旅路 ~ワキザシ~
今回は目撃者が多かったこともあり、報奨金は俺とフィオに出ることになった。
1人80万レーネ。
旅の資金稼ぎを考えていた矢先であったので、これはありがたい。
物価の体感では、レーネと円はほぼ同じ感覚で良さそうだ。つまり80万円ほどの収入である。
あの日々で暮らしていた自分たちに仕送りできたらと、思わず考えてしまいたくなるほどだ。
フィオはもらいすぎだと大半を返そうしたが、連係あっての戦いだと納得してもらうことにした。
「馬車の中で休めるようなクッションや簡易まくら、後は水筒、保存食、替えの下着やタオル類、色々買い揃えたけど」
「ボクが洗浄魔法を使えるからね、何かと旅では重宝されるんだ」
体の汚れを洗浄したり、洗濯物の汚れも綺麗になるのでこれは素晴らしい魔法だ。
「一回2000レーネぐらい払ったほうが良さそうだな」
「パーティー登録しちゃったからそういうのは取らないの。あと、同行者が多いときは行列になったりするから他言しないでね」
「了解だ」
俺とフィオはフォートボレアという大きい街を目指すことにした。
フィオがこの町にいた理由はある素材を入手するためだったらしく、戻る予定だたっという。
「レイジは武器を買いたいって言ってたけど?」
「両刃の剣っていうのがどうにもしっくりこなくてさ、片刃の剣が欲しいんだよ」
「へぇ珍しね。片刃だと刃こぼれしたらそれで終わりっていうんで、両刃を好む冒険者が多いんだよ」
「そういうものか、こっちで見つかるかなぁ 刀」
「かたな?」
やはりお金が手に入ると、心にも余裕が生まれるものだ。
もし転移者のいる施設なり組織に合流できたなら、恐らく刀と出会える確率もあがるだろうが現状では期待は極めて薄いだろう。
翌日、行商人の馬車に護衛役として同乗させてもらえることになった。
次の街、フォートボレアはネグランよりも大きく、街道がいくつも合流する地点ということで市場も発展しているという。
旅程は街道の野宿ポイントとも呼べるキャンプ地があり、そこで夜を過ごす。
こういった個人や隊商もここを利用するらしく、同業者が複数いる場合には夜の見張りで協力関係を取ったりもするらしい。
旅程は一週間。
商人のバルノは人の好い50代のおじさんで、丁度よい冒険者が見つかって良かったと安心していた。
「いやねえ、盗賊山賊まがいの恰好をした恐そうな人だと、気の休まる暇がはないじゃないですか」
フィオがニコニコの人当たりが良いことにも、バルノは安堵している様子だ。
「バルノさん、ボクが洗浄魔法使えるから遠慮なく言ってね」
「おおそれはありがたい! やはりエルフ族の人は使える人が多いんですね」
「子どもの時から教えられるから、みんな使えるかも」
自分は寡黙というわけでもないのだが、俺はフィオとバルノが交わす会話を聞いて満足していた。何気ない会話に政治情勢や物の相場、世界の常識的なものが混じっているため何かと勉強になる。
俺の場合は他の転移者が受講する基礎知識講座のようなものを受けられなかったため、基礎知識も怪しかったから非常に助かる。
ふと荷の一部に視線を移し、思わず二度見してしまった。
御者台にいるバルノさんに思わず声をかける。
「バルノさん!」
「ほえっ! ど、どうされました!? 魔物でも出ましたか!?」
「い、いえすいません、そこの荷の中に、ある剣なんですが、もしかして、脇差 という名前ではないですか?」
「ほぉ! ワキザシ を御存じの方がいたとは! これは驚きです!」
脇差を手に御者台へ移った俺は、バルノさんから詳しい話を教えてもらえることになった。
馬車での旅は、何より話し相手がいると時間が過ぎるのが早い。
そういうこともあって、バルノさんはその脇差にまつわる話を詳しく話してくれた。
脇差の造りは、革製の鞘に留め具がついており柄は黒革が巻かれ柄糸はない。
鍔は円形で飾り気はなく、見る人が見れば反りのあるショートソード、といった造形だった。
だからこそ、これを脇差だと見抜いたことにバルノさんはご機嫌だ。
「長年の友人にドワーフの鍛冶師がおりましてな、そいつの話によればですね、300年以上前に編み出された技法で作られた切れ味抜群の剣なのだとか」
パシッと右の手綱を馬に放つと、見事に街道に沿って馬がゆるいカーブを走ってくれる。
こういったカーブや坂路では会話がストップし、直線になると話し出す。そういった流れが馬車では過ぎることが多い。
フィオは話を聞きながらも、周囲を警戒してくれている。
「そいつが言うにはかなり変わった製法で作られているらしく、一つ作るのにひどく手間がかかるものなんだそうですね。この剣は、旅先で売り込みをしてほしいって営業用に持たされたもんでしてね~。
そうだ、ちょうど目的地のフォートボリアで鍛冶師をしているんですよ。
名前はダンセン。頑固者ですが、剣にかける情熱だけはほかに並ぶ者がおりませんな」
「バルノさん、よかったらそのダンセンさんを紹介してもらえないでしょうか?」
「もちろん、そのつもりで話してますからね。喜びますよあいつ。ぐふふふ」
俺は刀と出会えると聞いてうれしかったらしい。
「珍しいねレイジが笑顔になってる。そうやっていつもニコニコしてたほうがいいって、普段は悩み抱えてますって顔してるもん」
「そう見えてたのか?」
「うん」
「ごめん、気を付けるよ」
「ニコニコしてなさい。って転移者のこととか聞かないの?」
俺はその日の野営時、食事をしながら転移者のこと、魔王のことなどを訊いてみることにした。
「てんいしゃ? はて? 初めて聞きますな。魔王については、人間側と協定がうまくいってるとかって話しか知りませんな?」
バルノさんは商人だけあって情報通と思えたし、実際に相場や情勢などにも相当詳しい。
その彼が転移者に関しては情報がなく、魔王に関してもほぼ把握していないということからも、今後の方針について改めて再考しなければならないと思わせた。
とりあえずどこかの首都で情報を探る、という方針にするべきか?
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