車で行く予定じゃなかったのか?」


どうしてか、皆はカミナスの背中に乗っている。

もしかすると、そのくらい急がないと馬車に乗り遅れるとか心配しているんだろうかとは思うものの、それだったら俺の『瞬間移動』でどうにかなるはず。

……じゃあこの状況は?

そんなことを呆然としながら思っていると。


「……実は昨日の夜、アヅマ君が寝てから12人と話し合ったんだが……。いつもの君の主人公体質が発動してしまうと、到着までに厄介事に巻き込まれるのはいつものオチだって話になってな……」


ヘルメが少し心苦しそうに説明してくれた。

……つまり、今までの主人公体質的なことは、ヘルメが操作して起こしてきていたことが全てじゃないってことなんだろう。

だが、俺はそれを分かっていたい上で馬車で行こうという話をしていたのである。

だからこそ、この言葉は考えるまでもなく、本能の如く、口から零れた。


「そっか……気遣ってくれてありがとな。でも、俺はな、……むしろ試練ならバッチコイって思ってるんだ。だって、それで俺が皆を守れなかったら、俺は皆と一緒にいられないからな」


途中でオークのメスに襲われかけたって、魔物の群れが突っ込んできたって、俺はその総てを試練として受け入れるし、皆にカッコつけられるいい機会だからな。

だからこそ、少し嫌でも慣れてしまった俺は、主人公体質をいいと思っている。

ま、皆にカッコつけれるって想いも、実はもう違ってるかもしれない。

だって、今の俺は、ユイナにだけ向いてしまっているんだから。


「……そうですか。なら、私たちは、全力であなたの試練を手伝いますね!」


俺が清々しい気持ちで皆を見ていると、13人――正確には13人ではないのだが――を代表して、ユイナがそう言ってくれた。

ヘルメたちも、そうするとばかりにそれぞれ笑ってくれていた。

……そんな中、俺はただ、ユイナの笑顔に引き込まれていっていた。


「っ! ……ありがとな!」


俺はそう言うと、笑顔で親指を立てた。




この時の俺はまだ知らない。

その想いが、最低最悪の間違いを犯すことに繋がるということを。





次回 Episode082 南国地域グルーヴへの旅路

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