絶望の英雄、ハヒルとの遭遇(雑)既に狂っていた

 ここはガリ国…今、俺がウダウダしている国、実家の貴族も所属していた王国。


 ガリ国の7人の姫のうちの1人、リリー姫。

 彼女の第一印象はお花畑だった。

 何もお花畑の中にいた可憐な少女という訳では無い。


 頭がお花畑だった。


『魔物や魔王と話し合いは出来ないかしら?』


「そ~ですね、姫様はお優しいですね」


『そうなんです、争いは嫌ですわ。皆が手を取り合って幸せな世界を目指すのですわ』


 出来る訳ねーだろ、最前線じゃ各国の軍隊や傭兵が命懸けで魔族と殺し合ってんぞ?

 どっちも皆殺しの勢いで戦っているやぞ?


 しかし悪態はつかない、仕方無いからだ。

 何でこんなお花畑かというと、魔王の国から一番、この国が離れているからだ。

 片や死ぬ気の殺し合い、片や平和ボケ。


『私は将来、魔族と人間の世界を作るのですわ』


「姫ならきっと出来ますよ、時が来れば私も微力ながら支えましょう」


『イブキ先生…ポ♥』


 コイツ馬鹿か?

 まぁこれぐらいがちょうど良いわ。

 ちなみに一度、ハヒルと会う前に何か劇的なイベントはないかと最前線に行った事がある。

 要は魔王国の隣の国だ。レイランドとかそんな名前の国だったが、もう国全体の悲壮感が半端無い。

 途中の村ですら『厳しいご時世だよな』しか言わない。

 自ら厳しいご時世にするなら引っ越せよと思ったがそれも言わない。

 色々あんだろう、きっと。


 そして魔王軍…そこら辺の魔獣、魔物とは違う。高い知能と強靭なフィジカルを持つ魔族。

 今の俺なら何とかなるが…当時、まだ魔導器ゴリ押し時代で自分自身を鍛えていなかった時、俺はこの国に生まれていたら死んでたなと思った。

 雑魚兵ですら毒が効いてから、それでもある程度は動いてくる。

 ハヒルレベルの筋力は当たり前、勿論、最前線の傭兵や軍もそれ相応に強い。

 多分、他の国にいればトップに立ててもおかしくない強さ同士のぶつかり合い。

 俺は一通り回ったら逃げた。


 王様も一度見かけたが、目の下にクマが出来て頬がこけていた。

 心労が凄そうだった、そりゃそうだろう…普通に何度も城まで押されては、少し押し返しの繰り返し。

 いつ死んでもおかしくない。

 いや、国民が、自分の国の兵士が…周りが自分を守りバタバタ死んでいくんだ、自分の責任で…


 最高じゃねーか、いや違う。最悪だ。

 更に今代の魔王はまるで仇の様に攻めてくる、それこそ世界を征服する勢いだそうだ。


 まぁ、そんな話はどうでも良い。

 この姫は惚れやすく頭は花畑…華麗な裏切りを犯すだろう。



『いつか、一緒になりましょうね♥』


 1年が経つ頃か、姫が将来の約束をしてきた。

 自分は女王にはなれない、王になるのは兄の王子であり、王妃になるであろうその嫁は、外から来るだろうと。

 

 このバ…お姫様は女王になれるとでも1ミリでも思っていたのか?

 ウケる(笑)ちなみにこの姫は、この1年で自分の他に2人ほど将来の約束をしている(笑)


 この姫は自分が一国の王位の継承権を持つ姫という事を分かって無い。

 この国はどうなってしまうのか?

 是非、この調子で頑張って欲しい。


 そう言えば時折、ハヒルの噂を聞く…

 他所から来る冒険者に嘘を教える。

 フラフラしながら意味無く魔物を殺すから依頼が完了しているのに、何も報告しないから業務に支障をきたす。

 意味不明な理由でギルド職員を恫喝する。


 しかし、なまじ結果を出すから出禁に出来ないんだって(笑)

 例えば近くのダンジョンでスタンピートが起きた時、たまたまそのダンジョンでハヒルが1人でムラムラしていた様で、バケツをひっくり返した様に発生した魔獣と魔物の群れと正面衝突したらしい。

 結果、街に来たのはヨロヨロした十匹ぐらいの魔獣と行き絶え絶えの魔物が街の門番に殺され解決したらしい。


 というか、俺に冒険者ギルドから手紙による直接的なクレームが来るが見ない。


 ここに来てハヒルに教えた【ギルドは何かを隠している…】が効いているな(笑)

 

 俺の計画が着々と進んでいる頃、時代が進み始めた。

 いよいよ魔王国との最前線、レイランド国が限界らしい。でしょうね。

 他の国、支援してないもんね。


 そんな中、レイランド国の姫が遠路はるばるやってきた。

 何やら各国の代表を連れて同盟を結びに来たらしい。

 所謂『周りの国全部同盟結んでるから、協力しないとか無理だから』という脅迫である。


 それでもこの国の中枢、王を筆頭に馬鹿が多い。

 私も姫の教育係、兼顧問としては参加したが…


『魔王軍に対抗する為には各国の協力が不可欠です。もし私共のレイランドが潰れたらこの国は一瞬で消えます。考える時間はありません。即答して下さい、早くっ!』


 凄え姫様だな…会議の場所に鎧着こんで入ってきてら。

 横にいる男達も豪傑って感じだし、納得のいく答えでなかったら一戦交える覚悟を感じる、流石だ。


『我が国では話し合いに重きを置いている、それは内政であれ、外交であれだ…』


 そして我らが王も流石だ。

 参加しないと潰すぞと言ってるのに話し合いで勝負した。会議が出来てない。

 流石、お花畑を輩出している王族だけある。


『平和ボケも極まりましたね…クソが』


 レイランドのお姫様、口は悪いが仰るとおり。


『いくら一国の姫とはいえ、無礼であろう』


 いや、王様、最初からこの姫様は礼とか無視しているが?

 と、突っ込みながら少しニヤニヤしているとレイランドと同盟している国の一つ、エルフの国の何百年だか生きている元女王シャールとか言う化け物女エルフが話しかけて来た。


「お前がイブキか?転生者なんだろ?何、遊んでんの?」


 エルフというのはこの様に冗談を言ってくる。

 知った様な口の聞き方であるが…転生についてはハヒル以外知らんからな…


「何の事ですか?私は姫の…「ウチの従者がハヒルというお前の弟子から聞いたよ、全部な。あの化け物、お前の為…いやお前のせいで目茶苦茶してるんだ…なんの目的か知らんが損害賠償されたくなかったら協力しろ」

 

 ハヒル…ハヒルぅぅ…アイツは何を…


 パンッパンッパンッパンッパン


 考え過ぎて一瞬、リリー姫が会議の最中、性行為を始めたかと思ったが、レイランド国の姫様が手を叩いただけだった。

 まるで話し合いは終わりだと言わんばかりに。


『分かりました、貴国の資産や兵には協力を仰ぎません。ただ、そこのイブキ様の力をお借りしたい。良いですね?(ボソ)元からテメーラ雑魚の兵力なんざ期待しちゃいねぇよ』


 多分、全員聞こえる様に毒づいた…じゃなくて指名された!?

 何で俺だよ?俺は俺の計画がある。


「わ、私なんか…なんの役にも立ちませんぜ!?」


 お姫様がその若くも気高い雰囲気のある美貌を歪ませ少し血管が浮いた状態で言った。


「転生…そしてハヒル…といえば分かりますか?」


 クソが!ハヒルなんて知らん、俺は知らんぞ!


「ハヒルとは?「とりあえず後でもう一度話し合いましょう。それではガリ王、イブキ様をお借りしてよろしいですか?」


『ムゥ、イブキを、欲しているのでは仕方あるまい。イブキ、頼むぞ?もし魔皇討伐出来た暁にはリリーとの婚姻を認めよう』


 ほう?あのビッチと?罰ゲイム?王様、面倒くさくなって勝手に何か決定した。

 そんなに早く終わらせて酒池肉林したいの?


 いやいや、違う。

 婚姻なんて、しっかり計画が進んでいるじゃねぇか。

 仕方ねぇ。ハヒルはともかく後衛…いや、魔道具作り職人として後方の村の住人になって、勝利の暁には凱旋してやろうじゃねぇか。


 こうしてスピーディに話がまとまり、俺の選ぶ権利は何も与えられなかった。




 その日の夜、レイランド姫と諸国の代表から呼ばれた。

 俺は仕方なくレイランド姫のいる王宮の部屋に行くと…姫がいきなり涙ながらに土下座してきた…


『イブキ様、転生者イブキ様!お願いします!今も少ない兵と共に命がけで戦う同じ転生者シズルを助けて下さい!もう!シズル様は限界なんです!どうか!どうか!!』


「うおぉ!?頭を上げて下さい。私に力があるかどうか、わかりませんがお手伝いぐらいは致しましょう」


 無論、後方の村でな!しかし何だよいきなり!?怖い!

 シズルって誰よ(笑)

 手伝うと言ってるのにひたすら縋るように頭を下げお願いしてくる…


 すると生意気そうな先程のエルフ…確かエルフの国の元女王のシャールとやらが口角を上げながら絡んできた。


「いやいや…俺達、転生者と従者だけで魔王城に突っ込むんだよ。もうレイランドに余力は無いからナ」


 何だその無茶苦茶な作戦は…巻き込むなや…後、俺も?


「お前だって分かってんだろ?こっちの世界だと負ける気がしないだろう?それだけ転生者とこっちの世界の奴と強さが離れている。そんで魔王は転生者だ。つまりは俺達元の世界の因縁ってこったな」


「俺達ってアンタ…いや、シャール樣だっけ?…いや、エルフの国の元女王なんか知らんが?何言ってんすか?」


「俺はエルフの国で数百年生きたけどな、時間の流れが違うからな。こういや分かるか?俺は元々、平成の日本でホストやってて刺されて死んだ…井岡賢治、ケンジって呼ばれてたよ」


 女エルフなのにケンジ、もう意味わかんねぇよ。


「ハヒルって聞いた時にピンっと来たね。あ~何とかハヒルの憂鬱ってヤツだ…と。俺は見てないけど。まぁ、つまり同世代のアニオタが転生してきてんな…と。何か多いんだよ、日本での転生者。転生した大賢者グリセリン、元の名を『老人でもボッチの田中秀樹』言わせると太平洋に秘密が…」


「静かにッ!シャール様…そこまでです…強力な気配がします…来ますよ…アイツラが…魔王軍が!」


 なんか凄い重要な事を言っていた様な気がしたが、どうでも良い話も挟まっていた為に頭に入らなかった。

 しかも急に黙らされた事に心外そうにケンジ?がレイランド姫を見るが、姫は外を見ていた。

 部屋から見える、少し離れた森に巨大な魔法陣が見えた。


「あの魔法陣のサイズ…幹部級とその一軍です…こんなに早く皆様の力を借りる事になるとは…」


 タイミング良すぎだろう?連れてきたの?

 

『グラァァァオオオオオオオッオ!?『キエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ♥』


『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!?』


 宣戦布告のような巨大な咆哮、その直後に奇声、そして悲痛な叫び声…一体何が起きている!?

 そして奇声は何処かで聞いた事のある声…


 俺は思考をフル回転させた。

 可能性、可能性を考える。魔王軍幹部、相当強い。そしてあの奇声、まさかアイツ…


「分かりました!この敵は私一人にお任せあれ!皆さんはここで待機を!」


 俺は格好良く飛び出した。あわよくば逃げる為だ。

 幹部の強さを判断し、俺の実力で話にならなければ逃げる。

 ハヒルだった場合は死体だろうと回収する。

 つまり、俺の痕跡を無くす。


「イブキ様1人を戦わせる訳にはいきません!私も行きます!」


 レイランド姫が帯剣して付いてきた、いや、来るな…


「いってらっしゃーい」


 クソのホスト、ケンジが手を振っている。会う事はもうないが許さんぞ、ケンジ…




 魔法陣が発生した場所へ走る…近付けば近付く程、悲鳴や叫び声か大きくなる…近付きたくねぇ…


 森を通り抜け、魔法陣が発生していた開けた場所に出た時…

 やっぱり…という感情と、逃げたいという気持ちが交錯する。


 聞こえてくる馬鹿の会話…


『Jソン!よ~くお前だけ降りて来たな!? B2マン◯レイに乗り続けた男がよく降りて来た!Jソン! 一つだけ聞いとけよ!?この広い大地のど真ん中でパワーっうお!?』


『ギギィ!ジェイソンジャナイ!チェ…ダ!キサマ、ナニヲイッテ…ツバサヲサワルナ!ギァアアア!?』


 魔族らしき人物の翼をもいだ…


『喋ってる途中で邪魔すんな!お前はJソン少佐!さっき魔法陣に十字架あったし、空から飛んで来たから間違い無し!なぁJソン!?オイ、Jソン!Jソン&Jソンンンン!』


 黒い禍々しいオーラと下品なピンクの人の形をした塊が、青色の目と手が6つ…屈強なデーモンと組み合って…いや、押し倒していた。


 あの黒とピンクの塊は…ハヒルだ。俺には分かる…あれは天衣兎萠だからだ。


 グチャッグチャッ


 ハヒルは何を考えているのか知らんが、明らかに一際偉くて強いであろう魔族を捕まえ、翼の次は6つある目を順に潰していた。


『えいさぁッ!ハイ、最後ぉ!これで狙撃は出来ないな!?いや、まだ手があるなぁ!』


 よく見ると周りに魔族の死体が転がっている…魔王軍も数人残っているが余りに激しく動き回るせいか、オロオロしていて助けられない。


 そして今度は腕を叩き潰したり引き千切り始めた…


『狙撃はさせんっ!狙撃はさせんぞ!狙撃は絶対許さん!狙撃は駄目!ゼッタイ!』


 ハヒル…お前は存在しない何かに狙撃されたのか?そんなに嫌がる事か?お前には効かないじゃん…まぁスナイパーは元の世界でも捕まると酷い目にあうけども…


 横でレイランド姫が口を抑えながら指をさした。


「なんて事…あれは魔王軍、魔術総隊長…チェ・イソン…それを圧倒しているあの化け物は何者?…なんて残酷な技…」


 そんな、惜しい名前の奴が魔王軍にいたのかよ…驚きを隠せないというかそんな話あるかよ…

 しかし姫様は名前は出して脅迫したくせにハヒルを知らないらしい。

 ピンチはチャンスだ!


「レイランド姫、何やら嫌な予感がしますね!これは危険な気配がする、逃げましょう…俺でも姫を守りきれるか…」


「え?逃げる!?この状況で!?」


 俺はレイランド姫に逃げようと、提案と説得をしていると、刺さる様な視線を感じた。

 この方向は…いや、目を合わせ無ければ…


『うおぉ!?まさかあの神々しいシルエッティングは!?お慕い!♥おしたぉおおおしたぁぁぁ!イブキャアアアアアアア様ァァァ!♥!♥!♥』


 化け物(ハヒル)がこちらを向いて奇声をあげた

 バレた…レイランド姫もギョッとしてる。

 どうしょうかな、それはJソンじゃないから他に当たれって言おうかな…


『今からお尋ね者のJソンを暗殺する所ですぞぉぉぉ!!ご笑覧あれ!』


『ヤメロ!ヤメロオオオオオオ!ギャッ!』


 ハヒルがチェさんの股間を膝で潰した、勢いて片足がもげた…酷い…


 魔王軍の幹部はお尋ね者とか、そういうレベルじゃねーだろ…そもそも軍の中に突っ込んで押し倒すのは暗殺じゃねーし…てゆーか暗殺術を教えるふりしてCQC教えてたとは、言えなかった…後、そんなスプラッターなモノは笑いながら見ない。


「イブキ様…どういう事…ですか?説明を…」


 レイランド姫が俺の腕を力強く掴んできた…オイオイ、お嬢ちゃん…俺に手を出したら火傷するぜ(諦め)

 

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