敵襲、再び
スタンピードによる魔物の襲撃は第4波までを耐えきっていた。
朝になったことで一時撤退していた魔物たちが、再びフォートボレアを襲撃するのは物見からの報告でも確実視されている。
戦える者は元冒険者や剣や魔法を習ったことのある人なら誰でもといった感じで、人口8万のこの都市は生き残るために必死だった。
邪妖将ダルキュリスを撤退に追い込んだとして、俺はギルド長と騎士団長に呼び出されていた。
冒険者ギルドのギルド長室にて。
なぜか隣にはあの若い騎士がおり、名前はカインという。
「レイジさん、まじですごいんすよ!」
興奮しながらダルキュリスとの戦闘を語るも、意外に盛りはなく事実を伝えているあたりカインは騎士であることをちゃんと自覚しているのだろう。
ギルド長は初老でヒゲが白い精悍な体つきをした男だった。
「君がなぜ邪妖種の呪いを跳ねのけることができるのか、話を聞いてもいまいちわからない。そういうスキルなのだと理解しておくとするが、ギルドとしては先の件もあり君をギルドランクBにとりあえず格上げしておくことにする」
先の件とはマンティスエッジとの戦いであろう。
「いいんですか? 他の冒険者たちと平等な扱いが望ましい」
「いや、多くの人々に害を為すあのような存在を討伐すると、特別ランクアップが認められるのだ。例えばドラゴンを討伐したとかな」
「なるほど、ではお任せします」
そして一歩前に進み出て俺の顔をまじまじと見つめてきたのは、40代前半であろう屈強な騎士、それが騎士団長バウアーだった。
「 【 き 】 というものについて、もっと知りたいところであるが、やはりスキルであれば持ちえない者が何をしても無駄かもしれん。
ところでこの件を知った王が、君を王都に招きたいと言って来た。
王から直々の招聘である、受けてくれるな?」
「お断りります」
「なんだと?」
騎士団長が不機嫌になるもまあ理解できる。
その目は理由を話せといういことだろう。
「このフォートボレアを見捨てて行くことはできない」
「ほう、見捨てると。レイジ殿はこのフォートボレアにそれほどの愛着がおありか?」
「愛着ですか、便利な言葉ですね」
「これは一本取られたかな。君がそう言ってくれるのは、正直私もうれしい。
むしろ、そういった人物であるならばますます謁見してほしい。
当代の王 ラース王は、武勇の誉高く、しかも知にも優れ、絢爛たるを好まず、民の安寧と繁栄を願うこのリシュメア王国の歴史において、間違いなく傑物たる王なのだ。
だからこそレイジ殿を招聘したのだ。
恐らく、邪妖種を恐れる王族が護衛のために呼びよせる、と思っていようがそれはない。
王は聡明なお方、それにレイジ殿と同じ年代じゃないかな、そういう意味でも興味があったのだろう」
思っていたのと違った。
偉そうで選民意識の塊のような王が護衛のために飼っておこうと呼び寄せる、と勘繰ったがまあ会ってみるのも悪くはないか。
「そういうことでしたら、フォートボレアが落ち着いたら向かいたいと思います」
「……うむ。ならばレイジ殿の言葉をそのまま王へ伝えるとしよう、そのほうがよかろう?」
「はい、お手数かけます」
騎士団長のバウアーは機嫌が戻ったようだ。
俺はその足でフィオとシルメリアが寝かされている治療院へと戻る。
目覚めるまで後数時間ほどだろうというセラは、俺の顔をチラチラ見ながら首をかしげていた。
「なんだよ、言いたいことがあるなら言ってくれ」
「いやそういうことではなくてだな、昨日までとはなんというか雰囲気がまるで違うというか、どうして乗り越えたんだと思ってな。左手は調子が良さそうだし、右目も」
「ちょっと訳アリでね。それより二人の様子はどうだ?」
「順調だよ。血色も良く魔力の巡りも上々」
「本当に良かった。セラのおかげだよ」
「何を言うか! セラこそ邪妖種相手には足が竦んで動けなかった。それをお前ときたら、なぜあのように立ち向かえたのだ?
攻撃を喰らえば手足が腐り落ちるかもしれない恐怖、あの禍々しい異形の存在に」
「……俺は罪を犯した。人を殺したからだ。
妹を助けるためとはいえ、殺しという選択が正しかったのか、今でも悩む。
だから、俺は精いっぱい生きて、人を助ける。
それが今の時点での俺の生き方だ」
まるでそんな俺の話をあざ笑うかのように、カンカンカンという半鐘の音がフォートボレアの街に響き渡った。
「意外と早かったな」
「碌に休めていない者も多いはず。セラもまだ魔力が回復しきっていないのに」
するとすぐにやってきたのカインだった。
騎士団長から俺の護衛役というか連絡役に指名されたのだろう。
「レイジさん、敵襲です! 騎士団長が来て欲しいって」
「分かった。セラは二人を頼む」
「分かった。しばし瞑想して魔力の回復に努めよう。何より今回の敵襲は、空であるとお告げが来ている」
「空?」
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