第52話



 セクター7、居住区、ニーナの部屋の呼び鈴が鳴る。

ニーナはテイクアウトで持って帰って来たサンドイッチをお皿に置いて、壁面に備え付けの画面を見ると、


「あの馬鹿、何しに来たのかしら」


 と呟く。


 そうとも知らずに、扉の向こう側では笑顔の男が立っている。


「やあ、ニーナ、僕だよ。画面で見えているんだろ?」


「あら、リー、さん、だったかしら?」


「そりゃ無いだろ、まさか忘れたなんて言わせないぜ」


「うーん、確か、そんな名前の人が昔居たような居なかったような」


「頼むよニーナ、ほら、この通りプレゼントもあるんだ」


「それはそれはご丁寧に、プレセントだけ置いていってくれません?」


「本当に頼むよ、中に入れてくれよ」


「私、知らない男の人を簡単に部屋の中に入れるような女じゃありませんことよ」


「頼む、ニーナ、この通りだ」


 ドアの鍵が開く音がする。

リーは、そっと部屋の中に入る。

そこには腕を組んで壁に寄りかかっている女性がいた。


「やぁニーナ、久しぶり」


「久しぶり? お久しぶり過ぎるくらいよ。時々セクター1からセクター7に帰っていたってことを警護班の私が知らなかったとでも思っていたのかしら? それにルーとは時々会っていたんでしょ? 私には挨拶もないってどういうこと?」


「ああ、そうだね。だからこうやってお土産を持って来たんだ。ルーに会う時は、奴がいつでも珈琲を奢ってくれるんだ。でも君は特別さ」


「あら、特別扱いなんてして要らないわ」


「分かっているよ、頼むから、その胸で組んだ腕を解いてテーブルに案内してくれないかい。本当、頼むよ」


「分かったわ、どうぞこちらへ」


 ニーナはそう言うと、腕を解いてリーをテーブルまで案内する。

テーブルを見てリーが独り言のように呟く、


「やっぱりそうか」


「何が、やっぱりなの?」


「いつもサンドイッチなんだね」


「忙しい人間は、これで良いの。サンドイッチ伯爵の話は知っているわよね?」


「ああ、知っているとも。でも、俺たちおかしくないか?」


「何が?」


「君はいつもサンドイッチだ。ルーはと言えばパスタばかり。僕は菜食主義者だが他のものも食べる、時々だけどね」


「それで?」


「君はサンドイッチしか受け付けない、って言うんじゃないだろうね?」


「それについてはさっきも言ったはずよ、サンドイッチ」


「そうそう、男爵だろ?」


「違うわ伯爵よ」


「嘘だろ、公爵じゃなかったかい?」


「伯爵よ」


「そうか伯爵だったか・・・」


 とうとう根負けしてニーナが笑い出す。


「もうどっちでも良いわ、それでプレゼントって何?」


「うん、餃子を持って来たんだ」


「チャイニーズ・ミート・ダンプリング?」


「いや、餃子だ」


「同じじゃないの?」


「同じじゃない。俺が持ってきた餃子は、特製野菜餃子だ」


「リー、あなたが作ったの?」


「作れないこともないけど、この星で全ての材料を揃えるのは難しい。材料は全て地球から送ってもらったんだ。だから俺は具材を包むだけ」


「確か、あなたのお母さんは中国人だったわね?」


 しかも、危篤状態であると聞いていたが、その言葉は飲み込んだ。


「ああ、そうだとも。美味いんだぜ、じゃ早速作るからさ、台所を借りるよ」


 リーは、箱詰めした餃子を出して、蒸し焼きの準備を始める。

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