くちびるを合わせて火花虫時雨

瞬間、瞬間が、小さな火花の炸裂であることを、どれだけ昔から知っているか。

それが、その人が幾億年この地上に生きながらえているのかを測るもっとも有意義な方法である、ということを何人の人が理解しているだろうか。


唇と唇を合わせた時、互いの胸の奥から放出される火花、薄い、時には濃くもなる、始源の液であるところのそれを私たちは交換している。


私はもしかしたら泥人形の支配する温和な写植屋の臆病な店員として生まれ、未だ自分が泥人形になりきれていないことに不満を持ち、そのために真夜中の太陽を射殺しようと試みはじめ、なおかつ近所の鴨肉屋の知恵遅れの十三男との初めての交接に備えて、一角獣の右足首から分泌される粘液を両手小指の第二関節に染み込ませているやもしれない。


それがそうであったとしても、私たちは星星が次々墜落していく深夜の野原で、数千年前の廃墟を見つめながら、そっと互いの鎖骨に爪を立てるのだ。深紅の背中を持ち退化の過程にある四肢をたるませた虫の声が誘発する吐き気に胸をときめかせながら。

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