第8話 清美の背中
・・・・ふつうなら、こんなことありえない・・・
三日月の寝室の大きなベッドの上にうつ伏せになった清美は、不思議な感覚になっていた。眼鏡を外した清美は今、三日月とふたり・・全裸でベッドの上にいる。
・・・羅城門さんとは、今日の午前中に声をかけてからの間柄に過ぎない。
それがたったの数時間後、こうしてベッドの上で全裸で寝転ぶことになるなんて・・
・・だけど、なぜか落ち着いた気分なの。
羅城門さんは、怖い人じゃない。
たしかに変な人ではあるけれど・・
学校で手の親指の付け根をグッと摘ままれて、ピリッとして力が抜けて・・
だけど、つかまれた指先から、あたたかい何かが私の中に流れ込んできた・・・
正直、とっても気持ちがよかった・・
ずっと羅城門さんに触っていて欲しかった・・・
授業なんて上の空。気がついたら、いつのまにか羅城門さんの言いなりになっていて・・はずかしいブルマにも着替えちゃってて・・
・・言いなり?
そうじゃない・・あれ以来、羅城門さんの言葉がなぜか心地よくて、羅城門さんの言葉をすんなりと受け入れてしまうの。
耳元で囁かれるだけで、頭の中に甘い液体を注ぎこまれるみたいに・・
羅城門さんの声がとても心地がいいの・・・
そしていまも、言われるがままに自分でエプロンを脱いでうつ伏せになっている。
お部屋にお招きいただいてからずっと、羅城門さんが全裸でいるからかしら・・
自分も全裸が当たり前のように思えてしまっている・・・
もう・・感覚がマヒしているのかしら・・
一度でも三日月の指先の
・・あの快感を再び味わえる。しかも、もう都子のような邪魔は入らない・・あれ以上の快楽ってどんなものだろう・・
そんなことを考えつつ清美は、ゴクリと
三日月は、ベッドにうつ伏せになった清美の背中に
清美の脊椎のラインに右手の人差し指を当て、首から腰にかけて、すうう・・・と、一筆書きのように滑らせた。
もうそれだけで、清美の全身がゾワリと総毛立つ。
「あふうううっ・・! 」
清美がビクンッ、と身を
肌と接した三日月の指先が、ピリピリピリ・・・・・・ッと、かすかに鳴り続ける。
「綺麗な背中ね・・言ったでしょ。女の子は裸が一番美しい、って」
三日月がウットリとした表情で清美の
ピリピリ・・ピリピリ・・
動かすたびに、音が小さく
「ンンッ・・!! はぁはぁ・・、羅城門さんの指ってどうなってるんですか・・電気のようなものが伝わってきますけれど・・? 」
「ふふ・・そう、これは電流よ。私ってば、生まれつき指先から電流を流せる特殊体質なの。まるで電気ウナギよね。なんでこんなことが出来るのかしらね。ホント不思議よね・・・電気を体内で発生させて、電圧をコントロールして・・・指で相手を感じさせて・・マッサージしてメロメロにさせてェ・・ふふ、エロいわよねぇ・・」
ピリッピリッ・・ピリピリリリッ・・
「そんなことが・・ああっ・・できるんですね・・うっうっ・・んっ・・羅城門さんは・・すごい・・ですぅ、あああっ!! 」
ふつうならば、にわかには信じられない話である。
だが、清美の背中には事実三日月の発する電気が流れているのだ。
ピリピリ、ピリピリ・・ッ
「あっあっあっあっあっ・・! 」
清美の反応を楽しむ三日月。
「フフ・・私の家系はね、1300年前の奈良時代からマッサージで朝廷に仕えてきた一族だったのよ。その中から、そうねぇ・・大体100年ごとぐらいに生まれつき私のような特殊能力を持つ者が現れるそうよ。私で何人目かしらね」
「奈良朝・・ですか。私の家系よりも、古いんですね・・あっあっ・・!!」
「ま、一族について話せるのは、今はここまでかな・・そうね、もう一つ話せることは・・私ってば、オーラを見ることが出来るのよ。これもウチの家系に
「オーラ・・聞いた事があります。あっあっあっあっ・・!! 」
「うふふ、オーラを見られると便利よ。肉体のオーラはね、病気や異状・疲れが溜まっている箇所が黒くモヤがかかったようになるの。私、ぶっちゃけマッサージの勉強なんてしたことがないんだけどね、黒いオーラの部分をマッサージするだけで、体調を整えられたり出来るのよ。医療技術の乏しかった朝廷で、それはそれは重宝されたらしいわ。そのマッサージテクを使えば、相手を天国へも連れてイってあげられるんだからね」
「し・・信じます、羅城門さんの指先を味わえば・・あああんっ・・本当なんだって・・あああっ、信じられますっ・・んっんっんっ・・!! 」
しだいに強くせり上がってくる快感に悶える清美。
「それで・・花岳寺さんのオーラなんだけど・・いくつか黒い箇所があるわね」
「そう・・なんですか」
三日月は、清美の肢体をまんべんなく見ている。
「そう、たとえば・・こことか」
三日月が右手の人差し指と親指で、清美の後頭部と首の接続部分の
ビビビッ、ビシッ・・!
ハッキリと聞こえた弾ける音。
三日月のその指に、一瞬光が走ったのが見えた。たしかに電流に違いない。
「ああああああっ、ウウウーーーーンッ!! 」
だけど、三日月の電流が痛いわけではなかった。
むしろ・・・
ギュッギュッギュッギュッ・・ギュッギュッギュッギュッ・・
ピシッピシッピシッピシッ・・ピシッピシッピシッピシッ・・
「ああああっ・・ああああっ・・あっあっあっあっ・・!! 」
後ろの首根っこから、脳の中へ・・・甘いハチミツが流れ込んでくるようだった。
強い刺激とドロリと
快楽の津波が、何度も襲い・・引き、そしてまた襲ってくる。
ギュッギュッギュッギュッ、グッグッグッグッ・・グッグッグッグッ・・
ピリッピリッピリッピリッ、ビッビッビッビッ・・ビッビッビッビッ・・
三日月の指の圧力が増し、それと比例するように音も鮮明さを増す。
電流の絡んだ三日月の指先が、清美の首の筋肉を揉みほぐしていく。
それも筋繊維の一本一本を丁寧にほぐすように・・
「あふっ・・あっあっ・・んふぅぅっ・・くふううっ・・!! 」
狂おしく、切なくなるほどの快感で身が
清美の閉じた
「ら・・らめぇ・・あふっあふっ・・ほかひふなふぅ・・あふっあふっ・・」
頭の中が真っ白になり、舌先まで
清美はもう、言葉をうまく発することが出来なくなっていた。三日月が清美に触れてからまだ、ものの数分である。
三日月の指先は、次に清美の両肩の首とつながる筋肉へ移った。
三日月が目を
両肩共に黒いオーラに包まれているが、とくに右肩の筋肉の疲労が大きいか・・
左肩より濃い黒色に見える。
三日月は少し清美の上体の方に移動し、しっかりと腰を
パリパリッ・・パリパリッッ・・!!
黒いオーラの濃さに反応するように、指先から電流が大きく
「くふうううっ!! ううううっ・・んんんんっ・・!! 」
刺激に清美の体が強く
「少し強くいくわよ」
三日月が、親指を肩甲骨の上部のキワに当て、グーーーーーッ、と強く
親指がズンッ、と沈みこみ、筋肉を直撃する。
ババババッ・・バリバリバリバリッ・・!!
筋肉に沈み込んだ親指から、強い電流音が響き出る。
「んっあああああああああんっ・・!!! 」
清美の口から、快感に
「あ・・ヤバ」
三日月の頭が、少しフラリ、とした。
自分の出した電流の刺激が返ってきていたのである。
三日月は「まるで電気ウナギね」と自分で笑っていたが、本当にその通りである。
南米に生息している電気ウナギは強烈な電流を発生させることが出来、それは襲ってきたワニなどの天敵を秒で感電死させるほどの電圧を持つが、悲しいことにその電流で自分もダメージを受け、最悪死ぬのである。彼らはふだんは微弱な電流を使って小魚などを痺れさせ、捕食しているようだ。
まぁ・・三日月も少女をマッサージをして、アンアン言わせてニヤるぐらいならまだいいが、調子こいて電圧を上げ、自分に返ってきてフラつくというのは猿以下と言うも愚か、電気ウナギ並みの魚類と同等の脳ミソと判定されても文句は言えまい。
ちなみに電気ではないが、これと同じようなことは昆虫界にも見られる。
カメムシがそうで、じつは彼らのあの悪臭は毒ガスなのである。カマキリなどに襲われると強烈な毒ガスを発生させて相手を
「あああああっ・・あっあっあっあっ・・ああああんっ!! 」
三日月の親指の電流が肩の筋肉を震動させる。
筋繊維がバラバラに
ブルブルブルブル・・
小刻みに震える筋繊維。三日月の指は、清美の筋肉から力を奪っていく。
そして、くたくたになった筋繊維にグイッグイッグイッと指圧と電流を加える。
「あふっあふっあふっあふっ・・くふっくふうううっ・・!! 」
震えて喘ぐ清美だが、肩から首の筋肉に、もはや力は入らない。
清美の頭部は、呼吸のために少し左側を向いたまま柔らかいベッドに沈んでいるが
清美はさらに頭が沈んでいくように感じていた。
ズブズブ・・・
意識が沼の底へ・・・もうどうなってもいい・・・
このまま死んじゃっても・・こんな気持ちよさの中でなら、もう・・
「ああっ・・ふうふう・・花岳寺さん、感じてくれているのね。嬉しいわ・・ああんっ、ビンビン来るゥ・・・!! 」
指を通して、清美の感じている快感も三日月に跳ね返ってくる。
マッサージをすればするほど、三日月自身もどんどん気持ちよくなってくるのだ。
今度は、清美の肩甲骨と脊椎の間の狭い筋肉の部分を親指で指圧する。
ここにも黒いオーラがまとわりついているのが見える。。
グッグッグッグッ・・ギュッギュッギュッギュッ・・!!
パリパリパリパリッ・・パリパリパリパリッ・・!!
「くふっくふっくふっくふっ・・くううっ・・くうううっ・・んんんんっ!! 」
肩甲骨の周りは誰でも疲れが溜まりやすい箇所なのだが、凝り固まった筋肉が三日月の指圧で揉み
「ああああああんっ!! 」
清美の意識はいったん沼から引き上げられ、今度は上空へ跳ね上げられた。
一瞬、フワリ。
そして、自由落下へ。
ギュッギュッギュッギュッ・・グッグッグッグッ・・グイッグィッグィッグィ!!
「あっあっあっあっあっあっあっあっ・・んっんっんっんっんっんっ!! 」
そして、また意識がグインッと跳ね上げられ、再び自由落下していく。
清美はもう自分がどうなっているのか分からなくなっていた。
上も下も、右も左もわからない。目隠しをされ、柔らかい巨大なトランポリンの上に放り投げられて、際限なく跳ね続けるようだ。
・・まるで刑罰・・そう・・なんて温かく気持ちのいい刑罰なんだろうか・・
いや、これは羊水の中・・・? お母さんのお腹にいた頃の記憶なんてないけど、無意識の中にしまわれている記憶かな。命のすべてを
なぜか清美は、産まれてからのことをゆっくりと思い出していた・・・
三日月の指圧が徐々に腰の少し上の背筋へ移動していく。
ここは、S字を描く人間の体の上半身を下から
グッグッグッグッ・・
ビシッビシッビシッビシッ・・
疲れに反応するように、指先の電気が鋭く鳴る。
「あああああああんっ!! 」
すでに肉体としての反応しか示さない清美。
心はあちら側に飛んで帰ってこない。ただ、三日月にはなにか引っかかっていた。
健康な
三日月は、じっと目を凝らす。
肉体の黒いオーラの向こうに、全身を覆うようにやや青い・・灰色のオーラがある。
精神のオーラ・・・清美が発している心の色だった。
「花岳寺さん・・・あなた・・」
三日月の目にふいに涙が浮かんだ。
マッサージの指先を伝って、清美の心の情景が頭に入り込んできたのだ。
三日月の涙が、清美の背に落ちる。落ちた涙から、肉体という境界線がぼやけ始めた。いや、マッサージを始めた時からすでにぼやけ始めていたのだが、ここにきていっそう顕著になった。三日月の目には、三日月と清美の肉体のオーラが共鳴し、その境界線が溶け、一体化を始めているのが見えていた。
三日月の指が、清美の体の中へひたひたと溶け入っていく。
「ああっ・・!! 」
清美が喘いだ。
「・・・入った」
そう言うと、三日月はゆっくりと両腕までも清美の体の中へ沈めていく。
ず・・ずずず・・・
「あああっ・・ああああ・・・・」
清美の肉体が甘い声で反応する。
やがて三日月の体がすべて清美の体に沈みこんだ。
三日月の意識の眼前に、清美の灰青の心のオーラがあった。
三日月は、そのモヤのようなオーラの中に右手を入れて、語りかけた。
「花岳寺さん、私よ・・・入っていいかしら? 」
数秒の
「ありがとう。お邪魔するわね、花岳寺さん・・」
三日月の精神が、清美の精神のオーラの中へ入っていった・・・
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