新婚生活ひゃっほー!④
俺とカナタの声が重なる。
ビックリはした。
予想の中には会ったセリフだけど、まさかこの状況で言うとは思わなくて。
呆気にとられるカナタに対して、ジーナは詰め寄りながら続ける。
「カナタと言ったな? 君は大きな勘違いをしている。男というのはすべてケダモノなんだ。関われば食われてしまう恐ろしい生き物なんだ」
ものすごい偏見が飛び出したな。
「加えてその男はどうだ? 誰であろうと女性なら手を出す色情魔だというじゃないか」
「おい誰だ? 余計な二つ名を追加したのは」
性獣じゃなくて今度は色情魔?
どんどん不名誉な通りながら増えているんだが?
誰なんだよ!
ちょっとユーモアのある二つ名を広めてる奴は!
「ひゅーひゅひゅー」
「……」
隣でへたくそな口笛の音が聞こえた。
コンマ二秒で察する。
「またお前かぁ!」
「嘘は言ってないじゃないですかぁ!」
「嘘しかねーだろうがぁ!」
俺がサラスに怒っている傍らで、ジーナは構わず続けて語る。
男に対する偏見、自己主張。
彼女が思い描いている男の像は、ほぼ犯罪者だった。
「すぐ女に手を出し欲情するのが男だ。この男はその中でも典型だろう? すぐに浮気をする。悪いことは言わない。傷を広げる前に別れたほうがいい。君のためだ」
横目に聞いていたが、徐々に腹が立ってきたぞ。
さんざん言われ慣れているとはいえ、まるで俺と結婚したのが悪手みたいに言いやがって。
結婚できない奴の僻みか?
ここは一発、男としてハッキリと言ってやろう。
「あのですね。俺たちはちゃんと女神に認められて――」
「いい加減にしろよな」
「――!」
俺の言葉を遮ってカナタが言い放つ。
少し驚いた。
声色がいつもより少し低く、明らかに怒っているのがわかったから。
俺はカナタに視線を向ける。
声だけじゃない。
表情もいつになく怖い。
完全に怒っていらっしゃる。
「さっきから聞いてたら、タクロウの悪口ばっかり言いやがって……あたしは好きでタクロウと結婚したんだよ! 他人が文句言うことじゃないだろ!」
「カナタ……」
カナタが本気で怒る姿を初めて見た。
それが自分のことで怒ってくれていると思うと、心がジーンとしびれる。
指輪という証明があるから、彼女の気持ちを疑うことはない。
それでも、改めて実感する。
彼女の気持ちが俺に向いていることを。
「何なんだよあんた! タクロウに付きまとって嫌なことばっかり言ってさ? ひょっとしてタクロウのこと気になってるのか?」
「なっ……」
「え? そうなの?」
まさかのフラグが立っていたのか?
俺の知らぬ間に。
「ふざけないでくれ! 誰がこんな汚れた雑巾みたいなオーラの男に気を向けるか!」
「きっつ」
即答&罵声。
さすがの俺でも心に響くぞ。
汚れた雑巾みたいなオーラってなんだよ。
そんな雰囲気出てるのか?
「ふざけてるのはあんただろ!」
そうだそうだ。
言ってやってくれカナタさん!
「汚れてなんかない! タクロウは綺麗な雑巾だ!」
「そこじゃねぇ……」
汚れを落としても雑巾は雑巾なんだよ。
床を拭いたらまた汚れるんだよ。
そんでみっちり絞られて使い回されるんだよぉ……。
「あ、ごめんタクロウ。雑巾じゃないよな。えっと……タオルだ! タクロウは綺麗なタオルだ」
「タオル……じゃあいいか」
「いいんですか? 人認定すらされてませんよ」
「黙ってろ汚いバケツ」
「私で汚れを落とそうとしないでもらえますか! あとバケツってなんですか!」
さっきまで険悪ムードだったが、カナタの天然をきっかけに空気が軽くなる。
俺の中にあった怒りも薄れ、カナタの表情も少し柔らかくなった。
ただ一人、ジーナの表情はこわばっている。
「ありえない……男なんてすべてケダモノ、ゴミなんだ。私はそうやって教わった。咎落ちになるのだってほとんど男なのがいい証拠だ」
「なんか一人でブツブツ言ってますよ」
「そうだな」
男にトラウマでもあるのか?
単に男が嫌い……という雰囲気にも見えない。
俺のことを疑ったり罵倒するのも、何かしら彼女の琴線に触れるからだろうか。
まぁ、だとしても仕方がないとは思わないけど。
「話は終わったよな? もう行こう。ギルドへの報告もあるし」
「そうだな」
「ですね」
「ま、待つんだ!」
ジーナがカナタの手を握って引き留める。
カナタは呆れながら振り返る。
「なんだよ。まだ何かあんのか?」
「君は本気でこの男と結婚したのか?」
「みりゃわかんだろ? ほら、結婚指輪もあるぞ」
「……」
指輪はお互いの気持ちが本物で、女神に認められたことの証明。
この世界における絶対のルールであり真理の一つ。
薬指に指輪がある限り、俺たちの思いを否定すれば、それは女神様への冒涜になる。
ジーナは悔しそうに唇をかみしめる。
そんなに否定したかったのか?
「なんでそこまでつっかかるんだ? 俺はあんたに何もしてないだろ? それとも何かしたか?」
「それは……」
「ほらな? 何もしてないのに悪者扱いはさすがに気分が悪い」
「す、すまない……」
あれ?
普通に謝っちゃうんだ。
予想していた反応と違ってちょっと困るな。
もっと反発してくると思っていたのに。
この人……別に悪い人じゃないのか?
「と、とにかく男はよくない! 油断すると痛い目をみるんだぞ?」
「痛い目って?」
「夜になるとケダモノになって、寝込みを襲われるぞ!」
「夫婦の営みを犯罪行為みたいに言わないでもらえます?」
「ふ、夫婦の営み……」
なぜかジーナは顔を赤くする。
自分で話題をふった癖に何を照れているんだか。
「ま、まさかすでに……」
「いや、まだだけど」
「あ、あたしが覚悟が足りてなかっただけだ! 次はちゃんとやる! タクロウに相応しい立派な嫁になってみせるからな!」
「うぅ、ありがとう、カナタ」
「今ので泣くの気持ち悪いですね」
「お前の宿だけ解約するぞ」
「なんでぇ!」
サラスがいると険悪な空気にもいい雰囲気にもならないな。
存在するだけで場の空気をプラマイゼロにする。
ある意味才能あるよ、こいつ。
「すでに毒されてしまったか……くっ、私がいながら」
「人を毒草扱いするなよ」
「草じゃなくてキノコじゃないですか?」
「だったらお前はラフレシアだな」
「臭くないですよ! ちゃんとお風呂入ってますから!」
「もういい! 忠告はしたからな!」
プイっと起こりながら背を向け、ジーナが立ち去っていく。
「何だったんだ……あいつ」
「わかんない」
「面白い人ですね」
「……」
お前にだけは言われたくないだろうな。
それにしても、なんで男を嫌うのか。
少しだけ興味が湧いた。
王国から派遣された騎士ジーナ……彼女はどういう人間なのだろうか。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
【あとがき】
ご愛読ありがとうございます!
本作は基本①~④で一つのお話となっております。
面白い、続きが気になるという方は、ぜひぜひフォロー&評価を頂けると嬉しいです。
作者の励みになります!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます