9
「……ええっと。ごめん。やっぱりいいや。なんだか私らしくない」
花村睦はその目の涙をそっと指で拭ってから、自分の目の前にいる宮森実にそう言った。
「やっぱりいいやって、その大切な話はもういいってこと?」実は言う。
「そう。その通り」
実の鼻先を指差して、にっこりと笑って『いつもの』花村睦は明るい声でそう言った。
「なんかさ。今日はいろいろとごめんね。ちょっと疲れてたのかな? 宮森に迷惑かけちゃったね」睦は言う。
「迷惑なんてかけてないよ。……まあ、確かにちょっと今日の花村は変だったけどさ」と実は言った。
「でも、大丈夫。変な私はもういないから」
笑顔で睦は実に言う。
「そうなのか?」
「そう。こういうのはもう終わり」
そう言って睦は席から立ち上がって、自分のカバンを持って帰り支度をする。
「そっか。……ちょっと残念だな」実は言う。
「残念ってなにが?」
「ああいう花村も、新鮮でよかったんだけどな」同じようにカバンを持って席をたって実は言う。
すると睦は少しだけ黙ってから、「……ばか。そういうこと、冗談でも恋をしている女の子に言うもんじゃないよ」と少し変な顔をして実に言った。
それから二人は一緒に教室を出て、家路についた。
その帰り道、二人は一緒に校庭に咲く桜並木の桜を見た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます