第4話 帝都ロギアルシアン

 森を抜けると草原が広がっていた。そして、草原の側には石畳で舗装された道路が見える。


 「この道を進めば町があるはずだ。確かアナウンスでは近くに帝都ロギアルシアンがあると言っていたな」


 ゲームをスタートしたら近くに町があるのは常識だ。町で情報を収集しクエストを受けて冒険を始めることになる。このゲームは無限の可能性を秘めたMMORRG。力を持たない俺でも生き抜く術は用意されているだろう。だから、帝都ロギアルシアンに行く事が俺の最初の目標のはず。


 今の俺は後悔しかない。少しでも課金をしていれば、今の不遇な状況に立たされる事はなかった。少しでも利用規約を読んでいればこのゲームをする事もなかった。ここでの死が本当の死に直結するかは疑問ではあるが、試す事は出来ない。俺は絶望的な顔をしながら石畳の道をキョロキョロと回りを見渡しながら歩く。

 ここは魔獣が闊歩するゲームの世界、いつ魔獣が襲ってくるかもしれない。全速力で帝都を目指したいところだが、体力が持たないと判断し安全を確認しながら前に進む。ゲームでは道路に魔獣が出現しない事が多い。逆に道路を外れた草原や平原などに魔獣が潜んでいる事が多い。もし、これがゲームの世界ならこの石畳の道を歩いて行けば魔獣に遭遇する可能性は低いだろう。俺はビクビクと震えながら石畳の道を歩く。少しの物音も見逃さないように耳にも意識を集中させる。ビビりながらも慎重に30分ほど歩くと遠くに赤いレンガで作られた大きな塀が見える。塀の向こうには赤や黄色などカラフルな建物、その奥には真っ白な大きなお城が見える。おそらくあれが帝都ロギアルシアンであろう。


 「やっと町に入れる。これでなんとかなるぞ」


 俺は帝都を見て一安心した。ここはゲームの世界、様々なイベントやクエストが用意されている。ゲームの序盤はチュートリアル要素を含んだイベントやクエストが進行されるので死ぬことはないはずだ。しかし、帝都が見えるまでは不安でいっぱいだった。最初のチュートリアルは魔獣との戦い、俺は武器や魔法など戦う術がなかったので、逃げる事しかできなかった。次も同じようなチュートリアルだったら死ぬ可能性があったのだ。帝都に無事に着くことができれば魔獣と戦うチュートリアルはないはずだ。

 俺は体力の限界がくるまで走る事にした。帝都に着いたところでゲームの世界から出る事はできない。しかし、魔獣が闊歩する外の世界に1分たりとも居たくないのが本音であった。

 

 体は軽いし足も軽快に動く。全速力で走り出して1分程が経過した。多少の息の乱れがあるが、スピードが落ちる事は無い。逆にスピードが上がる事がないので、俺の今の体だとこのスピードが最大値なのであろう

 全速力で走り出し5分が経過した。人間が全速力で走れる時間は42秒が限界だと言われている。しかし、俺は5分間全力で走る事が出来た。これは、ここがゲームの世界である事の証明でもあった。しかし、五分後には息が乱れ始めスピードが徐々に落ちて行く。今の俺が全速力で走れるのは5分であることがわかった。10分後には完全にスピードが落ちて走れなくなった。


 「やっと着いたぜ」


 スタミナが切れた頃に俺は帝都ロギアルシアンの大きな鉄の門の前に居た。スタミナが切れたが歩けないわけではない。俺は歩いて門に向かう。門の大きさは縦10m横5m、中央には三つ首の龍が翼を広げている紋章が見えた。門の前には身長180cmほどのシルバーのフルプレートアーマーを着た屈強な兵士が左右に3名、合計6名が槍と盾を構えて人形のように微動だにせず立っている。そして、20mほどの赤いレンガの塀が帝都を守るように囲んでいる。門の横には3階建ての緑の屋根の建物があり、ここが兵士、衛兵の休憩所かつ検問所であった。俺は検問所に向かう。

 俺の姿が見えたのか検問所の中から緑のダブルブレストに黒のタイトパンツ、胸には三つ首の龍の形をした白の徽章を付けている男性の衛兵が姿を見せた。俺はすぐに声をかける。


 ※帝国働く職員(非戦闘員)の制服は、ダブルブレストにタイトパンツ(スカート)である。制服の色と胸につけている徽章の色によって階級が決まる。緑は一番下の階級を現し、徽章がないのは一般職員を現し、徽章の色が変わると役職が上がる【緑→白→赤】。この衛兵は一番下の階級の職員だが、その職務では副責任者に該当する。


 「町に入らせてください」

 「・・・」


 俺の問いかけに衛兵は何も言わずに俺の全身を見渡す。


 「そのみすぼらしい格好は・・・」


 衛兵は怪訝な顔をする。確かに俺の服装はボロ布を継ぎ接ぎして作られたみすぼらしい格好だ。俺が町中で今の俺と同じような服装をした人がいたら決して近づきたくはない。怪しく思われても仕方がない事だった。


 「外には魔獣がいるんだ。中に入らせてくれ」

 「身分証をみせろ」


 汚物を見るような不快な目で俺を見て、強い口調で衛兵は言い放つ。


 俺は身分証など持っていない。しかし、ゲーム開始時に誰しもが携帯しているアイテムかもしれないと思ってズボンのポケットなど、何か入っていないか確認をするが、何も入っていなかった。


 「持っていません」

 「やっぱりな。身分証がないのなら通行税500ルギー支払え」


 ※1ルギーは日本円で100円程度である。なので500ルギーは5万円程度である。


 俺はこの世界のお金など1ルギーも持っていない。


 「持っていません」

 「身分証もなくお金もないのに、どうして帝都に入れると思ったのだ!やっぱり怪しい奴だったな。お前を帝都には入れてやる。でも、お前が入るのは牢屋になるだろう」


 衛兵が俺の手を掴もうとした。


 「嫌だぁ~」


 俺は衛兵に手を掴まれる前に全速力で来た道を引き返した。幸い体力が少しは回復していたようで1分ほどは全速力で走る事が出来た。しかし、1分を経過すると体力が減り走る事ができなくなった。俺はおそろおそろ後ろを振り返る。すると衛兵の姿がなかったので俺はホッと肩を撫で落とした。


 


 

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