第82話 強奪
「アリアーナに一応聞いて置きたいんだけどさ、ラドン連邦の特大型建築艦って何隻まで呼び寄せられる?」
「5隻ぐらいまでは手配出来るけど、多すぎると作業効率落ちるし建築艦って手配するのも高いのよ?
……まさか」
「いや、まだしないから安心してよ。……もしラドン連邦相手に宣戦布告するような状況になったら手配よろしく」
「……信じられないことを頼んで来るわね」
ステーションから特大型建築艦と呼ばれる船が製造モジュールを作っている光景を見て、あれを5隻も奪えるならラドン連邦に宣戦布告する価値はあるなとか考えてしまった。あんな無防備に戦艦並みの価値がある艦船を放り出すとか中々に平和ボケしている国である。あれ一応ラドン連邦の国有の特大型建築艦らしいし。
まあもしも実行したらラドン連邦から永久的に指名手配されてもおかしくないから、実行するなら宣戦布告する前とかだな。出来れば最高の形で背中から刺したいので、今はまだそんなことしないけど。
「おまたせー。連れて来たよー」
「おー。
……本当に167歳?」
「……本当に貴方がヒノマルサイクツの頭取?」
「社長と呼べ社長と。
何で元ネルサイド協定の連中って頭取って言葉を使いたがるんだよ」
そしてステーションの管理人室に、フィアが1人の女性を連れて来る。元ネルサイド協定で一番頭の良い学者というか医者。ついでに言うと、学習装置の生みの親。……元医学研究所所属だったという言い方の方が良いかな。
年齢が167歳と聞いてびっくりしたが、顔が若くて二度びっくりする。脳も魔改造済みで相当賢いらしいんだけど、雰囲気はただの主婦だな。何でネルサイド協定にこんな逸材が落ちていたんだ。ネルサイド協定に入った後は普通に医者として生活していたらしいし。
「レプリコンが使用していたヘルメットの解析を頼めるか。もしかしたら、停止装置が付いているかもしれない」
「え!?何で!?」
「フィアが驚くなよ……。
元々レプリコンは、そんなに長く人類を支配下に置く想定をしていなかったと考えると色々と納得が行ってな。そうじゃないとあんなに非効率的なことしないだろ」
この人に頼みたいのは、レプリコンが人類の洗脳のために使用していたヘルメットの解析だ。恐らくレプリコンは、長期的に人類を支配するつもりがなかったのだろう。そうじゃなきゃわざわざ惑星上で人類を使って工場を動かす必要がない。
ついでに言うと、今いるこのステーションも魔改造して良いはずなのにそのまま利用して、そのまま明け渡している。元々は、未来から歴史改変のために送られてきた機械だ。それが何らかの不具合で現在まで多くの星系を支配する機械知性の勢力となっている。
今年で168歳になるらしいアデライーラさん(略称アデラさん)は命令を受けた後、軽くそのヘルメットを調べ、医療用ポッドの履歴を確認する。何か分かるかなーと思ったら、アデラさんは予想通りの答えを返して来た。
「……脳の代わりに直接指示を出す仕組みと、本人の意識を奪う以外の機構は持ち合わせていないわね。何ならこれを取り付けられても、短期間であればすぐ取り外せば致命傷にはならないわ」
「えっ、じゃあ何でレイ以外の人はすぐに死んだという記録があったの?」
「呼吸の仕方すら分からなかった、で合ってると思うぞ。長期間だと不味いか?」
「数年もこの機械を取りつけられたら脳が変形するでしょうね。医療用ポッドの記録も見たけど、あれは成長の過程で脳の方が変形してるわ」
思っていた通り、レプリコンは長期的に人類と敵対すること自体が想定外な設計をしていた。……それなら素直に撤退すりゃいいのに、ここまで残り続けたのは何らかの意味があるはず。
「この機械に指示を出している施設を乗っ取れば、惑星の住民が丸々手に入るという認識で良いか?」
「ええ、出来る可能性はあるわ」
「インバー星系の居住可能な惑星って、元々どの惑星も人口は10億人前後居て、レプリコンに占領されて以降は人口がどうなってるかは分からないけど、そんなに減ってない、のかな?」
「人口はレイの話聞く限りだと維持か微減だな。少なくとも数億人は生き残ってそうだわ」
インバー星系にある3つの惑星は、全部丸々乗っ取れる可能性が出て来たし、ベレーザ星系にも1つ居住可能惑星があって同様に人類が働いていたから、合計4つの惑星をヒノマルサイクツが保持出来るかもしれない。
とりあえずヘルメットの解析は引き続きアデラさんにお願いして、指示の発信元ぐらいは割り出して貰おう。あとは学習装置をインバー星系の惑星内に大量に作って、インバー星系の住民をまともに働けるようにすれば、人口数億の惑星が4つ手に入る。
……何なら、学習装置やヘルメットに細工をすればヒノマルサイクツに忠実に従う民が数十億人規模で作れるということ。人口は力だし、インバー星系まで確保出来ればヒノマルサイクツは大きく躍進しそうだな。
問題はそこまで侵攻するとどう足掻いてもレプリコンの本隊と戦わなくちゃいけないことか。稀人だから戦わなくて良いかなと思って通信してみたが何も反応を返して来なかったところを鑑みるに、武力衝突自体は回避出来なさそうだ。
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