第12話 浄隆救出

 天文17年(1548年) 3月 志摩国 朝熊山付近

 滝川 彦九郎(一益)

 

 「滝川鉄砲衆、撃てぇぇっ!!」

 

 ズダダダァッッッン!!

 

 勾玉模様が円のように三つ配された九鬼の家紋、三頭右巴さんとうみぎどもえが朝熊山に並び立ち、そのふもとにはおよそ騎馬二十騎と百人にも満たぬ足軽達が整然と陣を敷いていた。

 

 相手は五百以上はいるように見える志摩十三衆(千賀、浦家など)だが、それらに対して統率ステータスが高い浄隆(統率:78)の率いる手勢の士気は劣勢にもかかわらず負けてはいないようだ。

 

 両軍が駆けだしてぶつかろうかというところで、俺たち滝川鉄砲衆の轟音が山々にこだましながら次々と戦場に鳴り響く。

 

 「二の組、撃てぇぇっ!! 」

 

 ズダダダァッッッン!!

 

 どうやら浄隆と半包囲する志摩十三衆はまだ始まったばかりで、俺たちの援軍は間に合ったようだ……。波切から船で志摩半島を回り込んでやってきた我ら海賊衆二百五十人と滝川鉄砲衆五十人が朝熊山の北東からここまで駆け付けたのだ。

 

 東から朝熊山に迫って半包囲を敷く志摩十三衆の右翼にちょうどぶち当たった俺たちは、そのまま鉄砲衆で奇襲をかける。今回は五十人を二組に分け、交互に撃つ二段撃ちだ。


 改良された火縄銃の爆音と、鉛玉による攻撃は俺たちの初撃として最大限の効果を発揮したようだ。。

 

 「敵右翼は乱れておるぞっ!!石見守(九鬼重隆)殿ォ、乱れた敵陣に突撃して宮内少輔(九鬼浄隆)殿が逃れる道を作ってくだされ」

 

 三段撃ちに比べると間隔が空くがそれでも山間にこだまして絶え間なく続く火縄銃の轟音に、敵右翼は浮足立っている。特に馬に乗る武将達はてんやわんやの大騒ぎ状態で、配下の家来や足軽に指示を出すどころではないようだな。

 

 「おうし、お前らぁ。我が甥の道を作るぞォ。続けぇっ!! 」

 「「おおォうっ!! 」」

 

 九鬼重隆率いる海賊衆は、ここ数か月間船上で鉄砲の音を聞きまくって慣れているうえ、全員徒歩かちのため火縄銃の音におびえる馬もいない。


 そして九鬼石見守(重隆)のステータスはこれ。


 " 九鬼 石見守(重隆) ステータス "

 統率:69 武力:78 知略:60 政治:50


やはり九鬼のお家柄なのか、武力統率は高いが、知略政治は並くらい。波切で船に乗って慕われているだけあって低くはないけどね。


 戦場を見渡せば、浄隆も右翼の乱れに気づいて戦場をこちらに向かって進み始めたようで少しずつ三頭右巴さんとうみぎどもえの旗が近づいてきている。俺の滝川忍びの配下が、浄隆へ「右翼を突破するように」という指示を伝えられたのかもしれない。

 

 「孫六郎はこのまま鉄砲衆を率いて中央陣に向かって撃ち続けてくれ。俺は石見守(重隆)殿と共に右翼を食い破って宮内少輔(浄隆)を救出に行く」

 「合点承知した!! 彦九郎、死ぬんじゃねぇぞ」

 「おう!! 俺が危なかったら孫六の狙撃で助けてくれよな」

 

 いつもはお茶らけている鈴木孫六郎が真面目な顔で俺を心配してくれている。なんだかんだで孫六郎とは信頼関係が築けているようだ。このまま尾張で仕官した後も着いてきてくれるといいんだが。


 「それがしも彦九郎殿と一緒に行きます!乱戦では1人より複数で動いた方が良いと思います。それにそれがしには杉坊の薙刀がございますのでっ!! 」

 「照算も行くのか!? うーむ……、わかった。俺からあまり離れるなよ」

 「お任せくだされっ!! 」


 うーん、照算には残って狙撃の方をお願いしたかったんだがなぁ。まぁ照算のステータスは武力:80(+3)あるからそこら辺の雑兵にやられることはないとは思うが……。


 先ほどまで構えていた火縄銃を背中に背負うと、代わりに背負っていた身の丈ほどの長さの薙刀をブンブンと素振りする照算。危ないからここでそれをやるのはやめてほしい……。


 「よし。石見守(重隆)殿から離れぬように駆けるぞ、照算」

 「おうっ!! 」

 

 中央陣に火縄を撃ちかける孫六郎達の銃声を聞きつつ、俺と照算は右翼の横っ腹に食い込んだ重隆ら海賊衆に走って追いついた。どうやら敵右翼を率いるのは千賀家のようだ。徒歩に槍を持った重隆が、騎乗の青年の武士・千賀為親とやり合っている。


 どうして徒歩かちなのに「大将首だぁひゃっはー」って向かって行っちゃうかなぁ。武力ステータスが高いとはいえ、いくらなんでも騎馬武者とやり合うのはきついだろぉ。


 「照算っ!! 石見守(重隆)殿が劣勢だ。助太刀するぞ!! 」


 やはり高さがある分、馬上の方が有利なようで力強く槍を重隆に叩きつけるように戦う千賀為親が重隆を押している。もはや時間もないため、照算の返事を聞かずに俺は重隆に走って駆け寄ろうとするが、


 「八郎兵衛(為親)の邪魔はさせんぞっ!! 」

 「おおっとっ!! 」


 一直線に重隆に向かっていた俺に、壮年の武者が脇から太刀で斬り掛かってきた。


 「どうして千賀の当主が徒歩かちで、息子が騎馬なのよぉ……」


 俺に斬り掛かってきたのは千賀家当主の志摩守為重だった。息子の為親のように鉄砲の音に暴れる馬を上手くぎょせないと判断した為重は、馬を降りてこの乱戦を戦っていたようだ。


 「八郎兵衛(為親)が九鬼の弟九鬼重隆を討ち取れば援軍も瓦解しよう。ここは容易に通さんぞ」


 うーん……、これは厄介。重隆殿はけっこう押されてるようだし、ここはステータスの武力で勝負する【 一騎打ち 】をかますしかないな。


 いざっ!!【 一騎打ち 】


 「千賀志摩守(為重)殿とお見受け致す。貴殿の相手は九鬼家客将、滝川彦九郎がお相手いたそう。照算は石見守(重隆)殿の助太刀にっ!! 」


 既に一騎打ちは発動しているので別に台詞せりふは要らないのだが、こういう時は格好つけた方がいいよね。


 「ここは通さん……うおぉっ!! お、お前ら、儂を押すんじゃないっ!! 」


 俺の脇を通って向こうで戦う重隆に助太刀に行く照算を止めようと立ちはだかった千賀為重だが、周りで戦っている雑兵や足軽達に阻まれて俺の前に押し戻されてきた。


 「嫡男を心配する気持ちは分からんでもないが、志摩守殿は俺とやり合って貰おう」

 「くっ……。お主を倒してとっとと八郎兵衛(為親)の助太刀にいかせてもらおう」


 一騎打ちの覚悟を決めたのか、そう言うと太刀を構える千賀志摩守。そう、この【 一騎打ち 】は強制的に相手と一対一に持ち込むことができるのだ。


 このステータスの力を使えば、周りを取り囲む雑兵が一騎打ちを邪魔することはないし、逆に当事者の俺と相手は一騎打ちの宿命から逃れることはできない。今回の志摩守のように見えない力で【 一騎打ち 】の場に戻されてしまうのだ。


 「さて、尋常に勝負と参ろうか」


 俺はこの世で覚醒(転生)してから幾度となく俺を助けてくれた山城伝粟田口派の無銘の刀を構える。数打ちの刀ではあるが、波紋も美しく御役目に使っても未だに刃こぼれもない相棒を正眼に構えた。

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