異世界に降り立つ
◇
転移の際には三途の川が見えるとか、ジェットコース―ターのように揺れまくるので吐いてしまうなどという情報が飛び交っていたらしい。
実際のところは小角さんや阿修羅王との邂逅を経て、俺は薄暗い地下室のような場所にポツンと立っていた
円形の部屋でそれを支えるように柱が並んでいる。
作られてから大分経っているのだろう、手入れもされている様子もなく、何より迎えがいると聞いていたが誰一人そこにいない。
手違いか?
そう思ったが、目についたのは石床に突き刺さっている古びた剣が一本。錆びは浮いていないがよく見ると刀身には刃こぼれや曇りがありごく普通の両刃直剣というところだ。
俺は不安を払拭させるためその剣を引き抜くと、奥の階段を登ることにする。
剣と共に身に着けているのは、転移時に着るように指示された革製防具に見えるケプラー繊維と衝撃吸収素材が縫い込まれた服だった。
見た目的にはシンプルな革製軽装備の冒険者に見えるようにデザインされており、転移事故が起きた際に対応しやすいようにとのことらしい。
武器の類は持ち込めない決まりらしいが、これも実際のところ違和感がこみ上げてくる。
突如、建物全体が揺れるような音と、人の叫ぶような声が遠くからたくさん聞こえてくるような異常事態が起こっているようだった。
「なんだ!?」
らせん状の階段をゆっくり登っていくと、そこには壁によりかかりながら呆けている女性を見つけてしまった。
耳が長い、スラリとした体形、それに見たこともないほどの、小麦色の肌をした美少女がそこにおり、儚そうな涙を流していた。
「大丈夫か?」
「え? き、君は誰なの?」
俺たちはしばし見つめあった。一目惚れとかそういうものでない。互いに関する情報があまりになさすぎてのことだったが、彼女の左腕に10cm以上もあるトゲが刺さっていたのだ。
「怪我してるじゃないか」
この地に降り立ってから、左腕を通して流れ込む生命力のような熱く力強いものが全身をか巡っているのを感じる。それが発している。
そのトゲが危険だと、一刻も早く彼女から抜いてあげないと。
「待ってろ今抜いてやる」
「ちょ、ちょっと待って! これは死骸蜘蛛、邪妖種のトゲよ! 触ったらあなたの指が
「え? ってもう抜いちゃったよ」
ぽいっとトゲを投げ捨てたが、既に灰となって階段に落ちる前に消え去っている。
「ちょっと、指見せてみなさい!」
慌てて指をまじまじと見るそのエルフらしき美少女は、驚愕の表情で俺を凝視してきた。
「なんとも、ない!? 君は一体何者なの!? なんで瘴気毒に触れて何にもないの?」
「何者って言われてもな、ってああこれってそういうことか」
右目に収まった文殊法眼が教えてくれる。彼女の腕に触れろと。
体内のエネルギーを右手に集中させるようにすると、淡い暖色の光を放ち始めた。
「え? ま、魔法!? でも魔力は感じない!?」
俺は負傷した彼女の左手二の腕を見ると、トゲが刺さっていたところがどす黒く変色しじわじわとその浸食部位が広がっているようだ。
「もう遅いわ。負傷後は特殊な浄化魔法を受けないと瘴気毒は全身を回って、体が腐って死ぬの。のたうち回って苦しみぬいてからね、だからその前に死ぬか、毒が周り切らないうちに斬り落とすしか道がないわ」
彼女が俺の持つ剣に視線を落とし、そしてこくんと頷いた。
切り落とせということなのだろう。
俺は剣を立てかけてから左腕をつかむと、右手の光を強引に傷口へ押し当てる。
「ちょ、ちょっと君! 君まで瘴気毒を」
その違和感は彼女自身が体感したからだろう、俺が手を離すとその傷口を見て目を丸くさえる。
「ありえない!? トゲの刺さった跡はあるけど、浸食部位がなくなってる!? 完全に浄化されちゃってる!? もしかして君って高位の神官だったりするの!?」
「残念だが俺はそういったもんじゃない。恐らくそれは気の力だろう。生命の根源たる気の流れがその瘴気毒やらを消し去ったんじゃないか、って言ってるっていうかそうなんじゃないかな」
「あ、ありがと。ボクは弓を使うから、左手がだめになったらもう廃業するしかなかった。ああ、ボクはフィオ! 君は!?」
「俺はレイジ、風間レイジだ」
二人の間に流れた一気に距離が縮まるこの瞬間を邪魔するかのように、突然響いた衝撃と振動に思わず声が出る。
「わ、忘れてた! あいつがいるの、まだこの傷をつけた邪妖種が! 壁にひびが入ってる!
早く脱出しないとだけど、あいつから逃げられるかしら」
左腕から流れ込む阿修羅王の残した残滓とも言える戦闘意欲、戦闘欲、戦闘本能などというものなのだろうか?
全身に力がみなぎってくる! 今まで感じたことのないような高揚感。
「邪魔なら倒してしまえばいい」
「え?」
「敵意を持って襲ってくる相手に容赦は不要」
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