第55話

「メルショル、つたえて」

 千代女にうながされ、彼は自分の役目を思い出す。落ち込んでいる場合ではない。子どもの雑用ではないのだ。彼女の言葉を訳してつたえようとした。

「それには及びません」

 そこに新たな人影が現れる。黒衣のその人物は、

「遅れてもうしわけありません、ザビエル、お召し出しにこたえ参りました」

 南蛮の言葉でミカエルに話しかけた。そして、先ほどの千代女のせりふもつたえる。

 それを終えたのちザビエルはメルショルに視線を向けた。メルショルにしてみれば、混沌の日の本に切支丹の教えという希望の光を最初に届けてくれた尊敬すべき人物だ。

「残念です、切支丹がまさか悪魔(デモニオ)の手先となるとは」

 違う、とメルショルは悲痛な思いで言いかける。理由はすでに千代女がのべたではないか。だがその前に、

「たとえどのような理由があろうとも悪魔(デモニオ)の手下となるなど言語道断、近いうちにこの地の鬼どもも斬りしたがえように、それまで耐え忍べばよいのだ」

 ウリエルの無慈悲な声が発される。地獄の責め苦を気安く“耐え忍べばよい”と切り捨てる、その言動にメルショルは呆然となった。

「まあまあ、人というものが“弱い”ことはよくよく承知しておりましょう。ゆえにこそ、主と我らの導きが入用でございましょう」

 そこにもうひとつ、人影が加わった。

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