男嫌いな騎士②
俺たちは簡単な採取のクエストを受けて、パパっと仕事を終わらせた。
夕方になる前に一度報告へ戻り、早めに夕食を済ませる。
どれくらい見回りにかかるか聞いていなかったから、念のため軽食も用意しておくことにした。
時刻になり、俺たちは冒険者ギルド前に移動する。
すでにジーナが待っていた。
「来たか。では見回りを始める。ついてきてくれ」
さっそく歩き始めるジーナの後に続く。
見回りのルートはジーナが知っていて、俺たちには共有されていない。
「どう回るんだよ」
「外周からぐるりと一周して、徐々に中心部へ向かう。事件が起こってるのは、街の主要部よりも外だ」
「これまで何人被害にあったんだ?」
「確認できているだけで、十二人」
十二人……。
噂が立ったのは三日ほど前。
その前日から犯行があったとしても、一日あたり三人以上攫われているのか。
「犯行の頻度、手口からして複数人である可能性が高い。そして昨日の夜、襲われた家族だが……殺された男は冒険者だった」
「――!」
ジーナは小さく頷き続ける。
「レベルは37。この街ではかなりの手練れだった男が、無残に殺された」
カナタよりも一つ下のレベル。
加護やステータスで実力にある程度の差は出るけど、カナタと同格の冒険者が殺されたってことは、相手も相当のレベルってことか。
「私のレベルは40だ。もし相手が複数で同等のレベルなら、私一人では手に余るかもしれない」
「だから俺たちに? そこまで大事ならギルドに頼めば協力してくれるだろ」
「それは難しい。ギルドと騎士団は基本的に不可侵だ。ギルドからしてみれば、本件も私が勝手に動いているだけで、やるなら独自に捜査するだろう。現に捜索隊を結成していた」
「だったら別に……」
俺たちが捜索しなくてもいいんじゃないか?
と、口から出そうになった言葉を引っ込める。
「騎士として、誰も傷つけさせはしない。必ず犯人を見つけてみせる」
「……ひょっとしてさ。俺を疑ってるって、協力してもらうための建前だったのか?」
「――ぬ! な、なんのことだ」
わかりやすいな。
図星かよ。
ギルドに協力を頼んでも断られ、他に騎士もいないから一人で行動するしかない。
でもさすがに一人じゃ不安だから、誰か一緒に協力してほしい。
「それならそうと言えばいいのに」
「か、勘違いするな! 貴様を一番に疑っているのは本当だ!」
「だったら捜査協力なんて依頼せず、タクロウを見張っていればよかったんじゃないですか?」
「ふぐ――!」
おお、珍しくサラスが確信をつく質問をした。
まさにその通りだ。
ジーナも言い返す言葉が見つからない様子。
「し、私語は慎め! 見回りに集中するぞ!」
「はいはい」
ジーナが俺の中で、ちょっぴり憎めない奴になった。
捜査開始から四時間。
そろそろ眠くなってきて、サラスが大きく欠伸をする。
「まだ続けるんですかぁ~」
「まだだ。犯行時刻はおそらく日付が変わる頃、今が一番近い」
「だったらその時間から見回りすればよかったのにぃ」
「文句言うなよ。今夜犯人を見つけて捕まえられたら、明日から普通に寝られるんだからな」
「だな!」
「二人はいいですよ。どうせ夜になってもハッスルするから寝なくて平気じゃないですか」
「「――!」」
「は、ハッスル……だと……」
ジーナまで顔を赤くして俺とカナタを見ている。
語弊がある表現は止めてもらおう。
今のところ未遂だ。
「はぁ、まぁ気持ちはわかる。ちょっと腹も減ったし」
「軽食持ってきてたからそれ食べようぜ」
「そうしましょう! 風呂敷広げますね」
「ピクニックか」
相変わらず暢気な奴だな。
今がどういう状況かわかってないのかよ。
俺たちは用意しておいたおにぎりを取り出す。
すると。
ぐぅ~。
お腹が鳴る音がした。
俺たち三人からじゃない。
隣の……。
「……」
「食べるか?」
「い、いや、私はその……」
ぐぅ~。
「余分にあるから平気だぞ?」
「くっ……い、頂こう」
俺たちは四人揃っておにぎりを食べながら、暗い路地を進んでいく。
今のところ人の気配はなく、犯人は現れない。
「眠くなってきましたね……」
「寝たら捨てていくぞ」
「そこは負ぶってくださいよ!」
「カナタは負ぶってもいいがお前はダメだ」
「くっ……これが男女差別ですか」
「お前は男と女どっちの目線なんだよ」
緊張感にかける。
でも、いい加減何も起こらないのは少し退屈ではある。
静かすぎるのも眠気を誘う。
俺も少し眠くなってきた。
眠らないよう意識し、なんとか集中しようと目を見開く。
ダメだ。
このままじゃ寝る。
こうなったら……。
「ジーナ、一つ聞いていいか?」
「なんだ?」
「なんでそこまで男を嫌うんだ? 過去に何かあったのか?」
せっかくの機会なので、聞いてみることにした。
少し驚くジーナを見て、デリケートな部分を聞いたかもしれない、と後で気づく。
眠気で判断力が低下していたようだ。
「言いたくないなら別に答えなくていいぞ」
「……何もない」
「え?」
彼女は小さく答えた。
「何も?」
「私自身は何もない。ただ、姉上に教わっただけだ」
「ジーナのお姉さん?」
「赤薔薇の騎士アイギスという名を知らないのか?」
俺は首を横に振った。
カナタも知らなかったらしい。
「そうか。お前は確か転生者だったな」
「あたしもずっと村にいたから、外のことは知らないぞ」
「なるほど……」
少し考えた素振りを見せ、彼女は語り続ける。
「騎士には序列がある。私のような一般騎士と、優良騎士があり……その上に部隊長、一番は騎士団長だが、その間に七人の大隊長がいる。私の姉はその一人、この国でもっとも優れた女騎士と呼ばれている」
「凄いな。そんな人が姉って大変だろ」
「……そうだな。だから私も、姉上のように正しく強い騎士を目指した。姉上の教えは絶対だ。男は不純、故に信じるな。騎士ならば命を捨てても民を守れ。守れないなら価値はない」
随分と厳しい教えだな。
あと男に対して恨みがある言い方だ。
何かあったのはジーナではなく、彼女の姉であるアイギスのほうかもしれない。
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