第94話 仲裁

幸いな事に後半になってから前に出した戦闘機達はほとんど被害を受けることなく突破に成功したため、売却は滞りなく終わって1憶クレジットを入手する。……いや本当、高くで売れるな戦闘機。今後はもっと大規模で買い取って貰えるから、1回で数億クレジットが入って来る。


船体部品の販売も滞りなく続けられているので戦争って儲かるところは本当に儲かるな。この会合でシンカー解放戦線の人達と会話することが出来たけど、母星から追い出された人達も多いみたい。


ひょっとしたらフィアの姉弟とも会えるかなと期待したけど、残念ながら教えて貰えず。フィアは風の便りで姉が軍に入ったことまでは分かってるみたいだけど、ここで会える偶然はなかった。


「母星追い出されたお姉さんってどんな感じなの?」

「私よりも戦闘機での腕は良かったよ。……母星基準だと最低ランクだったけど」

「……シンカー解放戦線の戦闘機が足りてないのはシンカー共同体の戦闘機乗り達が化け物だからか。駆逐艦以上ならある程度対抗は出来るって感じかな」

「概ねその通りだと思うよ。戦闘機同士の戦いで全然優勢にならないからシンカー共同体相手には苦戦してるって感じ」


艦隊戦は戦闘機同士のぶつかり合いから始まるが、この小競り合いでシンカー共同体は異様に強い。流石に選民思想の中で選ばれた戦闘機乗り達なだけあって、ラドン連邦基準だと比較的強いヒノマルサイクツの戦闘機乗り達よりも質で圧倒的に上である。某ルーデルが1000人とかそのレベルならむしろ戦えてる方が凄いわ。


何というか、スパルタみたいな国だな。駆逐艦以上だと戦闘機ほど乗る人の差が出ないからまだ対抗出来ているみたいだけど、戦闘機同士の戦いで負けている時点で相当苦しい。たぶんヒノマルサイクツでちゃんと対抗出来そうなの、レースで上位10人に入った面子ぐらいじゃないか?


まあ、こちらとしては戦闘機を買い続けてくれそうな勢力と繋がりが持てたから素直に嬉しいけど。ラドン連邦との戦いについても探りを入れるけど、どうやらラドン連邦はシンカー解放戦線の艦隊は跳ねのけたものの、シンカー解放戦線の要求自体は受け入れる方針らしい。


シンカー解放戦線もラドン連邦も既に別の交戦国があるのに本気でぶつかり合うなんて出来ない状況だから、良い感じに落としどころを作る感じかな。よしじゃあラドン連邦戻ったら抗戦派に鞍替えするよう再分配党には意見言っておこう。抗戦しないといけない理由は今から作る。


「……シンカー解放戦線の悪口でも言うの?」

「いや違う。仲裁役を買って出てシンカー解放戦線を煽ててラドン連邦への要求値を引き上げる。ランタンさんとか得意だろこういうの」

「確かに、ネルサイド協定がラドン連邦との戦争で和平をもぎ取ったのもランタンさんだったね。……そこを見越して雇った?」

「少なくとも、継戦不能状態を隠したまま上手く和平で星系を割譲させた外交手腕は高く評価してる」


今のところ、ヒノマルサイクツはコウモリ外交を続けているわけだけど一応どっちからも味方だとは思われているポジションなので仲裁役を引き受けることは可能だろう。


そこでランタンさんを派遣し、シンカー解放戦線からの要求値を引き上げて戦争を引き延ばすようお願いすると「ええ……」とため息と共に了承してくれたので指示はちゃんと聞いてくれる中間管理職の鏡。まあ仲裁役を買って出たところが一番戦争を望んでいるとか、そこそこあくどいことをしている自覚はある。


ラドン連邦の艦船販売企業の多くは、シンカー共同体に艦船の販売を行っている。まあ今一番そこに売るのが儲かるからな。シンカー解放戦線の要求は、ラドン連邦からシンカー共同達に軍艦を提供したり販売するのを中止することだけど、ついでに物資の援助やら人員の移動の禁止とかも盛り込ませられるなら盛り込ませよう。


……ハイウェイで繋がってるから、一応シンカー共同体とラドン連邦の繋がりは強固である。ここを断ち切るために、出来るだけ今はかき回したいところだね。


あとはシンカー解放戦線にラドン連邦の軍艦がどの辺にどれぐらいの規模で存在しているかの情報も売っておこう。やってること完全に売国奴だけど既にラドン連邦とシンカー解放戦線は交戦国だし、交戦国の軍事機密的な情報は高く売れるから仕方ない。


この辺はハイウェイで上下左右に行って帰って来るだけで粗方情報は集まるからこのマップの力はえげつない。……総戦力だけで見たらラドン連邦って周辺国じゃ太刀打ちできない戦力持ってるんだけどセクター毎の自治力が強いというか何というか……。


「……マップデータ幾らで売れたの?」

「2億クレジット。今回必死で運んできた戦闘機の倍額だったよ」

「よく信じて貰えたね……?」

「まあ自分が稀人だってこと向こうも分かってるみたいだったしな」


ラドン連邦にはもう既に稀人だということがバレているので今更ではあるけど、ほとんど接点のなかったシンカー解放戦線まで自分が稀人だと理解しているということは自分が自重し無さ過ぎたせいかシンカー解放戦線がちゃんと情報収集していたかのどちらか。たぶん、両方かな。

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