閑話日和 -2-


 これはざっくり70年前、魔族の王に初めての子供が生まれた年の話。


「パパー、ちゆー、ちゆー」


 生後半年のゼナーユが戦略会議室へと走ってきた。

 魔族は6歳で成人のため、ゼナーユはもう十分に話すことも歩くこともできる。


「何!?」


 パパことワルフラはつたない言葉を敏感に聞き取っていた。


「チューだと!? 誰から習った!?」

「ん」


 ゼナーユはワルフラの後ろにいたジアメンスを指差した。


「貴様……」


 場が凍る中、ジアメンスは淡々と口を開く。


「治癒魔法のことかと。先週の授業で基礎を教えましたので」


 ほっ。


「なんだ治癒魔法か。自分で覚えんことにはな、いつまでも他人にやってもらう訳にいくまい」


 ワルフラは屈んでゼナーユの髪を上げる。

 額の擦り傷に血がにじんでいた。


「えー、いたいのにー」

「文句を言っても痛みは消えんぞ。まずは魔力の操り方を覚えろ。我輩が手本を示してやる」


 ワルフラはゼナーユの擦り傷に手を当て、魔力の流れを肌に染み込ませていく。


「痛いの痛いの、飛んでいけー」


 冗談がてら、それを右へ流すと、


「ぐわああああああああああああ!!!!」

「ジアメンスーー!!」


 なぜかジアメンスが壁にめり込んだ。


「ぐあっ……はぁっ……!!」

「一人で一体何を……」


 ワルフラが心配していると、ジアメンスは額から血を流し始めた。


「ゼナーユ殿の怪我を私に移しました……勝手な判断、申し訳ありません」

「あ、あぁ、そうか」

「戻します」

「いやいい、さすがに。我輩も悪魔ではないからな」

「……ん?」

「……?」


 ?


「まあいい。ところでゼナーユ、どこでケガをした」

「どらが!」

「ドラガ?」

「どらが」


 ドラガと言えば、ここ最近の戦場でブイブイ言わせている新進気鋭の男のこと。強情で傲慢な性格なのは知られているが……。


「殺しましょうか?」


 さっそくジアメンスが手を挙げるも、ワルフラは首を横に振る。


「自分でやらねばならん。ゼナーユよ、貴様が自らの手でドラガを討ち取るのだ!」

「もう倒したからいーや」


 ゼナーユは小さな歩幅で去っていった。


「ゆ、有望……!」


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