第9話 フレジルークの家
仲間ができた。
名前はフレジルーク。
信じ切っているわけじゃないが、どうせだらだらと叢に隠れていたって、そのうちガタが来るんだ。
だったら、こいつを少しぐらい信用したっていい。
というのが俺の判断だ。
烏丸には悪いけどな。
とにかく、これで俺の味方は三人。
いや、もはや烏丸は味方と言えるかどうかあれだが。
今の時点で、俺と烏丸の関係値は最悪だ。
幹がいなきゃ、俺も烏丸も一緒にいないだろう。
とりあえず、今はフレジルークに付いていくのがいいだろう。
当てもなく隠れるよりはいい。
例えフレジルークが嘘をついていたとしても、野垂れ死ぬぐらいなら、こっちの方がいい。
っと、その前にだ。
フレジルークさん特製の暗視眼鏡とやらをプレゼントしてもらったんだった。
どうせ少しは信用すると決めたんだ。
こんくらいは着けるか。
『カチャ』
眼鏡にしては重いな。
耳が結構痛いぞこれ。
・・・でも、見えるぞ。
暗闇の中が見える・・・
叢が、土が、見えるぞ、はっきりと!
「まるで灯りをつけたみたいだろ?」
「ああ、すごいなこれ。ちょっと耳は痛いけど・・・!?」
言葉の通り、まるで灯りを灯したように周りが見える。
その凄さに心を奪われて、俺は辺りを見た。
そして、辺りを見る中で目にしたもの。
それは、フレジルークの容姿だ。
暗闇で見えなかった、その姿だ。
声だけを聞いていた、その声は若い男の声だった。
だが、今、この眼鏡を通して見えるフレジルークの姿は――
「? どうしたんだ? そんな顔で僕を見つめて。 何か変なものでもついてるかい?」
・・・女だ。
髪は別にロングってほど長くない。
ボブだな、言うならボブ。
いや、別に髪だけで判断しているわけじゃない。
顔立ちも女の子みたいだ。
服装も・・・いや、服装は普通か。
ただ、スタイルというか身なりが華奢というか、女みたいだ。
いやでもまぁ、今の時代はそういうのもあり得るのか?
でもこれ、性別どっちかわかんないぞ・・・
「・・・困ったな、反応がないや」
なんだろう、姿を見てからだと、声も少し低い声の女の子に感じる。
「いや・・・いや、なんにもないですよ・・・ほんと・・・」
「・・・」
なんだこの絶妙な間は!
仕方ないだろ、頭がこんがらがってるんだこっちは!
「・・・あのさ、」
俺がまじまじとフレジルークを見ていると、フレジルークが間をあけて言った。
「僕、男だからね? よく顔立ちとかで勘違いされるけど、しっかり男だからね?」
「わわ、分かってるわいそんなもん!」
分かりやすい動揺。
アニメじゃないんだから。
しかし、コレで男か。
コレで男・・・
「・・・ねぇ、僕の顔を見るならまだしも、僕の体をまじまじと見るのは、ちょっと気持ち悪いと思うよ。それに、目が獣みたいだ」
「は、ハァ!? いや、いやまあ、暗視眼鏡のおかげでフレジルークの姿が見れたからね? だから見てただけでね? ね?」
まずい。
思わず胸とか見てたのバレてた。
ダメだ、しっかりしろ、俺。
俺には幹がいるんだ。
幹以外にそんな欲はない。
断じてない!
ていうか、そうだ、幹だ。
この眼鏡があれば、幹の事も見えるはず。
そう思って、俺は手を握ったままの幹の方へ首を回した。
すると
「ジ~・・・」
なんかすごい目で見られていた。
「・・・あー、幹さん? 一体どうされました?」
「・・・男に欲情するんだ、優くんって」
「ブフォッ!」
にち○んねらーみたいな吹き出し方をしてしまった。
「いやいやいやいや、しないよ? しないからね!? 俺は幹一筋だからね!?」
「・・・桐谷、あなたやっぱり最低ね・・・」
「烏丸さん!? これは違うよ? 誤解だよ!?」
暗視のおかげ、いや、暗視のせいで、幹の奥で下賤なものを見るような目線を向ける烏丸が見えてしまう。
誤解なんだ、決して女に見えたからって、胸元を見たとかないから。
男に欲情とかしないから!
「えーと、幹っていうのは、もしかしてレヴェレナットの事かい?」
「え? あ、ああ、そうですよ」
なんか、誤解がしっかり晴れた気がしないけど、まあいいか。
「へぇ、そうなんだ。なるほどね~、いいねそういうの。僕には表の名前とかないからさ、なんか羨ましいよ」
髪を指でくるくると巻きながら、フレジルークはそう言った。
表の名前、か。
俺の考え的には、人間としての名前が幹、人造人間としての名前がレヴェレナットだと思っていたけど、まあ、それもそうか。
学校で生活するために授かった名前だったもんな、たしか。
表の名前って考えも、あながち間違っちゃないか。
しかし、フレジルークにはそういうのがないのか。
ってことは、表で人間として生きてないってことなんだろうか。
まあいいか。
名前なんて、一個あればいい。
ましてや、こいつの名前の事なんてどうだっていいしな。
「まぁいいや、僕は変わらずレヴェレナットって呼ぶことにするよ」
「・・・はい」
幹はその呼ばれ方、あんま好まない気がするがな。
「とりあえず、皆を僕達の家に案内するよ」
「僕達?」
疑問の声を上げたのは烏丸だった。
「そそ、僕の家にはたくさん人がいるからね。人造人間は僕しかいないけど。あ、でも君たちが来たら、もう一人人造人間が増えるね」
「ちょっとまって、そんな話聞いてないわよ」
「言う必要ないでしょ? 僕と協力関係になるんだし、僕の家にいる人たちの事を話す必要ある?」
「協力関係を結ぶからこそよ。私たちはあなたと協力関係を結ぶの。あなたの家の人間の事は知らないわ。第一分かってるでしょ、私達は追われてる身なの。人にばれることは極力避けなきゃ・・・」
「僕の家の人間だよ? 人造人間の家の人間だよ? 君たちと同じ、人にバレたらダメなようなことやってる人間に決まってるじゃないか」
バレたらダメなこと。
そうか、こいつも、フレジルークも人造人間なら、こいつを作ったやつもいるんだ。
なら、俺らと同じだ。
バレたら、国から消される。
だが、今はそんな人間の方が、俺たちにとっては都合がいい。
同じ身の人間なら、バレても少しは安心できるからな。
「・・・そう・・・」
烏丸も、一応納得したようだ。
いや、無理矢理自分を押し殺してるだけか。
「まあ、納得してくれたってことでイイよね。それじゃついてきて、案内してあげるから」
そう言うと、フレジルークは軽快な足取りで、背高草の中を進んでいった。
俺と幹は、ギュッと手をつなぎ合わせながら後を追った。
それに続くように、烏丸は後を追った――
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