第29話 どこでもトビラだよ
「あー、美味しかった。今日も頑張るぞー」
オールデンに宿泊した翌朝、朝食をたっぷりと食べたウータは満足そうに町に出た。
長旅で野宿が多かったため、こんなにしっかりと睡眠をとったのは久しぶりだ。
ウータの後にステラも続いて宿を出る。
こちらもウータとは違う意味ではあるものの、どこかスッキリとした表情をしている。
「それで……塔の賢者さんに会うためにどうしたら良いんだっけ?」
「強い魔物、珍しい魔物の素材を贈り物にしたら良いと思います。『魔物狩り』ギルドに行ってみてはどうでしょう?」
「魔物狩りギルド?」
「この世界には商業ギルドや職人ギルドなど、いくつものギルドが存在しています。魔物狩りギルドは魔物退治を専門としていて、素材の買取などをしています」
「へえ、ゲームみたいだね」
冒険者ギルドのようなものだろう。
ロールプレイングゲームのようで、少しだけ面白い。
「魔物狩りギルドに行けば、魔物の生息地帯などの情報も売ってくれるはずです。行ってみましょう」
「うん、行こっか」
二人は街を並んで歩いていき、魔物狩りギルドを目指す。
人波をかき分け、大通りをしばらく歩いていくと目的の建物が見えてきた。
「『剣と獅子』の紋章……ここが魔物狩りギルドですね」
「へえ、意外と綺麗な建物だね」
そこにあったのは白い小綺麗な建物である。
魔物退治の専門家が集まるところだから、もっと西部の酒場のような荒々しい場所だとばかり思っていた。
扉を開くと、部屋の奥にカウンターが設置された役所のような空間が現れる。
カウンターの向こうにはスーツ姿の女性がいて、ウータとステラをにこやかに出迎えた。
「いらっしゃいませ、こちらへどうぞ」
「あ、はい」
ウータは言われるがまま、カウンターまで歩いていった。
「初めての方ですよね? 本日はどのような御用件でしょうか?」
「あの……私達、魔物についての情報が買いたいんです」
ウータに代わり、ステラが受付嬢に要求を切り出す。
「できるだけ、珍しくて高価な魔物について知りたいんですけど……」
「魔物についての情報ですか? もしかして、討伐者の方でしょうか?」
「そうです。この町に来たのは昨日からですけど、魔物の討伐経験はあります」
「なるほど。ご一緒に登録も如何でしょう? 討伐者として登録していただければ、割引価格で情報を提供できますが?」
受付嬢の提案に、ステラが首を振る。
「いえ……この町に長くとどまるかわからないので、結構です」
「そうですか……相応の対価さえ頂ければ、登録されている討伐者様以外にも魔物の情報を差し上げることができます。しかし、討伐の際に命を落としたとしても自己責任となります。よろしいでしょうか?」
「大丈夫です」
ステラが淀みなく受付嬢との交渉を終える。
慣れた態度だ。これまでにも、こういった交渉をしてきたのかもしれない。
「珍しい魔物と言いますと……現在、当ギルドに情報が入っているのは、『デーモンエイプ』、『ホワイトフェンリル』、『ゴールデンカーバンクル』の三つになります。デーモンエイプは五万Pt、他の二種類は十万Ptになります」
「……どうしましょうか、ウータさん?」
ステラが振り返って、訊ねてくる。
ウータは特に考えることなく、「全部買ったらいいんじゃない?」と答える。
「別にお金には困ってないし、買ったらいいよ」
全部で二十五万Pt。
安い金額ではもちろんないし、ウータが国王から貰った金の四分の一にあたる。
それでも、ウータはケチではない。
無駄遣いやギャンブルは好きではないが……お金があれば惜しみなく使う性格だった。
「それでは、こちらに情報が記載してあります。どうぞお気をつけて」
金貨と引き換えに情報を受けとった。
ステラが数枚の紙を受けとり、折りたたむ。
「それじゃあ、行きましょう。ウータさん」
「うん、行こう行こう」
用事を済ませた二人はギルドを出た。
適当なカフェにでも入って情報を確認しようとするが……後ろから声をかけられる。
「おい、待ちな!」
「「え?」」
二人が振り返ると、そこにはニヤニヤと笑う三人組の男がいた。
「いいもんを持ってんじゃねえか。俺達にも見せてくれよ」
「……誰でしょうか。貴方達は」
ステラが警戒した様子で訊ねる。
男達はにやけ顔のまま、両手を挙げて話しかけてくる。
「勘違いするなよ。別に危害を加えるつもりはない……俺達は、ただその紙を見せて欲しいってお願いしているだけだ」
「そうそう、強盗じゃねえぞ? 見せてくださいってお願いしているだけだからな!」
「憲兵なんて呼ぶなよ? あくまでも『頼んでいる』だけだからなあ!」
「…………」
つまり、この男達はウータ達が購入した情報を見せてもらい、タダ乗りをしようとしているのだ。
頼んでいるだけなので、強盗や窃盗といった犯罪ではない……そう主張しているようだ。
「ウータさん……どうしましょう」
「別に良いんじゃない。見せちゃっても」
ウータが平然と言う。
身銭を切って購入した情報だというのに、少しも執着がなさそうである。
「立ち話もなんだからさ。そこのお店に入ろうよ」
「へえ、話が分かるじゃねえか」
「賢い生き方だと思うぜ、ヒャヒャッ!」
男達が不快な笑い声を出して、ウータ達と一緒にカフェについてくる。
「ウータさん、本当に良いんですか?」
「どうだろうねー、良いって言ったらいいし、悪いと言ったら悪いし」
「えーと……意味がわからないんですけど?」
「ほら、さっさと来やがれ!」
「逃げたら承知しねえぞ! 来い!」
「うん、逃げないよ。お先にどうぞ」
ウータがカフェの扉を開いて、男達に中に入るよう促した。
男達が扉をくぐってカフェに入っていき……ウータが扉を閉める。
「ウータさん?」
「いっつあ、さぷらーいず」
「へ……?」
ウータが扉を再び開くと、そこにいたはずの男達が消えていた。
「ええっ!? どうしてですかっ!?」
「いっつあ、いりゅーじょん」
「いや、イリュージョンと言われましても……」
「どこでもトビラだよ。まあ、言ってもわからないかな?」
ウータが愉快そうに両手を広げた。
「魔物に会いたがっているみたいだから、魔物がいそうな場所に送ってあげたんだよ。きっと喜んでるよ」
ウータはいつもと同じ、のほほんとした顔で言う。
何の準備もせずに魔物の巣窟に入ろうものなら、命の危機だってあるのだが……そんなことは少しも気にしていないようである。
「……そうですね。きっと喜んでいます」
「うん! それじゃあ、カフェでお茶をしよっか」
「…………はい」
ステラはウータの言葉を否定することなく受け入れて、一緒にカフェに入っていった。
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