二品目 脚
次はどこを食べようか。
白くてふわふわとしたお腹か、ぎっしり詰まっていて食べごたえのありそうな頭か。
いやいや、次は脚でしょう。
私は腕と同じように真っ白な脚に包丁を入れた。
モルはいわゆる病んでいる状態にあったがリストカットやレッグカットはしなかった。前に聞いたら痛いのは嫌いだからしないといっていた。
痛いのは嫌。だから首を吊ったのかもしれない。確かに痛くはなさそうだ。苦しそうだけれども。
あとモルは血も怖がった。真っ赤な血は不気味で恐ろしくて、みているだけで疲れるといっていた。
血は何よりも生命を感じさせられる。だから、生きるという行為に対して疲れを感じるモルには過度な疲労に見えて恐ろしかったのだろう。本当に、今日までお疲れ様だ。
私はモルの脚を頬張った。外はもちもちとやわらかくてお餅のよう。でも中は少しひんやりとしていて口の中でスッと溶けていく。この食感はアイスクリームだ。
お餅の中にアイスクリーム、さらにチョコレートという3段構え。
これはとっても美味しい。アクセントにまたもや酸味が加わっていて食べやすい。
さっきと似ていて飽きそうに見えたが、ひんやりとした食感が甘さを新たなステージへと連れて行ってくれたのでまだまだ食べれる。
爪のあたりは少し硬くてパリパリと割れる。飴のようだ。モルがよく空の涙だって言ってた。
空の涙はやわらかく甘かった。
それこそモルが好きそうな味だ。
モルは食事をするときどんな味がするか教えてくれた。
例えば朝ごはん。食パンは毛布に包まれるような優しい味。はちみつはねっとりとついて離れない幸せの味。いちごは弾けるような幸せの中に指をぎゅっとしたくなる刺激の入った味。ソーセージはじゅわぁぁって広がっていく味。
全部説明してくれた。だからモルとの食事は楽しかった。モルを食べることも楽しめている。
全部、モルのおかげなのだ。
そして今もモルのおかげで味を知っている。
結局味覚は全てモルに教わることになった。想像の味も、本当の味も、全てモルに教わった。
今もこうやって色々な「甘い」を教わっている。モルに頼りすぎて申し訳なくなってしまう。
けれど、これはモルが望んだこと。だから私は全てを食べる。
それが弔いな気がする。
ユメを食べて私の中に弔う。土葬や火葬があるが、モルに相応しいお葬式はきっと私の中に埋めて一体化することなのだ。
だから私は食べなければならない。モルの望みを叶えて、弔い、天国への道を開かなければならない。たとえ私が地獄は落ちようとも、モルが天国に行けるならばそれで良い。
だって私はモルを愛しているのだから。
私はモルを弔っている。
私はモルの両足を食べきった。
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