第75話 【11月14日】
久しぶりに漫画家から電話があった。「たまには会いませんか?」と言う。「OK」と答えて受話器を置いてから、彼の声に珍しく力があったことに気がついた。
昼過ぎに彼の家の近くの蕎麦屋で落ち合うと、彼は「『空飛ぶ自警団』を主人公にした漫画を描いてみようと思うんです」と言った。ボクは「ああ」と言ったきり、あとは彼のよれよれになったシャツの襟が気になった。
「ちゃんと食べてるの?」
「ええ、まあ」彼の声が幾分弱くなる。「モリさんはどう思います?そんな漫画、面白いと思いますか?」
「うん、どうだろう。ニュースにはあまり興味湧かなかったからな、でもそれとフィクションは別だから」
「フィクションを描くつもりはないんです」
漫画家は不意に言った。
「少なくとも彼は僕にとってはフィクションではないんです。それが大事なんです」
ボクはようやく来た蕎麦に箸を絡ませながら、「とにかく読んでみたいな。期待してるよ」と言った。すると漫画家は表情を緩めて「ええ、そうですね。やってみます」とコップの水をゴクッと飲んだ。
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