第42話 泣いてもいいですか?(いい)

「人いっぱいですね〜!賑やかな方が楽しいから良いですけど!」


 春花の言う通り、夏祭り会場の入り口から見るだけでも人が多くて、屋台も多いためとても賑わっていた……普段は祭りに行く機会がないから、こういう機会を見るのはとても新鮮な気持ちだ。

 俺と春花は、一緒に夏祭り会場に入る。


「春花は夏祭りで食べたいものとかあるか?」

「りんご飴です!」

「わかった、じゃあまずはりんご飴を買いに行こう」

「ありがとうございます!」


 そして、春花の要望通りにりんご飴が売っている屋台に向かい、俺と春花はそれぞれりんご飴を購入した。


「……ふふっ」


 りんご飴を持ちながら歩いていると、何故か春花が突然笑い出した。


「どうした?」

「いえ、冬咲先輩と可愛いイメージのあるりんご飴って全然合ってなくて、おかしい〜!ってなって笑っちゃいました」

「それは悪かっ────」

「でも、私ほど可愛かったら冬咲先輩に合ってるとか合ってないとか気にしなくても私は可愛いので、私が隣に居ても全然おかしくないですよ」


 春花は、色っぽい笑顔を見せて言った。

 ……今日は春花が浴衣姿で普段より大人っぽく見えるせいか、どんなことでも色っぽく見えてしまう。

 俺と春花は一度人の少ないところに行くと、春花はそんな俺のことなど気にも留めずにりんご飴を舐め始めた。


「甘〜!」

「……」


 俺は、その春花のことを見て、何か違和感を覚えた。


「美味しい〜!……って、あれ?冬咲先輩はりんご飴食べないんですか?私に見惚れちゃう気持ちはわかるんですけど、りんご飴の味共有したいです!」


 俺が春花のことを見ているのは、春花に見惚れているからではない。

 普段とは違う春花に全く見惚れていないかと言われればそうでもないが、それよりも……この違和感。

 気のせいかもしれないが、聞いてみることにした。


「春花……今日、リップ付けてたりするか?」

「……え?」


 楽しそうにりんご飴を舐めていた春花の動きが止まり、春花は胸を打たれたような表情になった。

 そして、頬を赤らめながら聞いてくる。


「どうして……そう、思ったんですか?」

「なんとなく……見てたら、唇がいつもより艶っぽい気がして」

「っ……!」


 俺がそう聞くと、春花は俺から顔を逸らして言った。


「冬咲先輩のくせに、私のことドキッとさせるなんて……冬咲先輩って、時々鋭いですよね」

「じゃあ、本当にしてたのか?」

「はい、色は変わってないので本当に艶だけだったと思うんですけど……よく気づきましたね!」

「春花は毎日のように自分の容姿について自慢してくる上に、今日は浴衣姿で普段とは違う格好……変わってるところぐらい気づく」


 そう言うと、春花は珍しく落ち着いた表情で言った。


「私、自分のこと可愛い後輩って言い過ぎたせいで、冬咲先輩に後輩としてしか見られてないんじゃないかと思って……だから、今日はいつもより大人っぽくして、もっと可愛い後輩じゃなくて私のことを見てもらおうと思ったんです……だから、冬咲先輩に大人っぽくて色気があるって言われた時は本当に嬉しいって思いました」


 ……悩み事とは無縁そうに見える春花にも、やっぱり悩み事というのは存在するらしい。

 でも、その悩みについては俺が解決できそうだ。

 俺は春花の目を見て、真っ直ぐな気持ちを持って伝える。


「そんなことしなくても、俺は春花のことをちゃんと春花として見てる……でも、だからって春花の浴衣姿を否定する気なんて全くないし、水着姿だけじゃなくて浴衣姿の春花だって良いと思う……だから、春花はいつも通り自分を可愛いと思える春花で居てくれ」


 ……本当は、水着姿と浴衣姿のことも良いと思っているが、そのことを伝えるのは今じゃない。

 そのことに少し悔しさを感じながらも、伝えたいことは伝えられたため今はそれで良かったと思っていると、春花が涙目になりながら言った。


「っ……!……私、感動しちゃったので泣いてもいいですか?」

「あぁ、いい」

「ありがとうございます!じゃあ今から泣きますね!」

「え……今!?そんなすぐにか!?」


 その後、俺は今にも泣き出しそうな春花のことを二人きりになれる場所に向かい、その場に着いた瞬間に堪えていた涙を流し始めた春花のことを宥めた。

 ……わかっていたことだが、大人びた格好をしていても、春花は春花のようだ。

 しばらくしてから春花が落ち着くと、俺と春花は二人で一緒に夏祭りを楽しんだ。

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