第34話 水着店(巡り合わせ)

 春花と海に行く日まで、あと数日となった。

 そろそろ水着を買いに行かなければまずいと思った俺は、外用の服に着替えると外に出るべく玄関に向かった。

 俺が靴を履いていると、後ろから声をかけられた。


「こんなに暑いのに、どこか行くの?」

「今度海に行く予定があるから、水着を買いに行こうと思って」

「海!?え、いつ!?どこに!?誰と!?」


 質問をするときの典型文のようなものを聞いて来た姉さんに、俺はしっかりと「七月末に、場所は相手が決めてくれるらしい、相手は後輩の女子」と全ての質問に答えた。


「そうなんだ……でも、修学旅行の時みたいに、一人だけだったら何か色々と忘れそうだから、私が付いていってあげよっか?」

「一人で良い」

「そんなこと言わないで!私はお姉ちゃんなんだから!」

「数ヶ月早く生まれたお姉ちゃんだ」

「……じゃあ!水着選びだけは手伝ってあげよっか?ほら、もし変な水着選んじゃって、その後輩の子に引かれたりしたくないでしょ?」


 変な水着を選んで、春花に引かれる……か。

 ……ハッキリ言って想像もしたくないが、それは俺が引かれるような水着を選ばなければ良いだけのことだ。


「引かれるような水着選ばないから平気だ、行ってきます」


 俺は玄関のドアを開けて、家の外に出て鍵を閉めた。


「あ!あの時私に頼っておけば良かったって言っても知らないからね!知らないからね〜!!」


 家の中から姉さんの大声が聞こえてくるが、俺は気にしないことにして水着を買いに足を進めた。


「ここか」


 俺は数十分ほど足を進めて着いた水着店の中に入った。

 一応もっと近くにも水着店はあったが、調べたところこの水着店はかなり有名なところらしく、よく海に行く人たちの間でも頻繁に使われているということだったため、少し遠くてもこの店の方が良いと思いこの店を選んだ。

 この水着店は男女両方の水着を売っているため、目のやり場によっては勝手に一人で気まずくなったりもするが、俺は気にせずに男性用の水着を見る。


「……」


 派手なものから落ち着いたものまで、色々なものがある……春花はどんなものが────って、どうして俺が春花の好みに合わせないといけないんだ。

 俺は一人首を横に振ると、気持ちを改めて水着選びを再開した。


「黒色の水着……水色も良いな」


 俺が悩んでいると、後ろから肩をトントンと叩かれた。


「はい、何です────か!?」

「冬咲くん、こんなところで何をしているの?」


 俺は、俺の肩を叩いた人のことを見て心底驚いた。

 何を隠そう、俺の肩を叩いた人は美色さんだったからだ。


「み、美色さん!?美色さんこそ、こんなところで何を?」

「冬咲くんがそんなに声を荒げるのは珍しいわね、ここは私が愛用してる水着店だからよ……それで、あなたはどうしてここに?」

「俺は……近頃海に行くので、その時の水着を買いに」

「海に?……あの一年生と?」

「はい」


 ようやく落ち着いてきた俺は、冷静にそう返事をした。

 俺からも気になることがあったので、そのことを聞いてみることにした。


「美色さんはどうしてここに?愛用してる水着店って言ってしましたけど……」

「夏は泳いで体力をつけているから、海にはよく行くの、だからあなたたちが近々海に行くなら、私とも会うかもしれないわね」

「そんなことありえ……」


 ないとは言い切れないか、現に今こうして有名な店とは言っても、数ある水着店で示し合わせたわけでもなく会ってるからな。


「……冬咲くん、今水着を選ぶのに難航している様子だったわよね?」

「え?……はい、ここ数年水着を自分で選んだりしていなかったので……」

「そう……なら────」

「え……?……冬咲、先輩?」

「……え?」


 美色さんが何かを言いかけたところで、入口方面の方から俺の名前を呼ぶ声が聞こえて来たのでそっちの方を向くと────そこには、春花の姿があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る