映画は兄妹モノ!?

 志帆はためらった様子で、しばらく俺を上から下まで眺めると、急に「えいっ」と俺の右腕にしがみついた。


「し、志帆!?」


「腕を組んでいたら……恋人っぽい気がしません?」


「そ、それはそうだけど……」


 志帆が俺の腕を抱きしめるような形になっているから、その……胸の柔らかい部分が俺の腕に当たっている。

 俺の視線に気づいたのか、志帆が顔を赤くする。


「兄さんの視線が……えっちです」


「ご、ごめん」


「い、いいんです。だって……これはわざと、ですから」


「わざと!?」


「兄さんにあたしを意識してもらおうと思って……」


 志帆は目を伏せて、小声で言う。きっととても恥ずかしいのだろう。

 それなのに、志帆は俺の気を引こうと、そんな大胆な行動に出てくれる。


 そんな志帆がいじらしくて、可愛く思えた。


「ありがとう、志帆」


「あたしを女の子だと見てくれますか?」


「もう十分に意識させられているよ」


「ほ、本当ですか?」


「だ、だから離れてくれる?」


「ダメでーす。もっと兄さんに意識してもらうんだもの」


「そ、そんな……」


 志帆はますます俺の腕をぎゅっと抱きしめ、胸の谷間へと押し当てる。

 さすがアイドルというべきか、志帆は小柄だけれど、かなりスタイルも良い。


 そんな目で見るつもりはなかったのだけれど、胸が大きいのだ。


「こんなことするのは……兄さんだけですからね?」


「そうじゃないと困るよ」


「そ、それってあたしを独占したいって意味ですか?」


「そうだと言ったら?」


 攻められてばかりだと困るので、俺は反撃してみる。

 でも、志帆は同様せず、潤んだ瞳で俺をまっすぐに見つめる。。


「兄さんがあたしを独り占めしたいなら、あたしは大歓迎です」

 

「そ、そうなんだ……」


「これから二時間は、あたしも兄さんを独占できますね」


 志帆はくすっと笑って言う。

 こんなふうに積極的にアプローチされて、二時間も俺は耐えられるだろうか?


  腕を組んだまま、俺たちはスクリーン前のカップルシートに来た。

 二人で寝そべっても座れるようなかなり広いシートだ。


「わあっ! すごいですね、兄さん!」


「こんな豪華だとは思わなかったよ」


 志帆は少しためらってから、俺の腕を放した。そして、シートに座り、ぽんぽんと横を手で叩いて示す。


「兄さんも座ってください」


「う、うん……」


 俺が志帆の隣に座ると、志帆はぴたっと距離を詰めて俺の隣に座った。

 

「そ、そんなに距離を詰める必要あるかな……」


「せっかくカップルシートなんですから、そのぐらいしたほうが良いと思います」


 志帆の髪からふわりと甘い匂いがする。

 俺は何も言い返せず、志帆の腰とかが密着している感触に悩まされた。


 いまのところ、完全に志帆に振り回されてしまっている。

 そろそろ映画が始まるみたいで、予告編も終わった。


 そして映画が始まったのだが――。

 

「お兄ちゃんのことが好きなの!」


 とスクリーンからセリフが流れてきてびっくりする。

 どうやら、この『恋雨』という映画は兄妹の恋愛を描いた映画らしく……。


 志帆を見ると、志帆はてへっと舌を出す。わかっていて、この映画に誘ったらしい。

 そして、志帆は甘えるように俺の膝の上に手を置いた。

 

 ただでさえ密着しているのにさらにドキドキさせられてしまう。

 

 俺は別のことを考えようとして思い出す。

 そういえば、このヒロインを演じている女優、どこかでみたことがあると思ったら、エトワール・サンドリヨンのメンバーだ。


 たしか水主町咲夜かこまちさくやという名前だ。志帆や一宮さんのすぐ次に来るぐらいには人気も高い。

 志帆たちより少し年上の女子大生で、軽く髪を染めていてすらりと背も高い。


 志帆と並んで踊っている姿をテレビで何度か見た。

 子役経験者だとも聞いたことがある。演技もかなり上手かった。


 この映画を選んだのは、兄妹モノだからと、かつての仲間が出演しているからなのだろうか?

 俺が志帆を振り向くと……なんと志帆はすやすやと眠っていた。


 映画もそんなに刺激的な内容じゃないし、午前中から動いていて疲れてしまったのかも知れない。

 二郎系ラーメンもがっつり食べたし……。


 俺はくすりと笑って、志帆の髪を撫でる。


「おやすみ、志帆」


 そして、俺は目の前のスクリーンの兄と妹に意識を戻した。

 このヒロインとヒーローも義理の兄妹らしい。


「兄妹で付き合うなんてできないよ」


 ヒーローがそんなことを言うが、ヒロインは首を横に振る。


「気持ちさえあれば……関係ないもん。わたしはお兄ちゃんのことを愛しているから」


 そして、二人はキスをした。


 いつか、俺たちも……こんな関係になる日が来るのだろうか?





<あとがき>

星での応援、お待ちしています……!


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