そのおとをたましいにきざめ

南方 華

ただ、それがある

 母の声を、今でも覚えている。


 逃げなさい、隠れなさい。生き延びなさいと。


 空の音が、ぐぁん、と辺りに響いて、そのたびに、聞きなれた人々の叫び声が途絶えていく。



 僕は、逃げた。


 生きることが大事だと、生き残らなければならないと。


 その言葉をかみしめながら。



 あれから、10年経ち。


 俺は妻に、息子に恵まれた。


 たまたま幸運がいくつも重なり、生きることも、生きる理由も与えてもらった。


 そして、憎むべき敵も。



 ああ、神の名を呼び、前に進もう。


 ああ、神と共に、俺の命は燃ゆる。


 俺の家族を、友達を、幸せを壊した化け物をやっつけにいこう。


 俺がもし志半ばで散ったとしても、息子が、仲間が、その遺志を継ぐ。


 この憎しみと決意は、絶えることがないのだ。



 それらを絶やすまで、連なり続ける。

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