第16話 聖剣の霹靂
葉脈のような光の線が空を走る。
「王都から
また、室内や地下であろうと感知さえできれば受け取ることが可能だ。
「ケイス! 座標設定!」
イエルカが慌ただしくも凛々しく言う。
「はーい!」
円卓騎士の一人『ケイス』。茶褐色の肌の小柄な女性であり、毛先の白く染まった二つ結びの茶髪をしている。顔立ちは幼いが瞳はまっすぐ。外套から覗く甲冑は胸当てのみで、かなりの軽装だ。
「…………」
王都周辺を大きく示す地図の上にケイスが手をかざし、指からペンダントを垂らす。
ペンダントのチェーンには尖った飾りが付いており、その先端がひとりでに動いている。これで先端が指し示した位置が座標として設定されるのだ。
「王様~、俺ぁ何すりゃいーんですかね」
「黙っていろ」
「ハイ……」
イエルカに制されたのはもう一人の円卓騎士『オデット』。
整ったヒゲと目鼻が特徴のダンディーな男。部下に用意させたベンチに寝転がって暇をもて余している。
ペンダントが斜めに傾いたままピタリと止まった。
「準備バッチグー!」
ケイスが親指を立てると、イエルカは力強く応える。
「エクスカリバー、撃て!!!」
大量破壊兵器、その名をエクスカリバー。
責任は果てしなく重大。この2人のやり取りで一つの土地が死滅するのだ。
*
ジアメンスは避けることができた。
しかし避けられない理由があった。
「せ……先生………………?」
ゼナーユは自身の上に覆い被さるジアメンスを見て、息を吸うのを忘れていた。
第一の盾となった巨人は朽ち果て、第二の盾であるジアメンスは死体同然。
皮膚は溶け、かろうじて残った筋繊維と脊椎が体を立たせている。
もう長くない。ジアメンスはゼナーユの上で死ぬ。
そもそも魂魄珠を取り込んだ時点で半死半生は確定していたが、ジアメンスほどの実力者であれば生き残ることはできたはず。それでも彼は未来に託すことを決めた。
「……ちゃんと…………見ていますよ…………」
最期の言葉は涙となってゼナーユの頬に落ちた。
ここはペルフェリア南西部。
つい1分前、高度1万キロメートルからの火球攻撃が直撃した爆心地。
前代未聞の焼け跡とクレーター。被害は地平線の向こうまで続き、この世の終わりのような風景を作り出している。
生き残った2人の体を夜風が撫でる。
巨人とジアメンスの死体および動かなくなったアサイラサイラは黒い色に変わり、ある一点につむじ風のように集約されていく。
これは魔王の血族のみが使用可能とする合成魔法の究極系。命の結晶、魂魄珠を生み出すことができる。
「余計な手間はかかったが、王都を攻め落とす計画に変更はない」
そして魂魄珠はワルフラの左手に握られた。
「我が娘よ、貴様はどうする?」
と聞くと、ゼナーユが腕で顔を隠してつぶやく。
「もう……いいや…………」
吐き捨てるような諦めの言葉だった。
ゼナーユは何が正解がわからず、生きたいのかすら曖昧だった。今死んでも後悔はないかもしれない。そう思いながら、自分の父親の介錯を待っていた。
「つまらんな」
ワルフラはその一言を、ゼナーユに対してではなく、目の前に悠々と現れた血まみれの騎士――アネスを睨んで。
「つまらなくてもカッコはつくだろう?」
アネスは人間の姿で、大怪我を負っていた。しかしそれは魔族たちから受けたものではない。
彼は自身の能力で姿を変えている時に受けたダメージを元の姿に戻ることで帳消しにできる。それで一度は死にかけた体を全快にした……まではいいものの、その後にエクスカリバーの被害を食らって再び死にかけていた。
「虚勢を張らんでもいい。何が狙いだ?」
「狙いだなんて物騒な言い方を。私はただ、忘れ物をお届けに」
アネスが持っていたのは、人間にしては大きな右腕の断片。
筋肉質で恐ろしい。なぜか断面は斜めで、切れたばかりなのか血が滴っている。
「!」
ワルフラは即座にその右腕を奪い取った。
取られてはいけない。その意思に反するように、アネスは落ち着いた様子で「もう貰ったよ」と拳を握る。
「
アネスの能力は『模倣』。世界で一人しか扱えない能力も一瞬で我が物にできる。
ワルフラの後方に小さな影が灯る。小さかったそれは手を伸ばすように空間を這いずり回り、すぐに大きく切り立ち、ゲートとしての役割を発揮する。
影から出てきたのは十数人の魔族たち。槍や鎧からして兵士なのはわかるが、どこか怯えており、弱っているようだった。
その直後、魔族の兵士たちはワルフラを見つけ、パッと明るい顔になった。
「魔王様……!? 良かった!」
子供のように
(
彼らは雑兵だ。土に埋めることは容易い。
「もう既に伝わっておりましたか!」
ただ、雑兵の顔色だけがワルフラには理解できなかった。
「……」
「……?」
「……何の話だ?」
魔王の頭脳をもってしても推測できない主語というのはつまり、知らない事に他ならない。
情報伝達が重要である軍人が主語を省いても伝わると思っているのはつまり、火急の事態に他ならない。
魔族の兵士たちが視線を交わした後、先頭にいたヤギのような顔の男が言う。
「お、王都が……陥落したのです……」
繋がりというのは時に思わぬ不幸を招く。
「……………………何?」
敵であると同時に友であるなら。
「我らの王都『アークガルダ』が、騎士王率いる人間軍の手に落ちたのです!」
信頼は臨機応変であるべきだろう。
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