(a-007)
2
「魔王っていると思う?」
日向ぼっこついでにベランダの外を眺めていたら、空からアルミ手摺に降り立ってきた悪魔が憑りついたみたいな怪しさを大安売りしている少女の言葉に耳を貸すどころか窓の鍵を開け招き入れようとしている自分に、幾ら嬉しいの隠したいからって順序位は守れと殴りたい。
生まれ変わってから気分屋に拍車がかかっているとは薄々気付いていた。
身体に心を食いつぶされている気分で、実際そうなのだろう。つい一日前まで青い顔をしていて、心的負担だけで今生を終えてしまいそうだったのに退屈だと大口を開けて欠伸をしている事に何の違和感も感じようとしていない。一行先で二枚舌になってる予感しかしなくて笑いすら込み上げてくる。
多分独白はつまらないだろうから要約して締めると、外出の禁を破ってまでした全てが高熱に魘された時の夢みたいなことだったから穴があったら埋められたい。
「・・・」なので扉を開けてその台詞を聞いた後勢いよく閉じた。直視しなきゃならないとしてもそれによって何を齎すのかがわからないのだとしたらそれは僕が関与すると悪化しかしないからだ。
頭にあっても上手く引き出せずに破滅する。というより、何度も言ってしまうけれど行動を起こそうとしているのに今を甘んじてもいるという点において僕は僕を信用していない。着実にそれは進行している。
・・・何か口パクしてんなあ。
彼女が帰ってくるのは前世の基準であれば遅くて十八時で、することもないから部屋を変えソファとかで惰眠でも貪ろう。すげー気になるけれど変な事を口走りそうで不安だから頭を冷やすのを優先したい。
「えてくれる位いいじゃん」
答えてくれる位いいじゃん。
正しくはそう注意してくれたのだろうがどうだっていい。ジャンプスケアに耐性がないから金属を切断する丸鋸より高い声で叫んでしまった。しかもぶちまけられた窓硝子に共感性呵責を起こしてそれどころじゃなくなる。弁償はしてくれるんだろうな、弁明の協力も。
してくれないのならばこちらも実力行使に打って出なくてはならなくなってしまう。死に急がなくてはならなくなる。
「窓・・・」
「ってそれどころじゃなかった。ほら行くよ」
「は?」
「学校」
「は?」
「学校。君のご主人様と会う準備をしなきゃならないの」
「同行しなければならない理由を訊いても、よろしいでしょうか」口ぶりからして荒唐無稽な事を言われ呆けている間に連れ去るつもりだったらしい。
何歳だこのひと。
「それは向こうで話すから。ほら」
「わ。待っ」肩に担がれてしまった。飛ぶ気か?
何の迷いもなくベランダから飛び降り、乗用車位の初速で飛ばれた。服を着てなかったから風にあおられて寒かった。
某所、教育機関内一教室(推定)。
「そろそろ、いいですか」
「隠さなくても奇麗だから大丈夫だよ」
「すみません、茶化さないで下さい。何をするんですかここで」
「これから君達を正常にする」
唐突に頭を抉じ開けられた。正面から見て右のこめかみから左肩に触れるような位置で腕を差し込まれる形に遂行されたそれはある個所で止まり、彼女は腕を捻り引き抜いた。
彼女の右腕に立法体が握られていた。
立法体は僕の何か重要な部分のようで、身体が流動体になって暫く無秩序に室内を浸していてゆく経過を観察してしまったけれど、その握られたものに力が籠められると彼女の胸程の高度の周りで空に円を描いて集まっていった。
生態がスライムに近しく解体されても意志が機能する事を知ってしまった。喋れたりするのだろうか。
「武器にでもするんですか?」喋れてしまった。ファンタジーの知識に疎いものだから多分他のひとは驚いているのを不思議がると思うけれど、僕にとってはどこまで分解されると何が消えるのかすら不明なのでこの程度でも戦々恐々になってしまう。
「わ。話せんの?」
「みたいです」
「あー、じゃあ危ないけれどしょうがないかな」
彼女は空いた左手を手刀に構え、文字通りに片方に持っていたものを分割した。
ただでさえこんなにされて語彙が減っているのに。
音が聞こえなくなってきた。くぐもってる。
「未だか」
そこで途切れた。
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