瘴気溜まり 4
ジルベールは、夢を見ているのかと思った。
騎士の制止を振り切ろうとしていた体勢のまま動きを止める。
騎士たちも、魔術師たちも、皆が固唾を飲んでその光景に見入っていた。
消えて、とセレアが叫んだ瞬間、彼女が白くきらめく光に包まれた様に見えた。
それはセレアを中心に広がり、あっという間に雑木林を覆いつくす。
その後、まるで星屑が降って来たのかと錯覚するような光が空から降ってきた。
瘴気溜まりも、雑木林にいた魔物たちは一瞬で消え去り、覆っていた黒い靄も、足元のタール状の黒い液体もすべてが消え失せている。
(……これが、浄化)
魔術師の使う魔術とは、似て非なる特別な力。
ジルベールが聖女の浄化を見たのは、これがはじめてのことだった。
ジルベールが幼いころにも領地に瘴気溜まりが発生したことはあったが、そのときは瘴気溜まりに近づくことすら許されなかったので、聖女が実際に浄化したところは見ていない。
きらきらと降り注ぐ光の中、ゆっくりと立ち上がったセレアがこちらを振り返る。
艶やかな赤銅色の髪がふわりと舞った。
綺麗な水色の瞳がまっすぐにジルベールに向けられる。
今日のセレアが白いシンプルなドレスを着ていたせいだろうか――、ジルベールの目には、まるでセレアが天使のように映った。
そのくらい神秘的で息も忘れるような光景だった。
「ジル様、外の様子を見に行かないと」
「あ、ああ……」
セレアがこちらに歩いてきながら、雑木林の外に視線を向ける。
そうだ。
瘴気溜まりや雑木林の魔物が浄化されたからと言って、外に溢れている魔物まですべて浄化されたわけではないのだ。
「強そうな魔物はわたしが浄化するわ」
浄化の力を使って自信がついたのだろうか、そう言ってくっと顔を上げたセレアは、びっくりするくらいに綺麗だった。
「無理は――」
「大丈夫。そんなに疲れてないわ」
「わかった。行こう」
ジルベールが手を差し出すと、セレアが当たり前のように掴んでくれる。どうしてか、それがびっくりするほど嬉しかった。
セレアと手をつないで、速足で歩きだす。
彼女と出会えたことは、もしかしなくても、自分の人生の中で最大の幸運だったのではないかと、ジルベールは思った。
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