第43話 幽霊に導かれ
僕はナクトを取り出して車内映像に表示されている時刻に合わせた。孔雀さんが不思議そうな顔で覗き込みながら言った。
「それはこないだ使ってたやつか? 監視カメラをハッキングするとかっていう」
「実はこれ――」
僕は孔雀さんにナクトの秘密を打ち明けた。メアリーも彼なら信用できると踏んだのだろう。最初は訝しむように眉をひそめていた孔雀さんだったけど、話を聞いていくうちにその顔も徐々に緩んでいった。
「そりゃおもしれえな。まあなんかあるとは思ってたけどそんな突拍子もない代物だとはねぇ。あんちゃんはすげえ発明家だったんだな!」
「いえこれは偶然出来たものでして……」
「とにかく女性が消えたとこ見てみましょう」
メアリーに促され僕は後部座席全体がよく見える位置にナクトを当て録画ボタンを押した。ナクトの画面に女性の姿が映し出される。少し俯き加減で座る女性の顔は暗くてよくわからない。そのまましばらく映像を見ていると女性の体が透けるように透明となり消えてなくなった。
(ひっ!)
僕はどうにか悲鳴を飲み込んだ。一方メアリーは冷静な表情でじっと映像を見ながら呟いた。
「ここまではっきりと映った心霊映像は世界初かもね」
「……やっぱり幽霊かな?」
「非科学的な話になっちゃうけど今はそうとしか言えないわよね。ほらこれ見て」
メアリーそう言って映像を巻き戻した。彼女が指差したのは女性の顔の部分。
「光が当たってるのに真っ暗でしょう? 黒い
「う~ん。それはつまり光が反射する物体がないってこと?」
僕がそう言うとメアリーは頷いた。流石は工学系の大学生。僕はそんな事考えたことすらなかったけど。すると今度は孔雀さんが言った。
「でも服着てるじゃねぇか。それに髪の毛だって」
「そうなんですよね~そこがおばけの不思議な所。私もよくわかんな~い。テヘ」
急にJDに
「とりあえず今はこの女性についてもう少し調べましょう。彼女が消えた場所って分かりますか?」
「走った道はちゃんと覚えてるぜ。ちょっともう一回見せてもらえるかい?」
そう孔雀さんに言われ映像を巻き戻した。孔雀さんはふんふんと頷きながら見ていた。おそらく窓の外の景色を確認しているのだろう。
「おっしゃわかった! 早速向かってみるか」
孔雀さんが向かった先は普通のありふれた道路だった。近くに墓地がある訳でもなくましてや神社などもない。強いてあげるならお店などもなく少し閑散とした場所という感じだろうか。
「ちょうどこの辺りだな」
そう言って孔雀さんはタクシーを路肩に停めた。車から降りると近くに横断歩道が見えた。そしてその横断歩道の信号機の下には花が飾ってあった。
メアリーもそれに気がついたのだろう。僕と目が合うとこくりと頷き横断歩道の方へと足を向けた。そこには予想通り立て看板が立ててあった。『目撃者を探しています』という文字と共に事故があった日付が記されている。
「ちょうど一年前の昨日だわ……」
メアリーの言う通り、そこには12月2日という日付が書いてあった。後からやってきた孔雀さんもそれが目に留まったのか、少し暗い表情になった。
「ひき逃げか……」
孔雀さんはそうぽつりと言うとその場にしゃがみ込んで手を合わせた。僕とメアリーもそれに続くように手を合わせた。冬の青空は透き通るように綺麗なのに、頬に当たる風がやけに冷たく感じた。
しばらくして僕らはナクトを使って事故の瞬間を見ることした。看板に書いてあった時刻に合わせ横断歩道付近に視点を向ける。
薄暗い街灯の下、信号が青になり一人の女性が横断歩道を渡り始める。車のヘッドライトに突然照らされる女性の姿。そこには驚いて振り向くその顔まではっきりと見えた。そして次の瞬間、女性の体は枯葉のように宙に舞い地面に叩きつけられた。
女性を撥ねた赤い車が少し進んだ先で停車する。車から出てきたのは二人の男女。男は倒れた女性の体を揺らしながら何か喋っている。するともう一人の女が男に向かって何やら叫んでいる。男がきょろきょろと辺りを見回す。そして二人は女性を置き去りにして車に戻り去って行った。取り残された女性はまだ息があったのだろう。わずかに体が動いていた。
「ひどい……」
メアリーが口元を抑えながら呟く。その手は小刻みに震えていた。すると険しい顔をした孔雀さんが周りを見渡しながら言った。
「この辺りは監視カメラがなさそうだな。それで奴らはまんまと逃げ
確かにこの周辺にはそれらしきものが見当たらない。お店もなく点在している建物はどれも古いビルばかりだ。映像を見る限り他の車も走っていなかった。
こうなるとナクトの映像が唯一の証拠となる。だが怜奈の時のようにおいそれと出せるような証拠ではない。
「さて……どうしたものかしら。もうナクトのことを母さんに言うしかないのかも」
メアリーの意見に僕も賛成だった。これ以上ナクトを隠し通していては事件解決も出来はしない。
「みなさんお揃いでどうしたんですか?」
聞き覚えのある声に振り返るとそこには瀬織ちゃんが立っていた。タイミングといい登場の仕方といい彼女はまさに物語のヒロインだな、と僕はこの時変に納得してしまった。
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