第50話 四者四葉
ボロボロの平屋から逃げ出した囚人、奴隷達は黒焦げの物体になる。そして数名のプレイヤーだけが地面に這いつくばりながら恐怖に絶望していた。
「助けてくれ~」
「うわぁぁぁぁぁぁ~」
「・・・」
助けを求める者、泣き叫ぶ者、怖くて黙り込む者、態度は千差万別だが誰一人として、この状況に気付いている者はいなかった。なぜ自分達だけ雷が直撃しない理由に。無課金で尚且つSNSにフォローしていないプレイヤーは、ゲームの死が現実に死に直結する。そんな摩訶不思議な事が起こりうる事は無い。しかし、ゲームの世界の体験が摩訶不思議な事柄にに真実味をつける。もう、この場に居るプレイヤー全員がゲームの死が現実の死に直結すると信じている。絶望し自暴自棄に陥ったプレイヤーが現状を顧みる余裕などない、ただ、他力本願に助けを求めるだけで精一杯であった。
兵士棟に待機していた兵士及び一部の聖寵者が兵士棟から飛び出してきた。
「一体何がおこっているのだ!」
兵士たちは凄惨な光景を見て呆然と立ち尽くす。
「また獲物が出て来たな」
モールは嬉しそうに顔を緩める。そして、笑みを浮かべながらスキルを発動する。スロースも楽しそうに追随した。
兵士たちは一瞬で黒焦げの死体になり、竜神族の力をまざまざと見せつけた。
「竜人族!!!なぜこんな酷い事をするのだ」
バードック隊長が大声で叫ぶ。
「誰だあれ」
「俺達を見てビビらないということはプレイヤーなのか?」
「試してみるか?」
「そうだな。次はこの竜剣で切り裂いてみよう」
モールはお尻から生えている尻尾を掴む。そして、尻尾を引っこ抜くと尻尾は赤の鱗で覆われた剣に姿を変えた。
「見た目は良くないが鱗で覆われたこの竜剣の切れ味は最高だ。ドラゴンでさえ紙切れのように切り裂く事ができた。少額課金の人間に負ける要素は一つもない」
「モール、過信は禁物だ。災いの戦士は漆黒の鎧を身に着けていると聞いている。あの男は金色の鎧だから災いの戦士ではない事は一目瞭然だ。しかし油断はするな。いつでもテレポートが出来る準備はしておけよ」
「もちろんだ。簡単に60万円を失うわけにはいかないぜ」
モールは垂直落下してバードック隊長の目の前に降り立った。
「お前はプレイヤーか!」
「プレイヤー?なんの事を言っているんだ」
「とぼけている感じではない。NPCだな」
「何をわけのわからない事を言っている。それよりも、なぜこんな酷い事をするのだ!」
バードック隊長は外で起きている惨劇を見て慌てて外に飛び出した来たのある。
「ここでは邪神アルマゲドンの栄養素になる鉱石を採掘しているだろう」
「それの何が悪いのだ!俺達には黒龍神様の力が必要なのだ!」
竜人族を目の前にして一歩も引かない勇気をみせるバードック隊長。それとは対照的に建物の窓から震えながらその状況を見守るベルクヴェルク伯爵とドーナット、そして、いつでも逃げ出せるようにバードック隊長と共に外に出るふりをして、1階で逃げるチャンスを伺っている俺。
「この世界は邪神の復活は望んではいない。基本職を与える程度なら白龍神アストラも見逃してはいる。しかし、俺達はそんなあまい考えのアストラに従うつもりはない。邪神に少しでも力を与える者は死をもって制裁すると決意したのだ」
「俺達にも神を信仰する自由はあるはずだ。お前達が決める事ではない」
「また過ちを繰り返すつもりなのか!人間は余りにも強欲で自分勝手な生き物だ。やはり生きているのは間違いだったのだ」
モールは【7国物語】の主人公にでもなったかのように、竜人族としての役割を演じている。
「モールはNPCとのやりとりを楽しんでいるようだな。たしかに、ただ殺してしまうのは味気ない。程よい演出があってこそ、殺しがいがあるというものだ。俺達はただの快楽殺人者とは違う。存分にゲームを楽しみながら殺人を楽しむ博愛殺人者なのだ」
スロースが上空で叫び声をあげたと同時にバードック隊長の体が二つに分かれた。
「はぁ~~~気持ちがいい」
バードック隊長の体を切り裂いたスロースは煌煌の笑みを浮かべていた。
「スロース、俺の得物を横取りするなよ」
「お前が演出に手間をかけているからだ。しかし、この感触にこの光景、飛び散る血しぶきを浴びるのがこんなに気持ちが良いものだと俺は知らなかった」
全身にバードック隊長の返り血を浴びたスロースはシャワーを浴びた後のようにすがすがしい顔になっていた。
「バードック隊長ですらまったく相手にならない・・・でも、大罪人様ならなんとかしてくれますよね」
「・・・」
いつの間にか俺の後ろにはムッチリーナが立っていた。俺はバードック隊長が竜人と戦っている隙に逃げるつもりだったが、そんな隙は全く生まれることはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます