第35話 死の真相
突然のキス、そう、突然のキスで息も絶え絶えとなった私はそのまま気を失ってしまったのだけれど、アレックス様を治すために自分の力とやらを相当使ってしまったみたいで、三日も眠りっぱなしの状態になっていたというんです。
目が覚めた時にはヴァーメルダム伯爵家の執事であるヨハンネスが枕元に居て、
「力の乱れが見られておりましたので、整えておきましたよ」
と、言い出した。
ヨハンネス曰く、母に激しい折檻を受けた時にも、木の棒(ヨハンネスが言うには聖女の杖という奴らしい)を使って自分で治療していたらしいのよ。
私としては、鞭で打たれた背中が痛痒くて木の棒を使って痛痒い場所を掻いていた覚えはあるんだけど、知らぬまに治療をしていたのかな?それで、今回みたいに治癒をする量が多い場合には、魔力切れを起こして眠りについていたらしい。
暴力を振るうのは基本的に母であるカリス夫人だった。死んでも困るからという扱いで、倒れた私の介抱はヨハンネスがしていたんだけど、杖を使っていたというのは知らなかったな。無意識に使っていたのだろうか?
そうして、魔力切れを起こした時には魔力の乱れが酷い状態になるので、いつでもヨハンネスがこっそりと整えてくれたらしい。
ヨハンネスの家は代々、ヴァーメルダム伯爵家に仕える家なのだけれど、聖女様の魔力の暴走を抑える役を担う家柄なんだって。
前の聖女は私の伯母に当たる人だったんだけど、この人も杖は庭で拾ったらしい。馬車による事故で死んだので伯爵家は弟である父が継ぐことになったんだけど、どうやら父が自分の姉を事故に見せかけて殺していたことが判明したみたい。
父に嫁入りした母、カリス夫人が爵位を継ぐのなら当然の行為だと唆し、父に自分の姉を殺すように仕向けたみたい。夫人の実家は聖宗教の熱心な信者なんだけど、聖地巡礼だと言って子供たちを帝国にある大聖堂へ向かわせていたみたいで、そこで強めの洗脳を受けていたということが判明したらしい。
母はヴァーメルダム伯爵家に嫁いで二人の娘を産んだけれど、教団の意思に従って聖女の末裔である二人の娘は殺す予定でいたらしい。娘たちが小さいうちに殺してしまうと、夫のジェロンが他にも子供を求めることになるだろうから、二人の娘は結婚をする年齢までは生かしておくことにしたらしい。
その計画を知ったガブリエル様が、カリス夫人の異母弟となるデルク・ルッテンを送り込み、何とか自分の姉に思い留まらせようとしたのだけれど、夫人は教団から渡されていた毒を使って口うるさいデルクを殺して隠した。
姉のフレデリークは毒で殺すように教団から言われていた母は、うっかりその毒を使ってしまって相当焦ったみたいなの。
そこで、あることを思いついて、朝から料理長に卵たっぷりの菓子を用意するように命令した。姉は卵のアレルギー持ちなので、伯爵邸ではいつでも卵を使わない料理や菓子を用意するんだけど、
「友達のところに持って行くから」
という言葉を周りの人間は聞いていたらしい。
社交を楽しんでいた夫人は毎日のようにお茶会に行くような人なんだけど、その日は、妊娠しているんじゃないかな〜と思い悩んでいたフレデリークをこっそりと泉の畔まで呼び出して、敷物を敷いてピクニックのようにお茶やお菓子を用意しながら、話を聞き出そうとしているように見せかけたらしい。
卵アレルギーがある姉は、自分の家で出される物には卵は一切使われないと思い込んでいるから、何の警戒もなく、用意された菓子を口に運んだことでしょう。
結果、姉はアレルギー発作を起こしたわけだけれど、夫人は苦しむ娘を泉まで引きずって行って、泉の中へと沈み込ませた。
血液を溶解させて出血を起こさせるパラマリンの毒は紫斑の症状を呈することになるけれど、アレルギー発作によって出る紅斑も、見た目は似ているように見えなくもない。
泉の近くにわずかに毒が残った小瓶を落とした状態にしておけば、フレデリークは悲恋に嘆き、毒をあおって自殺したのだろうと皆は考えることになるだろう。
夫人はヴァーメルダム伯爵家に輿入れした後も、リンドルフ王国に潜入してきた聖宗会の熱狂的信者の受け入れを行っていたらしくて、痩身薬と銘打っている麻薬の流通についても深く関わっていた。改革派の貴族令嬢たちを誘き出し、罠に陥れようとしていたのはカリス夫人であり、その話をこっそりと聞いていたフレデリークは、妹のマルーシュカを陥れるための罠に使おうと考えた。
何処から情報が漏れていたのかは分からないけれど、麻薬ビジネスは摘発されて、全てが失敗することになったのだ。
「もしかしたら、娘のフレデリークが何処かで話を聞いて邪魔をしていたのではないのだろうか?」
次女のマルーシュカは自分の近くに置くことはないので、情報が漏れるとしたらフレデリーク以外に有り得ない。
そうして麻薬ビジネスを壊滅に追い込んだアレックス・デートメルスとフレデリークの婚約が決まることになった時に、
「やっぱり、フレデリークと小公子は繋がっていたのだわ!」
と、夫人は確信したのでしょうね。
憎っくき娘を忌々しい聖女の伝説が残る泉に沈めた時に、フレデリークは息も絶え絶えとなりながらも、激しく抵抗したらしい。
後から確認を取ったところ、カリス夫人の腕には爪で引っ掻いたような跡が残されていたし、破れたドレスが焼け残った夫人の部屋から発見されている。
婚約者が居る身でフレデリークが浮気しているのは間違いない事実であるし、フレデリーク曰く相手は小公子以上に高貴な身分の方だから問題ないとは言っているけれど、このリンドルフ王国にアレックス以上の高貴な身分と言えば王族になってしまう。
「なんだかんだ言って、フレデリークの相手は取り巻きのうちの誰かなのでしょう」
どちらにしても婚約者がいる身で月のものが来ないというような事態に陥るのは、令嬢としては思わず死を選んでしまうほどの悲劇でもある。フレデリークは毒を飲んで死んだ、それで終わりで良いだろう。
とりあえず、娘が一人片付いた。自分が産んだ娘を殺したというのに、何の罪悪感も持たないカリスはアレックス・デートメルスが現れるまでは、何の問題もなく無事にやり過ごすことが出来るだろうとタカを括っていたのに違いない。
ちなみに次女の私を虐待し続けていたのは、瞳の色が聖女の特徴を兼ね備えたアンバーだったからだそうです。
普段から下働きとして働かせていた私は、ゴリゴリの聖宗会のシンパであるリント男爵の後妻として嫁がせて、ゴリゴリに女性の尊厳を踏み躙った末に殺す予定でいたらしい。
「聖女は創生神に傅くべき存在ゆえ、踏み躙り、尊厳を焼き捨てて、最高で最悪の死を迎えさせるべし」
なんてことを考えていたらしいから恐ろしい!
ヴァーメルダム伯爵家当主であるジェロンは、聖女でもあった自分の姉を殺した罪。妻であるカリスは自分の娘と異母弟を殺した罪をリンドルフ王国の法で裁かれることになるんだけど、この国では聖人を殺したら死刑、二人以上殺したら死刑と決まっているので、おそらく二人は死刑を求刑されるだろうとのことだった。
それじゃあヴァーメルダム伯爵籍はどうなるのっていうことになるんだけど、私が伯爵籍を持った状態でデートメルス公爵家に嫁ぐことで決定なんですって!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます