第14話 思想の覚醒

 俺は急いで拘置所に走った。あの子が強盗をしたという事が信じれなかった。俺の目は間違ってないはずだと信じて、俺はただひたすらに走った。


 拘置所について一番に入り口にいる警備員に言った。

「兎の半人族の子はいるか!?あの子に会わせてくれ、俺は法司官のスケイルズだ。」身分証を見せると、警備員は面会室に俺を連れていき、奥に行って彼女を連れてきた。彼女は明らかに顔色が悪くなっていて、俺に見せてくれたいつもの笑顔にも辛さが混じっていた。


「あっ、法司官さん!会いに来てくれたの?嬉しい...私に会いに来てくれるの、法司官さんしか居ないから...」

「さっき施設の人に聞いた。君が...強盗をしたって...ほ...本当なのか?」俺は彼女に聞いた。彼女の手は、土に汚れていた。彼女は、首を横に振って答えた。

「うんん、私そんな事してないよ!法司官さんにあげようと近くの森に行って花集めてたんだよ!」そう言うと、ポケットからぐしゃぐしゃになった黄色い花と白い花で作った小さいバッチが出てきた。

「そ、そうなのか。それじゃ、その強盗事件に関して何かあったとか、そういうの覚えてる?」俺は続けて尋ねた。すると彼女は目から涙を流して言った。

「分かんないよ...何も分かんないのに、突然私が犯人って言われて、こんな所に連れて行かれたの...」俺はその彼女を見て何も言えなかった。


 そうして涙を流しながら彼女は俺を見て言った。

「法司官さん...助けて...」その言葉に、俺の心は酷く締め付けられた。一瞬息ができなくなるような感覚に襲われたが、俺はなんとか彼女を慰めた。

「わ...分かった、俺がなんとかして君を助けてあげるから、君は何も考えなくていい。」そう言って俺は面会室を後にした。


 そこからは無我夢中で事件について調べた。徹夜で事件を調べていたので、周りの同僚達も隣りにいたフラッシュも戸惑っていた。

「な...なぁ相棒、流石に休めって...顔色悪いぞ?それに、その事件ってかなり厳しめなやつだろ。もう刑も確定してないか?」俺はその言葉に机を叩いて言い返した。

「それじゃ駄目なんだよ!それじゃあ...あの子が悲しむ...俺が言った約束も破っちまうんだよ!」その気迫に押されたのか、あいつもそれ以上言ってこなかった。


 そうして調べた結果、強盗をしたのは裏社会でも名を轟かせていたマフィアたちだと分かった。そしてその犯行を擦り付けたのは施設の管理者だというのも分かった

。これで、あの子を救える...!


 そうして彼女の裁判が行われる日、俺は必死に頼み込んで法司官の一人と変わってもらった。そうして忍び込んだ裁判が進んでいく途中での質疑応答で、俺は切り出した。

「被告人に聞きます。この事件はA地区での出来事でしたが、あなたは当時どこで何をしていましたか?」この質問に正直に答えれば、彼女の潔白が証明できるはず...俺はそう、甘く考えていた。彼女が答えようとした時、隣りにいた弁護士が彼女の言葉を遮って答えた。

「彼女は当時、被害にあった店の周りを観察していました。」その言葉に、彼女と俺は驚いた。

「えっ!?う、嘘だよ、私そんな事してない!!その時はお花を摘みに...!!」彼女は叫んだが、法司官長はそれを抑えて言った。

「被告人、静粛に。...弁護人、どうやら被告人との発言に食い違いがあるようだが?」

「どうやら長い期間の拘留に気が滅入っているのでしょう。気にしないで下さい。」その言葉を言う奴の事を見て、俺はある事に気がついた。目がおかしい、焦点が合っていなかったのだ。それに加えて手の震えに異常な汗...明らかにクスリをヤッている時の反応だった。この弁護士、間違いなくマフィアとグルの偽物だ!


 「ちょ、ちょっと待って下さい!こういう裁判での発言の重要度は、弁護士よりも当事者である被告人のほうが高いです。ここでは彼女の意見を重要視するべきです!」俺は官長に訴えた。すると官長は俺に言った。

「それはどうかね?被告人はまだ若い。その弁護士の言う通り、長期間の拘留で気が動転しているという可能性も十分にある。その場合でも、意見の重要性は変わらないのかい?」そしてそのまま話しを続けた。

「そういえば、スケイルズ君。君は今回の事件の被告人と事件の前から知り合いらしいね?もしや君、裁判に個人的な私情を挟んでいるのかい?全く...法司官として失格だよ。」そういう法司官長に、俺は1つの違和感に気付いた。

「(な、何で俺が彼女と知り合いなのを知っているんだ?)」俺は頭をフル回転させた。その時、俺は1つの可能性に思い立った。マフィアとグルの施設の管理人なら、何度か彼女とあっていた俺の存在を知っている。そして、おそらくその情報はマフィア側にも伝わっているはずだ。その情報を知ってると言う事はつまり、その情報を知っているこの法司官長もグルなのでは...!?俺はその可能性に気づき、今の状況に絶望した。弁護士に加えて、法司官長までグルなら、逆転は不可能。どうしようもなかったからだ。


「ひとまず君は行動を封じさせてもらおう。彼をとらえろ!」官長がそう言うと、待機していた警備員が俺を押し倒し、床に取り押さえた。

「クッソ...!離せ、離せよ!!気付け、ここにいるこいつら全員、真犯人のマフィアのグルなんだよ!!」俺は必死に叫んだ。だが、その声は虚しく敵しか居ない裁判所内に響いただけだった。

「これまでの応答をまとめて、被告人に判決を言い渡す。被告人、アナを死刑とする。」法司官長のその声に反応して、執行官が彼女の後ろで銃を構えた。

「っ!い...嫌、嫌だ、死にたくない!!法司官さん、助けて!!」彼女の震える声を、俺はただ聞くことしか出来なかった。

「お...おいやめろ!撃つな、撃つな〜!!」その声を無視して、官長は手を下ろした。


 ババーン...!!


 重い銃声が室内に響いた後、彼女の体は抑える力を失って、そのまま前にばったりと倒れた。白く小さい彼女の体からは驚くほど赤く暖かい血が流れて、裁判所の床に広がっていった。そのままその血は、抑えられた俺の手のところまで流れてきた。まるで最初に彼女が、俺に手を差し伸べて来た時の様に...


「っ...くっ...ぐぅあああああ!!!ああああああ...!!」俺は叫んだ。ただただ叫んだ。アナの短く儚い命に悔しさを覚えた。そして、そんな彼女に何も出来なかった自分を執念深く責めた。この汚く残酷な世界の全てを憎んだ。...そうして俺は、警備員から開放された後も、その場から立つ事ができなかった。法司官も執行官も居なくなった後、法司官長は俺に言った。

「スケイルズ君。...今、事務所にある君の荷物を全て明日までにまとめておきなさい。君の法司官としての雇用と権限を、今日限りで無くさせてもらうよ。」俺は、その言葉に黙り、笑い、そして涙を流しながら返した。

「はははっ...そんな事言われなくても、こんなクソな仕事、こっちから願い下げだ!!」


 こうして俺は、4年という短い期間で法司官を辞職した。荷物をまとめて事務所を出る時にフラッシュとすれ違ったが、俺が交わす事は何もなかった。あいつは淋しそうな顔で何か言いたそうだったが...


 「クッソ...!こんなの、間違ってる...こんなのが平和だなんてイかれてる...」路地裏で裁判の不正取引をしていたニセ弁護士とマフィア数人を殺した帰り、俺はある事に気付いた。

「...そうだ...俺が...俺がこの世界を変えればいいんだ...!そうすれば、あの子の事件のような事はなくなる。この世界を、本当の平和に変えれるんだ!やってやる...やってやるぞ!」


 俺は暗い青が深い空に浮かんだ、白いおぼろ月に咆哮し、心に誓った...

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