第10話 両手に花(棘)
……どうして美色さんがまた俺の席に?
ちゃんと反省文は提出したし、あれから美色さんとは会っていないし口にも出していないため美色さんのことを不快にさせるようなことは無かったと断言できる……となると、残った可能性は一つしかない。
「教室を間違えてしまったのか」
そうだ、そうに違いない。
そうでなければ、この教室の他の生徒に用事があって、俺に呼んで欲しいとかだろうか。
他学年のクラスで動きづらいのはよくわかる。
俺も昨日は三年Aクラスでどうしたものかと苦労した。
ということで、俺はその二つのどちらかだと結論づけて、自分の席に座った。
「美色さん、教室間違えてませんか?」
「間違えるはずないでしょう?」
違った……じゃあ、あとは。
「このクラスの誰かに用事があるんですか?」
「えぇ、その通りよ」
やはりそうだったか。
美色さんも、意外と他学年のクラスでは動きづらいと感じたりするんだろうか……なら、俺がその橋渡し役になるとしよう。
「誰に用事があるんですか?俺呼んできます」
「結構よ、今話してるから」
……え?
今、話してる……?
「あなたの席の前に立ってるんだから、あなたに用事があるに決まってるでしょう?そんなこともわからないようなら、私に五度も失礼を働いた理由も納得がいくわね」
「だって、俺と美色さんはもう────って、五度?前は確か四回って言ってませんでしたっけ?」
どうして何も関わっていない間に俺が失礼を働いたことになっているんだ?
「あなたみたいな人は、ある意味私の人生で初めて見たわ」
俺が疑問に思っていると、美色さんは呆れた様子で四枚の紙を取り出した。
俺が昨日美色さんに渡した四枚の反省文だ。
「昨日は忙しくてこの反省文を確認するのは帰ってからになったんだけど、その時は今までの人生全てを含んでも指折りで驚いたわ、まさかこんなものを反省文として提出してくるなんて」
「え……?」
反省文はそれぞれの謝罪を求められたものによってちゃんと謝罪の意を述べたし、それだけでなく今後同じようなことが無いように気をつけますという意もかなり丁寧に書いたはずだ。
反省文として何かいけないところがあったのか……?
疑問からさらに疑問が生まれると、美色さんがその疑問に答えを出すようにして言った。
「全てを埋めろとは言わないけれど、紙の半分以上を埋めるのが普通でしょう、それなのにあなたが書いたのは四枚全てが一文だけ、驚かない方が無理な話よ」
「半分以上……!?」
そもそも俺は反省文とか今まで書いたことないし、そんな普通は少なくとも俺の世界には無い。
「……」
ということを伝えても、今度は「今の立場がわかっているの?」とか言われそうだから、今回も謝って済ませ────ようと思ったが、そのせいで前回は反省文を書かされるという失敗をしてしまった。
もうあんなよくわからない理由で反省文を書かされるというのはごめんだ。
同じことを繰り返すわけにはいかない。
俺はその考えのもとで、前回の謝罪とは違うことを言ってみることにした。
「俺は────」
「えええぇぇぇぇぇ!?先輩が女の人に口説かれてる!!」
俺が前回とは違うことを────言おうとした時、俺にとっては聞き馴染みのある声がこの教室中に響いた。
その瞬間に、俺は確信した。
────このあと、絶対に面倒で厄介なことになると。
「……」
だが、もう俺は渦に飲まれてしまっているため、その渦から逃れるのは難しい……その聞き馴染みのある声の主、春花が俺の席に駆け込んでくると、俺は春花と美色さんの二人から視線を向けられた。
傍から見ればこの状況は、春花という可愛い後輩と美色さんという綺麗な先輩と一緒に居て、両手に花という言葉の例としてとても適しているほどの状況だが、俺にとってその花は棘しか無い薔薇のようなものだった。
◇
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今後も皆様にこの作品をお楽しみいただけることを願っています。
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