十話 初めては獣狩りですか? 其の壱

 メタリカの試練を突破したバサラはジータと共に彼女の仕事場の中にいた。グランは仕事があるからと先に姿を消してしまい、短い間に弟子の顔を見れたバサラは寂しそうにしながらも元気よく彼のことを見送った。


 そこは先代ヴォルガの時代より一切の変化のない鍛冶場。

 様々な武器、武具の始まりの地であり、彼女が一流であるのが一目で分かる程の練り込まれた氣に、バサラは少しばかり酔いそうになっていた。


「それにしても、すごいね。どれだけの時間、この技術に費やしたんだい?」


「バサラの旦那、あんたそんなん聞いて何になんだよ! 生まれてこの方、俺はここしか知らねえし、ここ以外に教えられてねえ! 先代ヴォルガはいい父親じゃなかった! だがな! 素晴らしい鍛治士であり、師であった! それだけで、親じゃなくても誇りに思えるもんよ!」


 メタリカは喋りなら鍛冶場にある一本をジータに手渡した。


「オラよ、頼まれてたやつ打ち直しておいたぜ」


 袋に包まれたそれをジータは嬉しそうに抱くと笑顔で応えた。


「メタリカさん! ありがとうございます!」


「おうよ、お代はいつも通りでな。そんで持って旦那だ。あんたはとりあえず、なんの運命を持ってるか調べねえとならねえな」


 運命、その言葉を聞き、バサラはビクッとした。冷や汗とは違う、自分の根底を知られることに対しての嫌悪的な嫌なじんわりとした汗。


 そんなことは気にもされず、メタリカは水晶を持ってくると彼女はバサラにはそれに手を置くように前にした。


「運命ってのはこの水晶、饌玉を使って行う。まぁ、気軽に置いてけ。七色で現れるからな。あかあおみどりむらさききんしろくろで現れる。まぁ、そこまでの戦闘力があるなら多分、翠か、赫ら辺か? ジータも翠だったし」


 メタリカがケラケラと笑いながらそう言う最中、バサラはその水晶に手を置くと目を瞑った。


 バサラは生まれてこの方、運命というものを使ったこと無かった。神殺しを成す時ですら彼は己の技術と力のみで神を殺しており、運命を自由に引き出し、様々なことを使う子どもたちのことを見てすごいなと思うばかりであった。


(ジータの風、あれみたいなやつだよな。う、うーーん、僕、もう歳だし、そんな力がそんな才能が目覚めることとかはないだろうし)


 そんなことを考えているとメタリカは訝しみながらその水晶の色を告げた。


くろだぁ?」



「え? 黒?」


「御師様、字が違うと思います。くろです」


 バサラは自分の涅というのがあまりよくないのではないのかとドキドキしており、一体それが何を示すのかをメタリカに聞いた。


「えっ、ーと、くろってのは一体どんな運命なのかな?」


「あー、一言で言えば、あんた災悪の運命を背負ってんな」


「え、ええ」


 色で判断されるとはいえ、災悪とまで言われた自身の運命。バサラはそれに意気消沈するもそれを見てメタリカは口を開いた。


「壊滅、それがあんたの運命だ。くろの運命を持つ者は常に時代を壊す破壊者。故に、鍛治士の俺たちですら、あんた達、くろの運命の武具は作れない。いや、作っても残らないって言い伝えられてる」


「じゃ、僕は、武具を持てないってこと?」


「そうとは言わねえが、あんたが先代ヴォルガから打ってもらった剣、涅槃寂静ニルヴァーナ。あれは特殊な鉄で作ってあってな、あれ以外はあんたは武器を持てねえ」


 それを聞きバサラはしょんぼりとした。

 自身が持てる武器がもう既に無いことと、それを売り払ったのは自分であったが故に、後悔と自分に対しての不甲斐なさにジータや弟子達に申し訳なくなっていた。


 そんな彼を見て、メタリカはジータの方を見つめた。彼女はその視線に気づくと少しして、しょんぼりとしているバサラの前に、先程もらっていた包みを置いた。


「えっと、ジータさんこれは?」


「御師様、私があなたを王都に連れてくる際に言ったこと覚えてますか?」


 その言葉に、バサラはハッとなり、その包みに手を置き、ジータの方を見た。彼女は手でどうぞと言う動作をするとその包みを中身を確認する。


 それは主人の帰りを待っていたかのように包みの中から姿を現すと同時に、鍛冶場の火に照らされその特徴的な色の輝きを見せた。

 黒い両刃の刀身は彼の腰ほどまで伸びており、柄は新品のように新しくなっている。


 人知れず神を殺した男、カツラギ・バサラが使っていた剣。


 魔剣・涅槃静寂ニルヴァーナ

 30年ぶりにその唯一の使い手の元に戻って来た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る