第2話 ダンジョン攻略
――その日、学校が終わると俺は学校の裏山に直行した。
裏山には、ダンジョンがある。
うちの生徒が主に赴くダンジョンもそこであり、ダンジョン攻略という課外実習授業もそこで行われたりする。
まあ、第2のゲーセンといったところだ。
もちろん、うちの高校生がほぼみんな入り浸っている場所というだけで、一般の人も多く利用しているのだが。
「……これでよし」
ダンジョンの入り口から離れた、木々の間。
肩まで伸びた白髪をうなじ辺りで縛り、前髪を分けて整え、胸元に銀色のバッジを付ける。
Sランクの冒険者だと学校の人にバレれば、どうなるかわからない。
俺はとにかく、目立たない日常を送りたいのだ。
だからこうして、人気の無いところで髪型を変えて変装しているのである。
「さてと、行くか」
俺は小さく気合いを入れ、ダンジョンの入り口に向かった。
△▼△▼△▼
裏山ダンジョン下層――78階層。
『キシャァアアアアアア』
薄暗い洞窟を鉱石の放つ七色の明かりが照らす中、真っ黒な影が迫り来る。
黒いシルエットに身を包んだ、大蛇に似たモンスターだ。
ブラッド・スネークと呼ばれるAクラスモンスターのそいつは、長い身体をくねらせ、俺めがけて肉薄する。
そんなブラッド・スネークの頭に狙いを付け、俺は弓を構える。
矢筒から矢を引き抜き、
しなる弓幹。張り詰める弦。
全ての力を一本の矢に集中させて、俺は右手を解き放った。
ひゅぱっ!
風を切って飛翔する一本の矢は、狙い過たずブラッド・スネークの眉間を射貫く。
『ジャァアアアア!』
断末魔の叫びを上げ、ブラッド・スネークはその場に倒れ込んだ。
その衝撃で、土煙が上がる。
煙った視界の向こうから、何かが高速で接近してくるのを感じ、俺は矢を取り出して構えた。
耳を澄ませ、相手の正体を探る。
羽根を羽ばたかせることによる空気の震動音が三つ。
「敵はおそらく、ブラック・ビーだな」
そう判断した瞬間、土煙の向こう側に広がる闇の一点が、ギラリと光った。
ブラック・ビーの持つスキル《飛針》の光だ。
「させるかよ!」
俺は瞬時に弓を引き絞り、矢を放つ。
高速で飛んでいく矢が、土煙を裂いて肉薄する
その向こうから、三匹のブラック・ビーが現れた。
ブラック・ビーは、その名の通り真っ黒な身体を持つハチのようなモンスターだ。
口から音もなく飛ばす針と、おしりの毒針で、相手を弱らせて殺すという恐ろしいモンスターである。
動きも速く、的も小さいため、並みの攻撃スキルでは当てることは難しい。
その厄介さから、Aランクに指定されたモンスターだ。
「Aランクの敵が三匹、周りは暗く視界は劣悪。だけど――」
俺はニヤリと不敵に笑う。
流れるように矢筒から三本の矢を取り出し、弓を縦ではなく横に構え、三本同時につがえて引き絞る。
「この程度は、まだまだ温い!」
右手を離すと、三本の矢がそれぞれ暗闇を裂いて飛んでいき。
動き回る三匹のブラック・ビーを同時に撃ち落とした。
「よし、討伐完了」
俺は、倒したモンスター達のところへ歩いて行き、羽根や皮など、入り口の取引所で売ったらお金になりそうなものをはぎ取って、アイテムボックスにしまう。
アイテムボックスは、ポーチ型の入れ物だが、その容量は大きなタンスが三つは入るだけの異次元性を持っている、凄いアイテムだ。
数年前に、このアイテムボックスが開発されてからは、日常のいろいろなところで活躍している。
まさに、世紀の大発明だ。
「さて、もう少し奥まで潜ろうかな」
比較的強いモンスターの蔓延る下層は、そんなに人も居ない。
目立つことがとにかく嫌な俺でも、のびのびと探索できる。
そう思って、足を踏み出そうとした――そのときだった。
ズゥウウン!
突如、遠くから大きな音が聞こえてきた。
ダンジョン全体が揺れ、天井からパタラパラと土の塊が落ちてくる。
「な、なんだ!?」
俺は、音のした方へ走った。
やがて、ドーム状の広場に出た俺は、思わず「あ!」と声を上げた。
下層も下層。100層の最下層付近でしか湧かないはずのSSクラスのモンスター、ワイバーンが暴れていたのだ。
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