第4話

後片付けを終えると、全員ですすきのの飲食店へと入り、注文をしてからビールで乾杯をしていった。


「このまま売れ行きが危うかったらどうなる事かとヒヤヒヤしましたよ」

「三種のフィナンシェも結構人気ありましたね。二日続けて来てくれたお客さんもいて好評でしたし」

「あとは久米さんの提案したアップルパイ。あれも貢献につながったしね。改めてありがとうございます」

「貢献だなんてとんでもないです」

「うちらにとってはあれも都内で戦力商品として出しているから、今後の見通しにも繋がっていくんです。今回は本当に良い機会になりましたよ」


「それはよかったね、久米さん。私もこの歳だからお客さんに目を止めてくれるかどうか気になって仕方がなかったんですよ」

「種田さんも長時間お疲れさまでした。本当に助かりましたよ」

「あら良かった。皆さんと働けて楽しかったしね」

「今日は僕が奢るので色々好きなの注文して食べていってください」

「じゃあ遠慮なく……」

「宮下。お前、あまり食うと奥さんに叱られるぞ。そこそこにしておけよ」


ようやく安心できたのか、皆が穏やかな表情をしながら食事についていき、今回のイベントの手ごたえも感じながら会話が弾んでいった。二十二時になると酒の酔いが程よく回ってきたで皆で挨拶をした後、それぞれが帰宅していき、輝と久米は約束どおり彼女の行きつけだというワインバーへと足を運んでいった。

店内の照明は薄暗く感じたが、壁伝いに並ぶワインボトルが静かな佇まいを見せつけて洒落ている雰囲気を醸し出しているかのようだった。カウンター席に座り店員にお薦めのワインを聞き出して注文をすると、二人で同じナチュラル系統のオーストラリア産の赤ワインを頼んだ。


「相談したい事って何?」

「実は近いうちに私も東京に引っ越しするんです」

「そう。要は再就職するってこと?」

「はい。札幌も色々働けるところもありますが、やはり上京して経験値を踏む方が自分のためになるんじゃないかって思って」

「そうか、できるうちにやれることはやっておいた方がいいよ。俺も今の会社も十年いるし、いさせてもらっている分後輩たちに仕事の楽しさも教えていきたいしね」


「できるなら……一緒のところに働けたらいいなぁ」

「え?」


「私も専門学校時代にパリに研修に行った時できないことだらけで散々な目に遭ったんです。言葉もそうだし実力も日本と全然違って桁違いだったし。だから東京でたくさん色んなこと実につけて行きたいなって目標があるんです」

「もしかしてうちの製菓店の店舗にでも行きたいとか?」

「それもあります。早いうちにいろいろ企業の面接受けに行って、採用されたらすぐ出れるように準備しているんです」

「良い意欲があって、俺も久米さんみたいな人材が来てくれたらみんなと一緒に会社を上々させていきたい」


久米はグラスを一気飲みして店員におかわりをすると、輝の腕につかまってきて彼の顔を見つめてきた。


「挑戦するって悪いことじゃないですよね」

「そうだね。後悔しないような生き方を選ぶのも大事だけど、誰かを喜ばせたいって気持ちも大事だからね」

「登坂さん」

「何?」

「私には魅力はあるんでしょうか?」


彼女は唇をきゅっと噛みしめてさらに強く彼の腕を掴んできたので、酔いが回ってきたのかと訊くとまだ飲めるといってきた。


「あまり無理しない方がいい。……すみません、タクシーって呼んでもらっても良いですか」

「はい。そちらのお連れ様でよろしいですか?」

「はい。お願いします」


その後店を出て肌寒い風が触れるように吹いているなか、二人はタクシーに乗り込み、しばらくすると久米が輝に滞在先のホテルに行きたいと言い出してきた。


「私、登坂さんに惹かれています。もう少しだけの時間、一緒に居てくれませんか?」

「……わかった。少しだけならいい」


輝は彼女の手を握りしめてお互いに微笑み合うと、肩に寄り添ってきた彼女の頭を撫でてその思いを噛みしめるかのように、彼はその過ちを誰に許されることなく静かに埋めていこうとしていた。

ホテルに到着し、部屋について靴を脱ぐと久米は真っ先にベットに横たわり、その隣に輝が座ると彼の太ももに身体を乗せてきて甘えてきた。


「きっと、奥さん怒るよね」

「黙っていればわからないさ。俺も久米さんのこと気になって仕方がないんだ」

「それって一目惚れしたってこと?」

「ああ。こんな風に人に惹かれたことがない。君が初めてだ」

「……登坂さんを、悪い男にしてあげようかな……」

「君も罪は重くなるかも。それでもかまわないなら抱きたいな」

「良いですよ。ねえ、もっと甘えてみたい。キスしてください……」


輝は久米の頬に唇を触れるとクスリと笑う彼女のはにかむ仕草に胸を搔きむしるように次第に身体も疼き始めて、そのままお互いの唇を重ね合わせると、ワインの香りが充満して互いの肌が触れ合いたいと自然に手が伸びると、ワイシャツのボタンを外し、彼女のブラウスを脱がせると雪白の健康的な肌が見え、首筋を舐めていくとため息を漏らしていた。

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