スペース炭鉱夫による成り上がり

第87話 陰謀

新暦2024年6月24日。この日、ラドン連邦内で大事件が起きた。と言っても元から分かっていたことではあるので、事件と言うほどでもないのかな。

南西第一セクターのワマール星系にて、居住可能惑星と居住可能惑星の衝突が起きた。元々分かっていたことであり、40年前から脱出は始まっていたものの、衝突寸前まで残る選択をしている人も結構居たようで、最終的には2つの惑星で合計数千万人の人が犠牲となった。

「うわー。酷い」

「……すごい勢いで惑星が崩壊していくんだな。まあ同程度の大きさの惑星同士の衝突ならそうなるか」

今日もステーションの管理人室で朝のミーティング的なことを行っている最中だけど、流石に衝撃映像なので管理職全員でニュース映像というか惑星の崩壊を眺める。フィアがまるで映画を見ている時のような驚き方だけどこれ実際に起きているんだよなあ。

元々はどちらの惑星も、人口20億人ぐらい居た惑星のようで、でも人口の1%は中々脱出をせず、衝突間近になってようやく逃げたいとか言い出す人もいたそうだ。

もちろんそういう人がいることを想定してラドン連邦の政府は最後の最後まで宇宙船を用意していたが、結局最後の便は人員を超過してギリギリで飛んだらしい。で、逃げ遅れた人も結構居たみたい。覚悟完了していた人の方が多かったみたいだけどね。

「……どちらかの惑星を破壊する選択とか取れなかったのかよ」

「どちらも同じような規模の惑星だったから選択出来なかったみたい。でもまあ、しょうがないことだよ。惑星の公転をコントロールするのはかなり難しいし、そもそも警告自体は40年前から出てた。一応、1年前には全住民に脱出する意思があるか聞いて、脱出する意思がある人は避難が完了しているよ」

フィアが補足してくれたが、今回の災害に関してラドン連邦に落ち度はない。強いて言えば最後の瞬間のために用意する宇宙船をもう少し多めに配置しておくべきだったのだが、ぶっちゃけ40年前から警告出ているなら従わない方に問題がある。

個人的に思ったのが、この災害は生かせそうだなということ。ラドン連邦が覚悟完了していれば、片方の惑星だけを破壊する手段を取ることも出来た。そうすれば少なくとも、最後の被害は半分になるし、惑星1個分が無事というのは大きいだろう、自分でさえ思いつくような案をラドン連邦の政府が考えられないとは思えないのだけど……。

そろそろ本格的に次回の選挙に向けて動き出そうという時に、丁度良い事件が起きたのは幸いだった。この惑星衝突を起点に、陰謀論を展開していこう。目指すべき場所は『ラドン人民党は信用出来ない』と人口の1割程度に思わせること。そして人口の1%の馬鹿を、完全に騙し切ること。

「ランタンさんは元ネルサイド協定の人を使って『この惑星の衝突はラドン連邦が仕組んだもの』という流布を流して。『長年大丈夫だったのに急に公転の起動が変わったのは政府が○○を開発したせいだ』って論調で」

「……いやまあ、俺達もラドン連邦に対して恨みはあるが、そういうアホなこと言っても騙される奴なんてほとんどいないだろ」

「1%を騙せたら十分なんだよ。

フィアは獣人達を使って『ラドン連邦が片方の惑星を壊せばもう片方は救えたのに』という論調で展開できる？」

「……それは結構ラドン連邦の政府に効きそうだし大丈夫だけど、要するにラドン人民党の対応を叩いていくっていう認識で良い？」

「もちろん。再分配党を真面目に支援して第一党のラドン人民党に勝てるわけがない。だから4年後に向けた工作は、ラドン人民党の足を引っ張ることがメインだ」

次の2028年の選挙戦に向けて活動しようと思ったとき、一番最初に思い付いたことはラドン連邦の現政府に不信感を抱かせること。そのために元居た日本で一部の人が宗教のように信仰していた陰謀論が使えると感じた。

あれは現政府に対して不信感を抱かせるのにとても都合が良い。どんな些細なことでもラドン連邦のせいだと繰り返し発信していくことで、それを信じ始める人が出て来る。そして一度信じてしまえば、あとは転がり落ちるだけだ。

「いや、どう考えてもさっきの衝突をラドン連邦のせいにするのは無理があるだろ。発信した途端に叩かれて消されるだけじゃないか？」

「良いんだ。それで。

多人数に叩かれることで少数派は『多数派にとって不都合だから消すんだ！』という論調が使える。これ自体は特に間違っていないんだけど……そうやって抗う少数派の人達の姿を見せることで、僅かでも騙せる人が出てくればラッキーでしょ？」

「現政府への批判は、当然第一党であるラドン人民党の批判に繋がる。そしてもしも政府に不信感を持てば、次はラドン人民党以外に投票するって流れだね」

「ぶっちゃけ他人の足引っ張る方が得票数は増えるからな。何としてでも次の選挙で再分配党に議席数の1割である50議席を超えさせたい」

フィアとランタンさんは、それぞれ指示に納得してくれたみたいなのでとうとう情報戦も始まった。どれだけの馬鹿が釣れるかは分からないけど、少なくとも避難した40億人という規模の被害者がいる今回の災害。故郷を完全に失って傷心した人々に付け込めるチャンスは、結構あるんじゃないかな。