第14話

二〇二三年。輝は莉花と結衣を連れて初詣へ向かい、参拝を終えると札と破魔矢を購入し自宅に戻ってきた。あらかじめ用意した御節の詰め合わせをテーブルに並べ、結衣の離乳食も出来上がると三人で席に着いて食事についていった。結衣は少しそわそわして落ち着かない様子でいたが、何度か口元にスプーンを添えるとゆっくりと食べだしていった。


「今年初だね」

「まだ早いかと思ったけど、慣れてくれればいいな」

「これ、お義母さんの栗きんとんと煮豆だね。俺らも作れるようにならないとな」

「レシピ聞いておいたよ。時間がある時にやってみようかと思う」

「明日、俺の実家には結衣も連れていけそうだよな?」

「うん。みんなに会うの、六月以来だね」


「あの時姪の未希が来て俺をおもちゃみたいに抱きついてきたから、多分明日もやられるな」

「格闘だね。あまり長くいない方がいいよ、向こうも仕事があるんでしょう?」

「ああ。結衣の顔見せたら即行帰るぞ」

「そうするとお義父さんたちも寂しがるけど、仕方がないよね」


「またあとで写真と動画送ればいいよ。この間も送ったらデレデレだったしさ」

「親御さんもそうならあなたも一緒じゃん。結衣、結衣ってくっついてばかりだし」

「今のうちしかできないことなんだから良いじゃん。ね?結衣」


結衣が喃語を言うと、二人も頷いて笑い出した。翌日、輝の実家のある中目黒へ行き彼の両親に結衣を顔を合わせると、すぐに抱かせてくれと言い出してきたので受け渡すと、予想通り即座にリビングへ連れて行った。中に入ると妹夫婦も来ていて、未希が輝を見つけると彼の足元に抱きついては嬉しそうに飛び跳ねていた。


「結衣も顔がしっかりしてきているね。まだミルクなの?」

「昨日お粥食べさせてみたら少しは食べた。また時間をかけて色々作っていこうと思う」

「未希。結衣だよ、今日初めましてだね。ご挨拶は?」

「……こんにちは」

「うまく言えたな。未希、蜜柑みかん剥けたよ、食べよう」

「うん!」

「結衣、髪の毛が逆立っている。静電気か?」

「ああ、ちょっと貸して……よし、撫でたら治まったよ」


親族たちが結衣に興味津々だ。彼女も大人たちが囲んでいる様子が別世界の場所にいるかのように感じている顔をしていて、時折泣きだしては皆であやしていくと、わずかだったが慣れてきているようにも見えた。輝は未希にお年玉をあげるとありがとうと言って喜んでいた。


帰り際玄関先で挨拶をすると輝の母親が莉花に、育児で分からないことはすぐに連絡するようにしてと告げてくれ、結衣に手を振って皆に見送られながら家を出た。夕食の用意をしていると輝のスマートフォンにメールがきて中を開き、久米からきていて文面を読んでいくと三日の日に自宅に挨拶に行きたいと言ってきた。


寝室へ入り彼女に電話をかけると留守番電話に切り替わりメッセージを入れて断ることを伝えた。また一時間ほど経ち久米からメールが届いて、一月中には会えないかと言ってきたので、妻子ともに第三者に会わせると気を遣わせて疲れてしまう時期なので、自分単独でなら会うことはできると返信した。

着信音が鳴り受話器のマークをタップして出ると、鼻を啜る音が聞こえきたので、何かあったのかと訊くと、今すぐに会いたいと返事をしてきた。


「俺も家族といたい時期なんだ。妻一人きりで家のことを任せきりにはできない」

「登坂さんに……傍にいてほしい」

「理由は?」

「ずっと一人で家にいても不安なんです。少しの時間でもいいから、顔を合わせることはできませんか?」

「一人でいるなら日中でも気晴らしに外出してみたらどうかな?少しは違うと思うよ」

「そんなに、会いたくないんですか?」

「もちろん会いたい。タイミングが早いんだ。仕事初めも立て続けに外勤があるし、家に帰る時間も遅くなりそうなんだ。できるだけ時間を作れるようにするから、もう少し我慢してくれ」

「……わかりました。でも探すことにします」

「えっ?」


するとそこで通話が途切れてしまい、彼が立ち尽くしていると、莉花がドアをノックして入ってきた。


「輝?誰から?」

「会社の後輩だ。社員の初詣の待ち合わせ時間のことで話をしていたんだ」

「そう。私、お風呂に入りたいんだけど、結衣を見ていてくれない?」

「ああ。入っておいで」


それから数日が経ち、輝が外回りの営業へ勤しんでいるころ、久米は店頭で接客をしては、客足が途絶えると深くため息をもらして、その様子を見た社員がどうしたのか訊いてきた。


「久米さん疲れている?」

「ああ、すみません。最近友人となかなか会えていなくて、どうしているのか気になるんです」

「その友人って男?」

「まあ……男友達です」

「彼女いるの?」

「ええ。いるようでいないような感じで……」

「あやふやね。そういう人と付き合うのって退屈じゃない?」

「退屈ではないですが、半分言い訳が多くてどうしたいんだろうかなって考えてしまうんです」

「そういう腐れ縁になるような人間関係は長く続かないよ。きっぱりやめて新しい恋でも探したらどう?」

「それがうまくいかないからため息の数が増えるんです」

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