リーフ物語

神月

冬の一時 〜雑貨屋さん〜


 曇天の空に雪がチラつく。

 今年の冬は例年より長く深いと町長のアンドルから聞いていたが、想像以上だった。

 豪雪が何日も続き、食料と薪は秋の間に貯蓄していたお陰でなんとかなったが、町で購入しなくては手に入らないランプや暖炉を灯すために必要な燃料が不足しそうになり肝が冷えた。

 10日ほど続いた降雪がようやく止み、急いで山の麓の町まで買い出しに向かった。

 町の中も雪は深かったが、あちこちで朝から除雪作業をしていたのか道は歩きやすくなっていた。 なるべく駆け足で向かった雑貨屋だったが、久しぶりの開店に行列ができるくらい皆、考えることは同じだった。

 長蛇の列に並び、30分ほど待ったところで中に入ることができた。

 外のキンっと冷えた空間から、暖炉の暖かさが玄関付近まで伝わる室内に入り、リーフはホッと息を吐いた。


「あらぁ、リーフちゃん。いらっしゃい」


 レジでお客様対応をしていた雑貨屋の看板娘ーリアが、お客様が離れるタイミングで出入り口に佇むリーフに声を掛けた。

 桃色の柔らかな髪を瞳と同じ色の赤いヘアバンドでふんわりと1つにまとめ、皮のベストに白いワンピースと臙脂色のスカートを身に纏っている。

 リーフより2つ年上のはずだが、幼さのある顔立ちや穏やかな口調からは、とても年上には見えなかった。


「こんにちは、とても繁盛してますね」


「えぇ、いつも閑古鳥さんが鳴いているのに嬉しい悲鳴だわぁ」


 リアは和やかに微笑むが、すぐに困った風に眉を下げてしまった。


「本当なら数量制限なんてしたくなかったのだけど、店側も荷物の配達がいつもより遅くて困っているのよねぇ」


「雪凄かったですからね。あ、それならうちの牧場に備蓄している食料を分けましょうか?」


「えぇ? でも、それはリーフちゃんの分でしょう。ダメよ、困っている人がいるからって自分の身を削っちゃ」


 メッと、小さな子供を窘めるように人差し指を突き出してくるリアさんにリーフは苦笑を浮かべる。


「大丈夫ですよ、少しくらいなら」


「甘いわ。この町の冬は都会と違って簡単に山と町の道を塞いでしまうの。今はまだ雪が少ないから行き来ができるけど、後二ヶ月も続く冬を乗り越えられなくなるわ」


 これはオマケね、大切に使ってね。と、燃料を少し多めに入れてくれた。たまに出るリアのお姉さん顔に、リーフは嬉しさと照れが入り混じり、つい俯きながら、小声で「ありがとうございます」としか言えなかった。

 チラリとリアを見上げると、彼女は母性あふれる優しい表情を浮かべ、どういたしまして。と言外に返事をしてくれた。彼女の優しさには感謝しかなかった。

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