刀鍛冶
ダンセンが戻ってきたが、手には細長い木箱を抱えており中に刀があるのだと思わせた。
俺の視線が壁にかかった剣にあることを気にしているようだ。
「これは刀に似てはいますが、刀ではありませんよね」
「ほお、よく気付いた。なぜそう思った?」
「両刃だ」
「ふむ。まああれは刀じゃねえさ。冒険者ってのは片刃の剣をやたら嫌いやがるんだよ。だから店の経営のために多少切れ味の良い両刃で反りの浅い曲刀を置いておくのさ」
「なるほどそういう理由が」
「まあワキザシなんかは片刃で作るからな、一応先祖から受け継いだ製法でちゃんと作っているさ」
フィオとシルメリアは、短めの脇差や短刀に興味がいったらしく、二人で盛り上がっている。
「んでダンセンよ、その抱えてる箱はなんだい? レイジさんはカタナとやらを探しているって分かるだろうに。どれか合いそうなの見繕ってやってくれないかね」
「レイジっていうのかお前は」
「はい、風間レイジと申します。ダンセンさんの刀、売ってもらえませんか?」
ダンセンはカウンターに木箱をそっと置くと、腕組みをしてこう言った。
「お前さんに刀を売るわけにはいかねえ」
「え?」
「まずはこれに手を乗せて見ろ」
カウンターの下から取り出したのは、ギルドで見た魔力測定機に似ている気がするものだが、かなり古びており触れたら壊れてしまいそうなほどだ。
「えっと」
「いいからはようせい!」
短気らしい。
言われるままに水晶玉らしき部分に手を乗せるが、あいかわらず反応がない。
「反応ないですね」
「いや、それでいい。カタナもどきなら好きなを売ってやる。だが本物の刀が欲しければ、俺の言うことを聞けいいな?」
「分かりました」
ダンセンはそのしわが多く彫りの深い顔で鋭く見つめた。
「レイジ、お前は刀で何を為す?」
ひどく哲学的な質問だと思った。だが俺の感覚的な答えはこうだ。
「何かを為すのは刀ではなく、俺自身の意志によってだ」
「ほう」
ダンセンはにんまりとした笑顔を見せると、カウンターの下から別の古びた刀らしきものを取り出した。
「ついてこい」
カウンターの奥へ来いと言っているようだ。
俺とバルノさん、フィオとシルメリアまでが店の奥へと入っていく。
二人に関しては、完全に好奇心だろう。
店の奥には鍛冶場があり、整理整頓の行き届いた清潔な空間だった。
さらにその奥へと足を運ぶと、25mプールがすっぽり入りそうな空き地がそこにあった。
井戸や薪置き場、炭などが納められた小屋もあったが、広々として抜けるような青空が眩しい。
ダンセンは小屋からあるものを引っ張ってくると、巻き藁を巻いたようなものを台へセットする。
フィオやシルメリアは頭の上に?が浮かんでいたが、俺には分かる、これは試し切りだろう。
「こいつで切ってみろ」
ダンセンが手渡した刀は古ぼけており、かろうじて埃を拭ったような跡がある革製の鞘に入っていた。
すらりと抜いてみて驚いた。
「これは……」
刃こぼれはほとんどないように見えるが、錆びや曇りがひどい。
「ねえこれで切れってひどくない? そんな錆びだらけで切らせるっての?」
さすがにフィオが噛みついたが、ダンセンはやってみろといわんばかりに俺を鋭い視線で観察している
握った感触は刀、そのもの。
手にした感覚が非常にしっくりくるのは、錆びていても心地が良い。
ずしりと手に馴染む懐かしい感覚は、左手からくるものなのだろうか。
すぅーっと呼吸を整えると、俺は晴眼に構えた。
左腕から流れ込む感覚はやってろうじゃないかという前向きで挑戦的な感情。
体内で練り上げた気を刀へと流し込む。
ここで俺は気付いた。なんとうい感覚だろう。
自分の手が伸びたような鋭くも鮮烈で緊張が心地よい。
今まで使っていた剣とは違い、気の乗り方の伝導率が桁違いだ。
俺はゆっくりと刀を振りかぶると、体に染みついた感覚で巻き藁を右袈裟一刀斬りつけた。
刀を鞘へ納めると一礼し、ダンセンを見やる。
「あれ? 切れてないの?」
「レイジ、さすがにあの錆びだらけの刀では……って!? え?」
巻き藁は、音もたてずにするりとずれ落ちていった。
「見事だ。これで先祖から伝えられた試験はすべて終わった。ではついてこレイジ」
その後、ダンセンは鍛冶場の作業台で箱から出した刀の拵えや柄、鍔、などを外し整備し始める。
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