第12話



 例えば、ボールを出来るだけ遠くに投げてみたとしよう。

山形の弧を描いてボールは飛んでいき、やがて地上に落ちる事になる。

重力と引力による古典的物理学だ。

もっと強い力でボールを投げれたなら、更に遠くへボールは飛んで行き、やはり地上に落ちて来る。

更に強い力でボールを投げれたなら、地平線を越え、海を越えられたなら?

そのボールは、弧を描いてやがて落ちるのではなく、地平線と海上を真っ直ぐに飛び続けるであろう。

そして、真っ直ぐに飛行しているように見えるボールは、実は地上最高の弧を描き、投げた人の所に戻ってくる。

有酸素状態ではなく、空気のない宇宙。

抵抗力がほぼ無に等しく、引力に支えられながら移動する物体、それが衛星である。

人工的に作られる衛星も原理は同じである。

古典的物理学だ。


 未確認飛行物体と呼ばれていた時代があった。

現在も未確認のままであるが、船籍が確認できていないだけで、実在することは確認されている。


 クロウ船長を乗せた一隻の海賊船は、その古典的原理を越えた物理学によって造船されている。

地球人たちの中では理論物理学で証明している人もいるが、計算式上のもので実際に時空間を超えることは不可能である。

海賊船と呼ばれているクロウの船も船籍は確認されていない。

そして、地球上の如何なる物理学者も計算式上でしか証明できない理論の更に向こう側にある理論で、この船は航行している。


「なんだ、あの船は」


「地球の物じゃないぜ」


「月面基地が作ったのか?」


「新しい護衛艦を作りやがったのかね」


「兎に角、早いとこ肉と魚を積んで離脱だ」


 などと地球人の海賊達が手を休めずに会話をしている。


 一方、


「クロウ船長、どうします」


「素粒子回線を開いて、波動で呼びかけろ」


「了解、素粒子回線を開きます」


 素粒子回線は、空気や水分などの振動で音を伝えるのではなく、波動で伝える手段である。

所謂、分子の振動で音を伝えるのではなく、素粒子を使った波動で語りかけるので、分子のないところでもスピーカーのように相手に話しかけられる。


 通信士のレイが船長に言われた通りの言葉を使い、向こう側にいる海賊船に語りかける。


「警告です。積荷を元に戻し、直ちに離脱しなさい。繰り返す、積荷を元に戻し、ここから去りなさい」


 向こう側の海賊船では、


「おいおい、あんなことを言ってやがるぜ」


「月星人に一発お見舞いして思い知らせてやるかい」


「それも上等だ」


「いあ、待て、あの音はなんだ? 無線を使わずに警告しているぞ?」


「月は、そんなものまで作りやがったのかい」


「恐れることはないさ、現に俺たちは地球護衛艦をあっという間に宇宙の藻屑にしてやったんだぜ?」


「そりゃそうだ、レーザービーム砲の照準を敵艦に合わせろ」


「了解」


 通信士のレイがレーダーを見ながらクロウに伝える。


「奴ら、攻撃するつもりですよ」


「構わん、やらせておけ。船を海賊船に近づけろ」


「了解」


「船体に素粒子分解幕を張れ」


「了解、素粒子分解幕セット。準備良し。放出します」


 全ての物体は、素粒子で形成されている。

その素粒子を分解すれば、どんなに強いエネルギーでも、単に空間に浮かぶ粒子でしかない。


「おい、ありゃ何だ、奴さんの船が白く光り出したぜ」


「構うな、ビーム砲発射だ」


 赤いエネルギー光線が敵船から放たれた。

宇宙空間で眩しいくらいの光が船から船へと走る。

それを受けたクロウの船が衝撃で大きく揺らぐ。

そして、それでもクロウの宇宙船は海賊船へ目と鼻の先ほどに近づく。


「クロウ船長」


 通信士のレイが船長に判断を委ねる。


「体当たりだ」


 その宇宙船の航路を危ぶんで宇宙海賊たちが騒ぎ出す。


「おい、奴ら何を考えているんだ。このままだと衝突するぞ」


 すぐ後に、大きな衝撃が両艦に起きる。

クロウの船は更に素粒子回線を使って、敵艦に語りかける。


「君達のビーム砲は、この船には無駄だ。投降してここから去りなさい」


 海賊船の中で海賊達が船長の判断を仰ぎ始める。


「駄目だ、奴ら、格が違い過ぎる。命は助けてやると言ってるんだ。投降だ、無線で伝えろ」

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