ロディ!聖騎士訓練校を卒業「しちゃった」聖騎士未満の冒険譚

あきょう

第一章

第1話 卒業しちゃった!!!

「これより、最終試験を開始する!両名、前へ!」

 雨が降りしきる中、聖騎士登用試験の最終試験、一対一の模擬試験が開始されました。教官の声に、私は盾と剣を構え前に出ます。試験の条件は相手を殺すことなく無力化すること。しかし腕一本を切り飛ばす大怪我程度なら回復系統の第五界技≪大回復≫で傷跡ひとつ残らず元通りになるので不問とされます。つまりは何でもありの決闘、と言っても差し支えはないでしょうね。


 相手は同期のジューン、年齢も近い女の子です。チャームポイントの笑顔は鳴りをひそめ、鋭い眼光が鎧から見えています。残念ながら聖騎士としての技量はあっちが上。なら私は持てる技をもって、それに食らいつくだけです。


 初手でジューンに向けて駆け出し距離を詰め、盾ごと殴りつける、ように見せかけて、まっすぐ投げます。盾同士の衝突から衝撃を逃がすように後ろに下がったジューンの横に回り込み、聖騎士としての基本技の第一界技≪光剣≫で足を狙います。


 しかし悲しいかな、幾度となく訓練で手合わせをしているジューンには手の内が割れています。私が泥臭い戦い方をすることも、大技が使えないことも。

 既にジューンは聖騎士の第三界技≪頑強≫を発動しており、具足で剣は止められてしまいました。こうなった聖騎士は、たとえ目に泥を投げかけられても対象を見失うことはなく、凡庸な技能では歯が立ちません。剣が止まった一瞬の隙に、ジューンの剣が私の右肩に突き刺さります。焼け付くような痛みが走り思わずくぐもった声が口から洩れました。


 でもこれこそが今回の真の狙い。大技を使う隙もなく、しかし私をしとめることが出来る絶好の機会。なら何も発動することなくただ刺しに来ることはわかっています。


 拳闘士の第二界技≪剛腕≫を発動し、左手で強引にジューンの剣を持った腕ごと掴んで地面にたたき投げます。まさか右手を剣に貫かれてなお動くとはジューンも思っていなかったのか、頑強を再度展開することもなく地面にたたきつけられたジューンに、右手から持ち替えた剣を突きつけます。


「そこまで!結果は順次伝える。医療班で怪我を治癒して今日は寮へ戻るように」


 勝った。これは流石に勝ちました。いやぁ長かったですね。下積みすること丸6年。何年も登用されていく友人たちを見送るのはとてもつらかったけど、ようやく私も登用です!それを思えば肩の痛みなんてあってないようなものですねぇえへへ。



「ふ、不合格、ですか???」


 後日合格発表とは別個に呼び出された私は、訓練校の校長直々にとんでもない知らせを告げられてしまいました。


「うん、不採用。いやロディさん、貴女の勝負勘とか技の運用方法凄いんだ。現に君に勝てる人間はこの訓練校内でも、いや現役の聖騎士を通しても少ないだろうね。だけど君さ」


 一旦言葉を止めた校長の目が光ります。


「頑強…というより、聖騎士の第3界以降の技使えないでしょ」


 ぐうの音も出ません。私の致命的かつ慢性的な欠点を突かれてしまいました。それは何をしてもあと一つ届かない。弓も斧も剣も盾も、基本的な物しか身につかず、それ以上に技を極めようとすれば、そこが頭打ちとでも言わんばかりに伸び悩んでしまうのです。

「聖騎士、と名乗る為には頑強を含めた第三界以降の技術が必須になってくる。これはわかるね。何故なら聖騎士に世間が期待するのは頑強さと、悪しきものを封じ滅する力だからさ」

 校長の言い分はもっともです。人から期待される肩書を背負う以上は、その技量を持っていなければいけない。分かってはいるんです。それでも、やっと入れた訓練校だから、真剣に打ち込めた六年間を無駄にして辞めたくないんです。

「それなら来年、いえそれ以降も頑張って…!」

 私の頑張る意思を遮って、所長が続ける。


「ところでなんだけど、此処の在籍限度年数は覚えているかな?」

「えっと、あっ」


「うん、君、卒業ね」

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