逃亡成功!……たぶん。 2

(ふふん、わたしが諦めたと思って油断しているわね!)


 セレアは心の中でほくそ笑んでいた。

 レマディエ公爵家から逃亡するのに失敗して一週間。

 セレアは周囲を油断させるためにこの一週間の間おとなしく過ごしながらも、次なる逃亡計画を練っていたのである。


(題して、荷馬車に紛れてとんずらしよう計画よ!)


 思いっきりそのままだが、自分にしてはなかなか冴えているとセレアは思った。

 と言うのも、レマディエ公爵家には表門と裏門があって、二日に一回、裏門から商人が食料などを運び入れていることにセレアは気がついたのである。

 気まぐれにやって来たジルベールが、お茶を飲んで去っていくと、セレアはチーズケーキで膨れた腹をさすりながら窓から庭を見下ろした。

 この広大な庭を歩いて逃亡するのは無理だというのはすでに学習した。


(でも荷馬車なら、勝手に敷地の外に出ていくもの!)


 荷馬車がレマディエ公爵家の外に出さえすればこっちのものである。

 問題はどうやって商人の荷馬車にもぐりこむかだが、こちらもすでに計画済みだった。


(荷馬車が来るはずの明後日、あいつは朝からいないって言ってたものね!)


 用事があって登城するから、朝と昼の食事は一人で食べるようにと、ジルベールがわざわざ伝えに来たのである。


 一週間前に逃亡に失敗してからと言うもの、セレアの部屋の前や庭の見張りは増えたが、どういうわけか、邸内であれば散歩を許してもらえるようになった。ジルベールがいる時は散歩中は決まって彼が張り付いているので、一人になる機会がなかったが、彼がいないなら一人になれるチャンスはいくらでもあるはずだ。ニナやほかの使用人がくっついてくる可能性は高いが、彼らを撒くのはジルベールを撒くのより何倍も簡単なはずである。たぶん。


 このチャンスを逃せば、次にいつチャンスが巡ってくるかわからない。

 絶対に失敗できなかった。


(そうと決まれば計画を煮詰めなくっちゃ!)


 あと二日で大嫌いな貴族社会からおさらばできる。

 セレアははやる気持ちを抑えて、当日の行動計画を入念に立てはじめた。





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