第92話 包囲

レプリコンの大規模艦隊を追いかけ、呼び出した第一戦闘部隊とも合流し、シレーネ星系へと向かう。そしてヒノマルサイクツの保有する空母エルダープライズと戦艦シュパードの近接戦闘能力を考えると、敵艦隊との戦闘は一極集中で突撃するのがベストだと考えた。


「……間違いなくレプリコンは包囲しようと動くでしょうね。それが現代航宙戦の基本です」

「ラドン連邦とネルサイド協定が戦っていた時も互いに包囲しようと戦線は薄く薄くなって、結局突破した艦隊が背後を取ることで優位不利が決まっていた。それなら最初から薄く広げてくれた戦線に突っ込んで突破するのが最善なんじゃないか?」


戦術面ではシミュレーターでトップの成績を残すイチカに対して、包囲を仕掛ける敵の艦隊を食い破る戦術を提案すると採用されてしまったけど通用するかは分からない。


ただ、人類も獣人も地上での戦争を経験して宇宙に進出しているから、どうしても戦略や戦術が『包囲』に傾いている。それが宇宙進出後もずっと続いているのは意外だ。


もちろん、包囲した時の優位性というものは宇宙空間でも同じだ。四方八方からレーザーやミサイルが飛んでくるならどうしようもないだろう。と、ここまでは簡単に想像出来る。


しかしながら、宇宙空間で四方八方から包囲するのはかなりの戦力差がないと厳しい。それこそ300対5000であれば何とか300側を包囲し切ることは可能だろうが、それ以外だと逃げられるんじゃないだろうか。


そして過去の宇宙空間での戦争記録を色々と漁ったが、戦力に極端な差がない限り完璧な包囲が決まった戦争というものは無かった。というか戦力差がとてつもない状態だと大抵包囲が決まる前に降伏するしね。


なのでこの世界の戦術家や軍人はみんな包囲を意識して戦って、結局半包囲ぐらいで終わってる。レプリコンも今までの戦闘記録から初動で包囲を狙い、ラドン連邦やネルサイド協定と同じように包囲しようとしてくるから、一極集中で正面突破するのが一番じゃないかな。


「というわけでシレーネ星系へ跳んだらレプリコンの艦隊と対峙するから敵艦隊が広く展開し切った後に第一戦闘部隊とエルダープライズで正面突っ込むぞ」

『……少なくとも、正面と左右からの攻撃が飛んでくるのは確定です。その戦い方だと被害が大きくなるです』

「ならない。正面だけ気にして突っ込め」


シレーネ星系へと移動し、レプリコンの艦隊の背後から急襲するとレプリコンは即座に艦隊を半分に分けて、その半分でヒノマルサイクツの艦隊を包囲しようと広く展開を始める。


もう半分は、レプリコンの艦隊と対峙するシンカー解放戦線の艦隊の方に意識が向いてる。これはラッキーだ。シンカー解放戦線もちゃんと戦う形になっている上、シンカー解放戦線の戦力は追加で呼び寄せたのか戦艦4、巡洋艦16、駆逐艦60とそれなりに規模が大きい。こちらは目の前の艦隊をすぐに突破した上で、シンカー解放戦線と対峙するレプリコンの艦隊を後ろから攻撃出来ればかなり楽に勝てる。


「不味い!戦艦4隻の主砲がこっち向いてるよ!」

「耐える耐える。戦闘機達は包囲しようとする戦闘機達を無視して戦艦の武装破壊狙って」


戦力を半分に分けたレプリコンの艦隊は、戦艦4隻が中央に居座り、戦闘機や駆逐艦などが包囲しようと大回りな機動となっている。まあ自分達が普通の戦い方をしていたらそれが正しいんだろうけど、全戦力で戦艦から潰しに行くから間違いだ。


あと後方にいる敵空母は殴り合い能力なさそうだね。まあ戦闘機発艦させるのがお仕事みたいだから仕方ないか。むしろ殴り合える方がおかしい。この辺はテラニドカンパニーのシールド技術とブラックホールエンジンに感謝だな。


フィアが慌てているけど、戦艦から極太光線が何本か飛んで来てもシールド値は結構減るの遅い。何かアラーム音とかもなってるけど過剰じゃないか?この船のコンセプト的にシールド値が半分に減っただけでこんな緊急事態みたいなアラーム鳴るのおかしい気がするんだけど。


『ひゃっはー!』

『また隊長が……サンゴ隊右端の戦艦行きまーす!』

「……あれ?サンゴって駆逐艦に移しても戦闘機に乗り続けてる?

まあ良いや。右端から順番に武装破壊で」


即座に混戦となった前線では、第一戦闘部隊の中でも一番功績が多いサンゴの隊がいの一番に突っ込み戦艦の主砲から破壊していく。あの超弾幕を避け切って、戦闘機だと1発しか積めない魚雷を綺麗にぶつけて帰って来る辺りはわりと狂人。……そしてこれ、先陣を切ったサンゴだけじゃなくて、サンゴの隊全員が出来るんだよね。


「戦闘機8機の特攻だけで戦艦が沈みかけてるのおかしいだろ……」

「……左右から敵が来ていますが、撃ちませんね」

「撃てないんだろ。レプリコンの主兵装はエネルギー兵器のレーザー砲だから長射程だし、避けられたら反対側にいるレプリコン側の船まで届いてしまう。

戦艦全部沈められそうだし、沈めたらそのまま中央突破するぞ」


戦闘中、エルダープライズのシールド値は全損しかけたけどシールドの再生速度も速いのでギリギリ耐えた。まあもしシールドを全損しても装甲が厚いから何とかなった気はするけど、空母乗組員は割とみんな肝を冷やしていたので結構危なかった模様。


……さて、ここからが本番だ。

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